第36話 試食してもらった
まあともかく、これで麦とワイバーン周遊カードは済んだので、あとは醤油とビールだ。
「それと……実は、今まで収穫してきた作物を使って、二つほど開発した商品があるんだが。良かったら、さっきの部屋にでも戻って試食してみてくれないか? 売り物になりそうかどうか判断してほしい」
俺は二人にそう提案した。
今回開発した商品――特に醤油の方は俺やヒマリの口には合ったものの、この世界の人にも受けるかどうか不明だからな。
キャロルさんと、せっかくなので鑑定士さんにも試食してもらって、反応を見たいのだ。
ウケが良ければ増産を検討するし、そうでなければ個人使用にとどめたいので、今後の栽培計画を立てる上で参考にしようというわけだ。
厳密には俺が開発したというよりは、前世の食品を再現しただけなのだが……まあこの世界の人々にとってはどっちも変わらないだろうから、細かいことは気にしない。
「え……マサト様、作物を育てるのみならず食品開発までやっちゃってるんですか!? いったいどこまで手広くやるつもりなんですか……」
「職業柄、お主の作るものとなるとなんでも興味が湧いてしまうが……儂も食べてよいのか?」
キャロルさんは俺が食品開発をしたこと自体にも驚いたようだが、二人とも試食には前向きな様子だ。
「もちろんだ。売り物になりそうかどうか判断してほしいからな。ちなみに片方は調味料、もう片方は飲料だ」
「そうか、それは楽しみじゃわい」
そんな会話の末、試食をしてもらえることが決まる。
俺たちはさっき2740万イーサを受け取った部屋に戻ることとなった。
せっかくあんなに美味しかったんだし、ウケが良いといいな。
そんな期待を抱きつつ、倉庫を後にした。
さっきの部屋に着くと……早速俺はテーブルの上に皿を用意し、その上に刺身の切り身を盛り付けていった。
そして小皿に、醤油を少し出す。
「こ、これが調味料、ですか……? なんというか、独特な匂いですね……」
独特、か。それは良い意味か、悪い意味か?
「でも、甘辛いっぽいおいしそうな匂いです!」
どうやら食前の段階では、割と高評価のようだ。
「ほう……この香りの元である物質には、癌に効く効果があるのか。味云々以前に、健康食品としても需要がありそうじゃな……」
かと思うと、鑑定士は早速この醤油を鑑定したようで、そんなことを呟いた。
……マジか。この醬油、癌に効くのか。
一応自分でも鑑定してみると、「香味成分であるウルトラフラノンには強力なDNA修復効果があり、癌に効く」とか出てきた。
「あー、まあマサト様が開発した食品なら、それくらいのこうか普通にありそうですよね」
おい、俺も言われるまで気付かなかった効果だぞ。
普通に納得するな。
しかしまあ……これからは収穫物だけでなく、加工品も一応鑑定してみた方が良さそうってことは分かったな。
もしかしたら、ビールにも何か特殊効果があるかもしれない。
まあそれは一旦置いておくとして、まずはとりあえず刺身を食べてみてもらうことにした。
「抗ガン作用はとりあえず置いておいて、魚の切り身をこの調味料につけて食べてみてくれ」
そう言うと、二人とも一口目を口に運んだ。
最初はマグロからいくようだ。
口に含んだ瞬間……二人とも、何か衝撃を受けたかのようにカッと目を見開いた。
そのまま数十秒間、彼らはただゆっくりとマグロを噛むだけで、一言も発さない。
その静寂を最初に突き破ったのは……キャロルさんだった。
「こ、これ一体何なんですか。刺身がこんなに美味しく感じられたこと、今まで人生で一度もなかったんですけど!?」
……そういえば、この世界の人って普通どうやって刺身を食うんだろうな。
「今まではどんな風に食べてたんだ?」
「塩レモンとか、塩オリーブオイルとかが主流ですね。が……これだけは断言できます。今後この調味料が流通すれば、確実にこの食べ方が主流になります!」
「儂も同感じゃわい。この味付けはまさに革命。生身の魚とこれほどまでに相性の良い調味料は、他にないじゃろう」
聞いてみると、一応キャロルさんが他の食べ方を紹介してくれたが……それだけでなく、二人とも満場一致で醤油が最高だとのお墨付きをくれた。
良かった。
だよな。刺身はこの食べ方に尽きるよな。
「他のも食べてみましょう」
「じゃな。儂はこのイカをいってみるぞ」
「いいですね、私もそうします」
続けて二人が食べてみることにしたのは、クラーケンのようだ。
またもや、口に入れてからしばらくの間静寂が続く。
「……これも良いですね。プリプリしててすごく美味しいです!」
「この調味料の凄さもさることながら、イカ自体も高級品のようじゃな」
クラーケンにも満足してくれたようだ。
「ちなみにこのイカ、どこで入手したんですか?」
「ヴィアリング海だ」
「またまた。あの海は氷が分厚すぎて、漁ができないことで有m……まさか」
産地を言うと……キャロルさんの手が止まった。
それから数秒して、キャロルさんはおそるおそるこう聞いてくる。
「あの……もしかして、マサト様自身がヴィアリング海で漁をした、とか……?」
「そうだぞ。ちなみにそのイカは、海氷を割ったらいきなりクラーケンが襲ってきたから返り討ちにしたんだ」
「「く……ククククラーケン!?!?」」
種族名を言ったところで、二人の叫び声がシンクロした。
「た……確かにクラーケンの切り身じゃ。高級品っぽい見た目じゃとは思ったが、まさか刺身までそんなとんでもない代物じゃと思っとらんかったから、鑑定せなんでおったら……」
「なんでそんなナチュラルに、伝説の魔物と渡り合える戦闘力があるんですかね……」
「歯ごたえよくておいしいだろう? これからも定期的に獲ろうと思っている」
「あの、クラーケンって一応災害級魔物の部類なんですよ。そんなちょっとした高級食材みたいなノリで言われたら、調子狂いますよ……」
……そんなもんなのか。
ヒマリが「見つけれてラッキーですねー」みたいなノリだったから、でっかい高級食材くらいにしか思っていなかったのだが。
まあどんな扱いの魔物だろうと、倒せる以上これからも獲るつもりに変わりはないがな。
だっておいしいし。
などと考えつつ、二人にはワカサギとアジの刺身も食べてもらった。
「ふう、ごちそうさまでした。本来だったら高級料亭とかでしか食べられないようなものを試食できて、人生一の幸せです」
「鑑定士冥利に尽きるわい」
結論から言うと……醤油は、大当たりと断定して良さそうだ。
これは増産決定だな。




