神も仏もない世界(前編)
僕は刑務所が好きじゃない。
鉄格子や職員しか出入りできない扉が沢山あって、火災が起きたら逃げられない。
脱獄でも異世界でも構わないから、僕をここから出してほしいです。
もし、異世界に召喚されているなら、その後どうなったか知る方法を開発しないといけないのではないかな。
やりっぱなしはよくない。
検証、改善をするべきだ。PDCAだっけ? なんか、研修で習ったやつ。
僕はやっていたよ。
火をつけて、燃えた後。現場を観察して、次に活かしていた。
ちゃんと空き家を選んでいたのに、ホームレスが入り込んでいたんだ。運が悪かったな。
不法侵入、不法滞在は駄目でしょうが。
異世界召喚される漫画を読みながら考える。
僕は火の魔法が使えるようになりたい。絶対に。
選べるなら、二つ目は風魔法かな。
急に眠気が襲ってきた。
授業中や電車の中で訪れる、あの気持ちのいい眠気だ。
ふわりと体が浮いた感じがした。
「え、なんで?」と戸惑う声が聞こえた。
目を開けると、すごい美女が目の前にいた。少し光っていて、たぶん女神とかそんな感じ。
起き上がって、女神(?)と見つめ合う。
眉をしかめて、すごく嫌そうな顔をされた。
「どうしてかしら。
今までは正義感が強かったり、お人好しだったり、感じのいい若い子が呼べたのに」
「あ~、そういうの困るんで。
あなた神様ですか?
つまり、この近辺で起きた行方不明はあなたのせいで、誘拐犯という自白ですか」
おほ、今の台詞、ちょっと弁護士っぽいか?
ぎろっと、睨みつけられましたぞ。
全然、神々しくないなぁ、この人。
「他の世界が困っているのよ? 助けようと思うのが普通じゃない?」
う~む、なんだかクレクレ女子みたいな理屈でござるな。
「それを助けるのが神様なのではありませぬか?」
「むぎぎぃ」
ハンカチを噛みだしたぞ。
なんとも漫画チックな反応をする神様だ。
あんまり有能じゃなさそう。
「まあ、魔法とか特典をつけてくれるなら、異世界に行ってもいいよ」
話していても埒があかなそうなので、話を進める。
「とりあえず、火の魔法は必須だね。できる?」
一番大事なことだからね。
「……できるけどぉ」
お前はギャルか。ふてくされるな。ちゃっちゃと仕事しろや。
地球人を異世界に送るときに膨大な魔力を与えるので、向こうで活躍してほしいということだ。
定番の鑑定とか収納魔法とかを、思いつく限り盛り込ませた。
「それではサービスに、最新情報をお教えしよう。
――日本は弱肉強食の戦乱の世に突入した。
正義感が溢れる漢は戦場に散り、人の良い人間は利用され騙され、もう生き残ってはおらん。
残念だったな。ふははははは」
アニメのナレーションを思い浮かべながら、芝居をしてみせた。
「そ、そんなぁ……」
駄女神はうろたえて、いいリアクションをした。人がうろたえる姿はいいね、実にいい。
うむ、余は満足じゃ――と、心の中でつぶやきながら、僕は転生した。
ん? 転生?
――僕は、見知らぬ世界で、赤ん坊になっていた。
言えよ! 召喚じゃなくて、転生ってさぁ!
成人の意識が残ったまま、おしめ取り替えられるとか拷問なんだが。
そんでもって、異世界、娯楽がほとんどねぇ。
せいぜい、村祭り。
なんだっけ……「青森の人はネブタのために生きている」だっけ? それくらい準備に力をいれて、楽しみにしている。(行ったことないから、テレビで見たイメージだけど)
でも仕上がりが、あんなに芸術的ではないんだな。日本人のこだわりって、狂ってると言っていい。
あああぁ、もう! アニメとかゲームとかSNSとかないじゃん。
……やっぱ、異世界に飛ばすのは駄目だと思うぞ。
精神的な苦痛。うん、これは立派な無期懲役に値する。
死刑囚が収監されている特殊刑務所だって、小説や漫画は読めたのに。
僕は早々に文字を習い、本を読んでこの世界のことを勉強した。
魔法は七歳になるまで使ってはいけないらしい。
六歳の頃、祭りの前日に鶏小屋を焼いた。
僕のことを虐める子の家だ。走るのが遅いって、蹴飛ばされた。気に入らないなら、放っておいてくれればいいのに。
準備で忙しい大人の目を盗んで、魔法じゃない火を使う。
炭をバレないように運び、鶏小屋の藁の上に置くだけ。
暴れる鶏と、必死に消火しようとする大人たち。
泣きわめく、いじめっ子の暴れん坊。鼻水も垂れてやんの。汚ったねぇ。
ああ、面白い。ざまぁみろだ。
ところが、村長が「祭りの日に、食べようか」って、焼けた鶏を一羽三ペコで売った。
表面は焦げてるけど中は生だから、切ってから祭の焚き火で焼けばいいって。
まるで火事の見舞い金みたいに金が集まり、いじめっ子の父親は再建の目処が立ったと涙ぐみながら挨拶していた。
肉の香ばしい匂いで、いつもの祭より盛り上がってしまった。
面白くない。
もっと、困ればいいのに。
決行する日を間違えたな。
ここは、なんちゃってヨーロッパの世界。
七歳になると女神教会で魔力検査をする。
僕の膨大な魔力量が判明すると、領主が来て養子縁組をすることになった。
両親は素朴ないい人で、居心地が悪かった。
からかっておろおろする姿も、四歳の頃には見飽きていたし。
善人のリアクションって、ワンパターンなんだよ。
というわけで、僕は生まれた村を離れることになった。
村の教会の女神像にしこたま落書きをして、餞別とした。
少年らしい落書きをしてやったぜ。
領主の家族は、まあ、平民なんて本心から歓迎しないわな。
家で一番価値のあるものを鑑定し、盗んで収納魔法で保管した。
もちろん疑われたが、部屋をしらみつぶしに探したって、出てくるはずがない。
換金したらバレるから、ただ盗むだけ。
いつもすました顔をしている連中が、顔色を変えて慌てふためく姿に溜飲が下がった。
なに気取ってやがるんだって、思っていたから。
魔法が面白くてどんどん上達する。
貴族としての教育も受けた。
家庭教師が僕を褒める度に、この家の息子が青筋を立てるのが楽しい。
ますます、僕は勉強に邁進した。
十二歳になったら、魔法で有名な家から縁談が持ち込まれた。
僕は、大魔法使いとなることを期待されている。
……これでいいのか?
いいわけがないよな。こんな温い幸せとか、超つまんねぇ。
困った姿を、うろたえる様を、僕に見せてちょんまげ。




