巻き込んだアティスメチティナ
短編のつもりが連載になってたのでなんとか捻り出しました。余談というか後日談です。あと、婚約破棄=恋愛としてましたが婚約破棄はおまけ要素が強かったのでジャンルを変更します。
「……ミリュシーヌは上手くやったようであるな。さて、アティスメチティナはどうかな?」
「あれはサボり癖がありますからな」
「……然り。あれが世界の中心となっているとは同情してしまう」
「仕方あるまい。我等のような存在は信仰によって力も形も決まる。ある意味力があるからこそああなったのだ」
「アティスメチティナはどうしてああなったのか。あれよりも下の世代には恐れられているが、力だけでは……」
「一応は母になったことで力が増しておりますからな。こう言っては何ですが、外面を取り繕うのは上手いですし」
「……演技の上手い愛の女神か、洒落にはならんな」
愛で演技が上手いとなると浮気や不倫の方にいしきが向いてしまう。
本人は純愛を司っているが本質的なところでは真逆の性質を持っている。
「あの王子はバカだが、本質を見る眼は持っていたようだ」
それだけにバカなのが非常に惜しまれる。
「今は……人間になっているようだな」
呟きと共に憐憫の眼差しを向けられる元王子。女神の呪いを長期間受けていた魂がすぐに浄化されることはない。今世も難しい恋をしている様子が伺える。
「平民が王族に恋をするか」
「しかも、同性」
「本当に呪いは解けたのですか?」
「それは間違いない。魂の習慣だろう」
「まあ、十回ほど輪廻を繰り返せば解消される程度だ干渉の必要はあるまい」
「干渉と言えば、アティスメチティナにやられたものの後始末はどうなりましたか?」
「あれは実に厄介だった」
「元々学院には未熟な存在しかいないから、その親と言っても大したものはほとんどおらん。それでも数が多ければバランスが崩れる」
「カバーは出来るが、上位存在が干渉しすぎると戻った際に反発が起きかねん」
結果として、上位存在は一時的に力を与え維持をするための神員を増やすことにした。ただ、これはあくまでその場しのぎなので、期限が来たら元に戻る力ではある。思惑として時間稼ぎと与えられた力に慣れて力そのものが向上すれば儲けものといったところ。ほとんどの存在は力が戻った時には本来の力を忘れるだろう。
「地上は多少混乱するだろうが、それも長くて数百年程度。まあ、異常気象によるものなどと勝手な解釈をして終わりじゃろうて」
「数名でも力に溺れず、鍛錬を続ければ良しとすべきか。ミリュシーヌの謹慎が明けて同じことが繰り返されては堪らんからな」
「「「然り」」」
「……謹慎といえば、アティスメチティナはどうなりましたか?」
「あやつには観察日記をつけさせておる」
「また、古典的な方法ですな」
「愛着が持てばよいが」
「……以前も似たようなことをしたことがあったような?」
「その時はその種が滅んだのではなかったか?」
「……考えるのは止めよう。一旦は落ち着きを取り戻しつつある世界だ。またこのようなことがないとは限らんが、見守ろうではないか」
上位存在が諦念の思いでそれぞれの世界に還って行ったあと、当のアティスメチティナは膨大な記録にのめり込んでいた。
「ふんふん、なるほど」
鼻息を荒く見ているのは王子が転生したいた時の記録。恋愛ログだ。
「ほ~、犬や猫といった親しみやすい動物や家畜は比較的、他種族への好意を表すことは容易であると」
読みふけり、時折過去の映像を見ながらメモを取る。熱心に研究しているように見えるが、内容が内容だけに下世話な話である。
この世界で有数の神であることを除けば、問題はないのだが……。
ミリュシーヌは当然のこと、アティスメチティナよりも数世代ほど若い神々は知らないことがある。それはアティスメチティナがかつてはミリュシーヌよりももっととんでもない問題児だったということ。
アティスメチティナは創造神から力を与えられた、名のある神の一柱なのだが、それに驕り、他者を見下すタイプだった。あまりにも酷いと怒った上位存在によって、種を存続させることを命じられたほどだ。
種を存続させるということは子孫を作るということ、そのためには番を増やせばいい。
だからこそ、アティスメチティナは自身の神格が定まるよりも前から、結びつきの重要性を説く神として活動を続け、文明や考え方が神に似ているとされる人族が現れてからはより顕著に愛の神として扱われるようになった。
ただし、元がお仕置きだけにアティスメチティナの愛は純愛よりは偏愛に近い。気に入ったら加護を与え、気に入らなければスルーする。それでも信仰を多く集め、神格を上げる必要があるので国などには積極的にかかわるようになっていた。
そうした活動の結果、誰もが知っている神よりは身近な存在として力をつけたのだ。
神格が上がって仕置きが終わった時、アティスメチティナはきょとんとしており、何が終わったのかもわかっていなかった。
何かに熱中すると周りが見えなくなるタイプだったのだ。
「なかなか興味深い。愛のアプローチにはかような方法もあるか」
いつからか観察日記は研究日誌になり、どうすれば想いは伝わるのかを考察するための資料となっていた。特に興味をひかれたのは被捕食者と捕食者の関係だ。本来は弱肉強食のところをどうやって乗り越えて愛を抱くのかというのは愛の女神として考えさせられる場面だった。
「ちょうどミリュシーヌが誕生の力を得たこと。ならばいっそのこと新種を創ってみるか?」
そこまでいくと上位存在の領域に手を出すことになるのだが、アティスメチティナは考えていない。もはや上位存在など、目障りでしかないと思っていた。
「ミリュシーヌも何を考えておるのか、数千年以上も下界で修業したあやつが今更学院で学べることなどないというのに。修行と言えば、納得するか」
数多の神々を暫く再起不能にしたというのに、一切の反省はない。
それどころか、上位存在に挑まんとする気概。ある意味で上位存在が期待していることであり、やり過ぎを恐れていることでもある。
「誰ぞミリュシーヌを呼んで参れ」
ひと暴れしたアティスメチティナの呼び出しは効果抜群であり、学院は復学してのんびりしようとしていたミリュシーヌを拘束して速攻でアティスメチティナの下へと届け、ミリュシーヌは事態が呑み込めないままに母の命令通りに役目を果たしていった。
そうして、この世界に異種交配の概念が生まれ、他種族の特徴を持って別種となった亜人や別種族の異性を攫ってきては種を反映させるモンスターなども誕生し、上位存在に食い込む力を手に入れるのだが、最終的に魔王のような世界を滅ぼしかねない存在まで誕生するきっかけを作ったことで盛大に叱られることになるのは記されることのない神話の一部だった。




