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ぬすっと物語34 注文

 おいらは食堂のテーブルの上で食事を待つ。


 おいらはそわそわしつつ食堂の中を見た。

 まだ他のテーブルには人はいない。


 壁には何枚も張り紙がある。

 なんて書いてあるんだろ。


<お残しは許しませんで! ムギハト>


 残したら怒られるのかな。

 その次に貼られてるのは料理の名前だ。

 そういえば、前、来た時は、皆あの紙を見て頼んでた。


<オークステーキ定食(近場で取れました)>

<シュウマイ定食(中身は食べてからのお楽しみ)>

<巻き巻き巻寿司定食(切り方は縦でも横でも対応します)>

<石焼きコケッコ定食(黄身が2つあったら当たり)>

<ハムサンドウィッチ定食(ハムにこだわってます。ハムしか挟んでません!)>

<ゴーメンと餃子定食(香辛料は提供していません)>

<檸檬風味にしたかった焼サモン定食(実際、かぼす仕上げ)>

<紫芋のポテトフライ(見た目はアレだが食べたら美味しい)>

<野菜炒め定食(小さな肉も入れていないのでベジタリアンにお勧め)>

<期間限定リンゴジュース販売予定(なぜか中庭にリンゴの木が生えました)>


 いっぱいある。

 説明がわかりにくいけど、いっぱいある。

 お客はあの紙に書かれている料理を頼むはずだから、おいらも選ぼう。


 何にしよう。


 紫芋のポテトフライが美味しいのかな。

 見た目はアレだが食べたら美味しいって書いてる。

 メニューで唯一美味しいって書いてあるから美味しい気がする。


 野菜炒め定食は小さい肉も入れていないのでベジタリアンにお勧め、か。


 !


 はっ、そうだ。おいらって肉を食べられるのかな。

 そもそもおいらは肉食動物なの? 草食動物なの? 雑食なの?


 リンゴとオレンジ色の野菜は食べたから草食動物以上であることは間違いない。

 ここは無難に野菜炒め定食にしておく?


 ん、下にあるのは期間限定リンゴジュース販売予定?

 なぜか中庭にリンゴの木が生えました?


 ……!!


 おいらのリンゴの木の事だ!


 おいらのリンゴの木には、リンゴはなってないからリンゴジュースってやつは販売できないんじゃない?


 でも気を付けよう。おいらのリンゴを狙っている人がいることが判明した。

 先に取られないように、おいらも気を付けておこ。


 おいらが気を引き締めているとアメをくれた女の人が声をかけてきた。


「メニューを見てるけど、何を食べるか決まったの?」


 おいらはこくりと頷く。


「オークステーキていしょく」


「えっ、オークステーキ? リンゴが好きなのよね? あなた、オークのお肉を食べられるの?」


 おいらはこくりと頷く。


「多分、いける。いける気がする」


 おいらはトンと片手で自分の胸を叩く。


「そ、そうなの? お残しをしたらムギハトさんは怖いからね」


 アメをくれた女の人が心配そうにおいらを見てくる。


「食べたことないけど、だいじょうぶ!」


 おいらは自信を持って断言する。

 心配はいらないよ!


「本当に? じゃあ、ムギハトさんに頼もうかしら。あっ、ムギハトさんがこっちに来るわよ」


 ムギハトさんって人がこっちに来ているらしい。

 おいらが振り返ると太い女の人がこちらに来ていた。


 やっぱり、あの太い女の人がムギハトさんって人だった。


「エレメアちゃん、この銀色の小さいのが聖なる獣様なのかい?」


 おいらはちょっと後ずさり、太い女の人から距離をとる。


「ええ。私は前に一度卵に帰るところ見たことがありますし、聖なる獣は食べられますかという相談書もこの子が書いて相談箱に入れた見たいなんです。それにしゃべることもできるんですよ」


 太い女の人が疑わしそうにおいらを見てくる。


「この銀色のが本当にしゃべるのかい?」


 む、おいらがしゃべることができないと思ってるな。


「おいら、ぬすっと!」


 太い女の人がちょっと驚いたように目を見開いた。


「あ、ああ。本当にしゃべることができるんだね。それにしても、ぬすっと? 変な名前だね」


 おいらは腕を組んで首を傾げる。

 おいらは太い女の人を指さして言う。


「おいら、ぬすっと。ムギハトが言った」


 太い女の人が首を傾げる。


「なんだって、私が言ったのかい? あんたみたいなのを見たのは今が初めてだよ」


 おいらは首を振りながらもう一度言う。


「ムギハトが言った」


「ねぇ、どこで言われたの?」


 アメをくれた女の人が質問をしてくる。


「見えない時言われた」


 太い女の人とアメをくれた女の人が、顔を見合わせた首をひねった。


 もう!

 おいらは実際に消えてみる。


「き、消えた」


 太い女の人が手を伸ばして、おいらを触ろうとしてくるので、ささっと避ける。


「今、見えない状態。これでリンゴもらった時に言われた」


「あ、ああ。確かにリンゴがよくなくなっていた時に言ったことがあるよ。それにリンゴがなくなった時、メモと銀貨が置いていかれるようになったけど、アレはあんただったのかい?」


 おいらは見えるように戻って、笑顔で頷いた。


「勝手に持って行かないように、持って行くって伝えた!」


「そうかい。リンゴがなくなってたり、銀貨が置かれてたり、メモが置かれてたりしたけど、あんただったのか」


 太い女の人が大きくため息を吐いた。

 おいらはにこにこ笑いながら胸を張る。


「そんな良い笑顔でやりましたって言われたら、怒るに怒れないね。

 それに聖なる獣様なんだろ。それじゃ、なおさら、怒る事なんてできないさね」


 やれやれといった感じで太い女の人が腰に手を当てた。


「で、ぬすっと様は、何を食べたいんだい?」


 !!

 そうだ! おいらは料理を食べたいんだった!


「オークステーキていしょく!」


 おいらは両手を上げながら、大きな声で食べたいものを伝える!


「オークステーキ定食? あんた、オークステーキなんて食べられるのかい?」


「だいじょうぶ!」


 おいらは胸をとんと叩いて断言した。

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