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ぬすっと物語33 食堂

 おいらはふんすと鼻息を出して両手を握りしめる。


 食堂!


 おいらはこれから食堂に行く!

 ついに食堂で食事ができるんだ!


 おいらはいきおいよく振れているシッポを抱きしめて止める。


「それじゃ行く?」


 アメをくれた女の人の問いかけにおいらはこくりと頷いた。

 アメをくれた女の人の両手がおいらに伸びてくる。


 !?


 おいらは、ととっと後ろに下がり、アメをくれた女の人の手から逃れる。


 何をする気だ?


 おいらは警戒しながら、上半身を左右に揺する。


「抱えていこうかと思ったんだけど、イヤかな?」


 抱える、つまりおいらを捕まえるってことだ。


 ……。


 おいらは信じることにした。

 ただ信じることと抱えられることは違う。


 うん。


「イヤ」


 おいらは一言断った。


「歩いて行く」


 おいらは机の上から飛び降りる。

 部屋の扉に向かいながら、女の人に呼びかけた。


「食堂に急ぐ!」


 アメをくれた女の人も席を立ってこちらに来る。


 ◇ ◆ ◇


 む、そういえば、おいらの姿が見えたままになってる。


 おいらはちらりと後ろを振り返る。


 ここでおいらの姿を見えなくしたら、一緒に食堂に向かっているアメをくれた女の人にも見えなくなっちゃう。おいらの姿が見えなくなったら、いなくなったと思って食堂に行ってくれないかもしれない。


 うん、やっぱり、今は姿は見えたままでいくべきだ。


 おいらはちょっと立ち止まる。


 アメをくれた女の人が先に行った方がいい気がする。


「先に」


 おいらはアメをくれた女の人に先に行くように促した。


「え、ええ。わかったわ。それじゃ私が先に行くからついてきてね」


 おいらはこくりと頷いて、アメをくれた女の人の後をついていく。


 途中で人にすれ違った時は、さっとアメをくれた女の人の陰に隠れる。


 むっふー。


 アメをくれた女の人が先を歩いて行ってくれた方がいい!

 先に行ってもらったおいらはすごい!


 ◇ ◆ ◇


 来た!


 とうとう食堂に辿りついた!

 おいらもこれでご飯が食べられる!


 おいらは食堂に入ろうとしたら、アメをくれた女の人に止められた。


「ちょっと待って。料理長のムギハトさんに話してくるから」


 !?


 なんで!?

 おいらはアメをくれた女の人の顔を見上げる。


「大丈夫だと思うけど、一応ね」


「しかたない」


 おいらは眉間にしわをよせて頷き、呟いた。



 アメをくれた女の人だけが食堂の中へと入っていく。

 おいらは食堂の入り口のところから、こっそりと食堂の中を見る。


 大丈夫だろうか。

 大丈夫だよね。

 大丈夫だよ。


 ちょっとだけ待っていると、アメをくれた女の人が戻ってきた。


 どきどきしながらアメをくれた人の顔を見つめる。


「ムギハトさんがいいよって許可してくれたから食堂に入っても大丈夫だよ」


 !!

 やった!

 おいらは食堂に駆け込んだ。


 食堂の中を見回した。

 まだ人がいない。


 おいらのおなかもぐぅ〜とならないから、まだご飯を食べるには早いのかもしれない。


 おいらはテーブルの前のイスに上る。

 イスの上に立つとテーブルの上に顔が出る。

 テーブルの上に上がっていいだろうか?


 おいらは手と足の裏を見る。

 汚れてる? きれいに見えるけど汚れてるかな。


 ふくもの。

 どこかにふくものはないの?


 きょろきょろとまわりを見るけどない。


 こんな時はおなかの袋だ。


 袋の中にはノートとペンも入っていたんだから、ふくものも入ってるかもしれない。


 おなかの袋の中に手と足をふくものがはいってないかなと思いながら、おなかの袋の中に手を入れてごそごそと探してみる。


 あ、布っぽいものがある。


 おいらはおなかの袋から布っぽいものを取りだした。


 うん、これはきれいな布。


 これで手と足を拭けば大丈夫だ。

 おいらは手と足をごしごしと拭いて布はまたおなかの袋にしまった。


 おし!

 おいらは手と足の裏を見る。

 さっきとあまり変わったようには見えないけれど、ごしごし拭いたからいいはず。


 おいらは両手をテーブルの縁にかけて、ほっと息を吐いてテーブルによじ登った。


 くるんと一回転して、両手を広げてポーズを決める。


 決まった。


 おいらはテーブルの上にちょこんと座り、食事を待つことにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬすっとくん、いちいちほほえましいですね。 ゴーレムさんもそうでしたが、善良な物語で心が安らぎます。
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