ぬすっと物語31 返事が欲しい
おいらはほっぺを両手でむにむにして気を引き締める。
油断はよくない!
ぽしぽしとほっぺを叩いてから、階段下の物陰からゆっくりと顔を出した。
右よし。左よし。
おし。行こう。
おいらはそそそそそと静かに早歩きで移動を開始する。
◇ ◆ ◇
あ、アメをくれた女の人だ。
おいらが建物の中を歩いていると、アメをくれた女の人を見つけた。
箱みたいなものを持って歩いている。
どこにいくんだろ。
おいらは気になったのでこっそりと後をつけてみる。
◇ ◆ ◇
あれ? この先は相談書のところだ。
アメの人も相談箱に相談書を入れるのかな?
おいらが後ろから観察しているとアメの人は相談書ではなく、相談箱に手を伸ばした。
?
おいらは首を傾げる。
じっと見ていると、なんとアメの人は相談箱を開けた。
おいらは口を開けて驚く。
アメをくれた女の人は、持っていた箱みたいなものに相談箱から相談書を移している。
相談書に返事をくれていたのはアメの人?
おいらはアメをくれた女の人をじーっと見る。
相談箱から相談書を移し終わったようで、相談箱を閉めた。
相談書を移していた箱も閉めて、アメをくれた女の人はその場を離れる。
おいらはアメをくれた女の人の後をついていくことにした。
◇ ◆ ◇
アメをくれた女の人は相談書を入れた箱を持って階段を上がり、2階の部屋に入って行った。
おいらも扉が閉まる前にさっと部屋の中に入る。
おいらの姿は今は見えない。できるだけ近づいても大丈夫のはず。
アメをくれた女の人が机の前のイスに腰掛けて、相談書を移した箱を開けた。
一枚一枚、相談書を取りだして内容を確認しては分けているみたいだ。
「あら、これはこの前の相談書と同じ人が書いた質問かしら?」
!!
もしかしておいらが書いた相談書!?
おいらはそろりそろりと机に近づき、よじよじと机によじ登った。
「今度は聖なる獣は食堂で料理を食べられますかとあるわ。どういうことかしら?
ぬすっとというのは名前なのよね」
やっぱりおいらの相談書だ!
返事を書いてくれるのかな。おいらはドキドキしながらアメの人と相談書を見つめる。
アメをくれた女の人は、うーんと首を傾げて、分けていた紙の束の上に置いた。
あ、ああ!?
返事は書かないの!?
アメをくれた女の人は、次の相談書を読み始めた。
おいらの相談書、どうすればいい。
あ、おいらの相談書の上に違う相談書が置かれちゃったよ。おいらの相談に早く返事が欲しいのに。
おいらは分けられた相談書の束の中から、おいらの相談書を束の一番上に置き直す。
おし。これでいい。
おいらが満足して相談書の束を眺めていると次の相談書がまた置かれた。
あぁ、また置かれちゃった。
なんてこった。
おいらはアメをくれた女の人の様子を見つつ、再び相談書の束の一番上においらの相談書を置き直す。
しかし、また次の相談書が上に置かれてしまった。
このままじゃだめだ。
おいらは、おいらの相談書を束の一番上に置き直すのではなく、相談書を入れて持って来た箱に戻すことにした。そうすれば、もう一度読んでくれるはず。
おいらの相談書を箱に移す。
箱の側でドキドキしながら待つ。
もう少し。
もう少しで分け終わるから、またおいらの相談書を見てくれるはず!
アメをくれた女の人が相談書を読み終わり、もう一度箱に目を移した。
「あら、まだ一枚残ってた?」
アメをくれた女の人はおいらの相談書を手に取ってくれた。
「聖なる獣は食堂で料理を食べられますか? ……これってさっき見た相談書よね」
アメをくれた女の人は、おいらの相談書を机の上に置いて、分けた後の相談書の束を見直している。
そっちにはないよ。おいらが元に戻したから。
「うーん、ないわ。確かに分けたはずなのに」
そうそう。だから、そっちにはないよ。
これだよ。この相談書だよ。
おいらの相談書をアメをくれた女の人がもう一度手に取る。
「聖なる獣は食堂で料理を食べられますか? ぬすっと。
これってひょっとして聖なる獣様が自分で書いてるとかないわよね。
だってまだ聖なる獣様は卵の中なんですもの」
うふふとアメをくれた女の人が微笑んでいる。
! そうそう、おいらが書いた!
おいらは卵の中にはいないよ!
おいらはここにいるから、はやく相談書に返事を書いて欲しいんだよ!
おいらは期待を込めてアメをくれた女の人を見つめる。
アメをくれた人が突然ビクッとして、目を大きく見開いた。
?
どうしたんだろう。
おいらは首を傾げる。
「あなたは、この前の……?」
!?
もしかして、おいらが見えてる!?




