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ぬすっと物語30 聞き取り

 おいらは子供達の後を追いかける。

 てててててと早歩きで歩いて行く。


 神殿内は走ったらダメみたいだから、早歩きだ。

 てててててとできる限り急いで追いかけた。


 あっ、子供達が部屋に入った。

 おいらも子供達の後に続いて部屋に入る。


「おはよう」「おはよう」と声をかけあっている。


 おいらも「おはよ」といい教室に入る。


「あれ、だれか今声かけた?」

「えっ、なんのこと?」

「気のせいかなぁ」


 おいらは教室に入ったら中を見回した。

 どうやら、みんな自分の席があるのだろうか、昨日と同じ場所の机に座っている子供が多い。


 おいらの卵と同じようなものか。

 おいらも自分の卵にきちんと帰るからそれと一緒なんだ。


 おいらの席は残念ながらない。

 まぁ、いいや。おいらは昨日と同じように木の棚の上に登り座った。


 木の棚の上で待っていると髪が長い女の人が入ってきた。

 立っていた子供達も席に着いた。

 やはり決まった席があるのか、子供達は昨日と一緒の机にきちんと座っている。


 昨日と同じように髪の長い女の人が、「おはようございます」と挨拶をし、子供達も「おはようございます」と挨拶を返した。おいらも同じようにぺこりと頭を下げる。


 今日は棚から落ちなかった。

 昨日落ちたから今日は気を付けた。

 むっふー! おいらは日々学んでいるからね!


「それじゃあ、授業を始める前にみんなに聞きたいことがあります。

 最近神殿で何か変わったことがあった人は教えてください」


 変わったこと?

 何かあったかな?

 おいらは首をひねる。


「変わったって何かあったかな?」

「あっ、聖なる獣の卵が銀色になっちゃったんだよ!」

「そういえば、銀色になる前にキンキンって神殿内に鐘の音が響いたって聞いたよ!」

「他にあるかな?」

「今日の朝、誰もいないのに声が聞こえたよ」


 子供達が口々に変わったことを話し出す。

 そんな子供達の話しを髪の長い女の人はメモしている。


「先生、なんでそんなことを聞くの?」


 子供の一人が質問をした。

 おいらはみんなに見えないように気を付けながら、静かに木の棚を降りた。

 そーっとそーっと壁際を歩いて黒い板の前まで行く。


 おいらも変わったことを教えて上げよう。

 女の人がメモしている手を止めて子供達の方を向かって話し出した。


 チャンスだ!


 おいらはそーっとそーっと女の人がメモを書いていた前の机の上に登る。


 むふー!

 登り切った!


 おいらはおなかの袋からペンを取り出して、女の人がメモしていた紙に付け足していく。


<おかねがあるへやがたくさんある>


 おいらはちょっと書いたところで髪の長い女の人を確認する。

 おし、みんなに向かってしゃべっているから、大丈夫。

 まだ書ける。


 変わったことと言えば、こんがりされるあやしい光だ。

 おいらは続けてあやしい光のことを書いた。


<あやしいひかりがあるところはこんがりされる>


 あっ、それと、これも教えてあげよ。

 特別な情報!


<りんごはおいしい!>


 おし。こんなところかな。


「そういうわけで、聖なる獣の卵が銀色になった件でいろいろ聞き取りを行っているのです」


 あっ、話しが終わりそう。

 急いでペンをおなかの袋にしまう。


 おいらは変わったことを書き終わったこともあり、そーっと机の上から降りた。

 また壁際を通って、そーっとそーっと後ろの木の棚の上まで戻る。


 むっふぅ。やりきった。

 おいらは満足して額をぬぐった。


「みんなから聞いたこともちゃんとまとめて会議で報告します。他にも気付いたことがあったらおしえてくださいね。……えっ?」


 髪の長い女の人の動きが止まった。

 メモを見てる!

 おいらが書いたこともちゃんと会議で報告してくれるだろうか。

 おいらはどきどきしながら髪の長い女の人の様子を伺う。


「先生?」

「せんせー、どうしたの?」

「えっと、みんな、さっき、この教卓の上に何かいた?」


 髪の長い女の人からの質問に子供達は首を傾げる。


「先生、何言ってるの?」

「何もいないよ」

「いたらわかるもんね」

「ねー」

「そうですよね、何もいなかったですよね」


 ぶぶー、違うよ。

 おいらがさっきまでいて、メモに書いたんだよ!


 髪の長い女の人がメモから目を離し、顔を上げた。

 今はおいらはここにいるから、そこにはいないけどね。

 おいらは木の棚の上で立ち上がって胸を張った。


 すると髪の長い女の人が驚いた顔をした。

 どうしたんだろう。こちらを見ている気がする。


 ?

 何かあるのか?


 おいらは後ろを振り返るが、壁があるだけだ。

 髪の長い女の人がこちらを見て固まっているからか、子供達も後ろを向いた。


 子供達もこちらを見ている気がする。


 ……。

 もしかしておいらが見えている?

 でも、おいらは見えないはずだよね。

 消えてるはずだ。だから、見えることなんてないはず!


「えっ」

「銀色の動物がいた」

「消えたよ?」

「でも、いたよね?」

「うん、いた」


 ……まずい。もしかしたら、姿が見えていたのかもしれない。


 おいらはあわてて木の棚の上から飛び降りた。


 とん!


 華麗に着地をした。

 おし、誰もこちらを見ていない。


 今ならまだ大丈夫なはずだ。


 おいらは、ととととととと急いで部屋から出て行く。


 階段下まで急いで移動して、物陰から辺りを警戒する。


 おし、大丈夫。

 ふぅ。危ない。油断した。

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