ぬすっと物語28 諦めない
今日も起きたら、中庭へと向かう。
おいらのリンゴの木!
おいらはリンゴの木を見上げてリンゴを探す。
てくてくとリンゴの木の周りを歩く。
うーん、リンゴがなっていない。やっぱり、食べたいって思わないとリンゴがならないのかもしれない。
おいらはよじよじとリンゴの木に登り、昨日と同じようにリンゴの木をトントンと叩く。
おいらはリンゴを食べたい。
リンゴの木をトントンと叩く。
おいらはリンゴを食べたい。
おいらの手がきらきらと光り、リンゴの木にその光が注がれる。
光が集まり、リンゴがなっていく。
むふー!
おいらのリンゴ!
まだ緑色だ。
おいらがそのままリンゴを見ていると徐々に赤くなってくる。
むっふー!
いいよ、いいよ!
おいらはうれしくてその場で、ととととと足踏みをする。
ジャンプすると落ちたから。木の上でジャンプはあぶない。
おいらは同じ過ちはしない。
おいらが今か今かとリンゴが赤くなるのを待っていると中庭に何人かが入ってきた。
むむ。
どうしよう。
このままリンゴが赤くなるのを待っていたいけど、見つかってしまうかも。
もしかすると、つかまってそのままおいしくいただかれるかもしれない。
おいらはリンゴをちらっと見て、もう一度中庭に入って来た人たちを見る。
リンゴはもう少し。
人との距離はまだある。
どうすればいいんだ。
おいらはこのリンゴを諦めた方がいいのかと迷う。すると、ふと、おいらの心の中に会ったこともない太ったおじさんがでてきた。
丸い茶色の玉を持った太ったおじさんが、「諦めたらそこで試合終了だよ」とおいらに茶色い玉を渡してくる。
おいらは茶色の玉を持ったおじさんを見上げる。
おいらは思った。
試合って何?
おいらには太ったおじさんが何を言いたいのかはわからなかった。けど、多分、このおじさんは諦めるなって言いたいんだ。
よくわからないけど、わかったよ!
おいらはぎりぎりまでこのリンゴを諦めない!
おいらはがんばれ! と、リンゴを応援する。
はやく、はやく、おいしくなーれ!
おいらの手からリンゴにきらきらが降り注ぐ。リンゴが赤くなってくる。
でもまだだ。まだ早い。
おいらは一歩一歩近づいてくる人をちらっと見る。
くぅ、まだか、まだなのか。
おいらはじりじりしながら、リンゴを見つめる。
枝の上でする足踏みがとととととととと、と早くなる。
おいらの手からきらきらが出なくなって、ようやく、リンゴが赤くなった。
おいらは急いでリンゴを掴む。
あっ、まずい。
足が滑って、リンゴごと枝から落ちる。
おいらはリンゴをしっかりと胸に抱いた。
このリンゴは守らないと。
おいらは背中から地面にびたっと落ちた。
うぅ、痛くはない。
り、リンゴは無事か?
おいらは地面に寝転んだままゆっくりと目を開けて、リンゴを両手で空に掲げる。
むっふー!
むっふー!
リンゴは無事だ!
おいらのリンゴは無事だ!
むふー!
おいらは嬉しくなって、カプリとリンゴにかじりつく。
しゃりしゃり、もぐもぐ!
甘くて美味しい!
もう一口、カプリとリンゴにかじりつく。
困難を乗り越えて手に入れてたリンゴは美味しい!!
困難?
困難!
おいらはおそるおそる後ろを振り返る。
驚いた表情でおいらを見ている人たちがいる。
まずい。
食べられるかもしれない。
見えないところに隠れないと!
おいらはリンゴを抱えたまま、口の中のリンゴをしゃりしゃりと味わいながら、その場を急いで離れた。
人が来ない場所まで来たら、床にぺたんと座る。
ふぅ。危なかった。
おいらは抱えたリンゴにかじりつく。
しゃりしゃり、もぐもぐ。
美味しい。
諦めなかったから、今、このリンゴを食べられるんだ。
諦めなかったおいらを褒めてあげたい。




