ぬすっと物語26 種
夜になり、おいらは自分の卵に帰った。
おいらは考えた。
あのこんがりする罠をどうすればさけられるのだろう。
あんな罠があったら、おいらはあそこに置かれたお金を回収できない。
うーん。困った。
おいらはおなかの袋からリンゴを取り出し、かぷりとかじる。
もぐもぐ。
やっぱり、リンゴはおいしい。
ん?
なんだこれ?
黒いのがある。
今までのリンゴにもあったような気がする。
……。
これってもしかして種?
種は植えれば、芽が出る。
本にそう書いてあった。
芽が出て大きくなったらリンゴになる?
おいらは手に持った種を見つめる。
この種があれば、おいらはリンゴをたくさん食べられる。
ごくりとのどをならす。
おいらはリンゴの種を植えることにした。
どこに植えればいいんだろう。
おいらの卵の中には、この種を植える場所はない。
中庭にこの種を植えてみよ。
おいらは卵のまわりに誰もいないことを確認して卵の外に出る。
おし!
おいらはうきうきしながら、中庭に向かって駆け出した。
◇ ◆ ◇
夜の中庭。
おいらは夜にここに来たのは初めてかも。
夜だから真っ暗だ。
でも、ゴーレムアイを使っていると、夜でも問題なくはっきりと見える。
ゴーレムアイってやっぱりすごい。
おいらは中庭をうろうろする。
どこにこの種を植えればいいのだろう。
うーん、うーんと悩みながら歩く。
大きく育って欲しいから、真ん中に植えた方がいいかな。
他の木から離れているし。
うん、真ん中あたりに植えよう。
おいらは中庭の真ん中あたりをほじほじと穴を掘る。
こんなものかな?
おいらは掘った穴にリンゴの種を入れて、土をかぶせた。
ぽんぽんと手でリンゴの種の上にかぶせた土を叩く。
早く大きくなーれ。
おいらはリンゴの種に願いを込める。
!?
なんだ!?
土がもこもこと盛り上がってくる。
おいらがびっくりしながら見ていると、ぽんっと緑の小さな芽が出た。
すごい……。
リンゴはこんなに早く芽が出るんだ。
おいらは感動して、リンゴの芽の周りをぐるぐると回って見てみる。
ふわぁ。
はやくリンゴがならないかな。
おいらはうきうきしながら、リンゴの芽の周りをぐるぐると歩く。
うれしくなって、自然と手を上げたり下げたりする。
大きくなーれ。
えっさ、ほっさ。
大きくなーれ。
えっささ、ほっささ。
おいらは、ちらっとリンゴの芽に目をやった。
あっ、ちょっと大きくなってる!
むっふー。
おいらは鼻から息を大きく吐き出す。
楽しくなってきた!
もっと大きくなーれ。
両足ジャンプで、ずんずんずーん。
もっともっと大きくなーれ。
地面を両手で叩いて、ほいほいほい。
わぁ。どんどん大きくなってきた。
元から中庭にあった木と同じくらいになったんじゃない?
おいらは、木を見上げて、リンゴを探す。
うーん。リンゴはまだできないのかな。
おいらは両手を上げたり下げたりしながら、リンゴの木を応援する。
伸びろー。伸びろー。
大きくなれー。もっと大きくなれー。
うわわ。
おいらはリンゴの木からちょっと離れる。
……。
リンゴの木がちょっと大きくなりすぎた。
もう、いい。
もういいんだよ!
もう大きくならなくていいよ!
おいらは慌てて、リンゴの木にひしっと抱きつく。
しばらくおいらはリンゴの木に抱きついていた。
うん、リンゴの木の生長は止まった気がする。
おいらはリンゴの木から離れて、上を見上げる。
リンゴの実はまだなってない。
リンゴは1日ではならないのかもしれない。
でも、これだけリンゴの木が大きくなったら、近いうちにリンゴがなるはずだ。
おいらは、うっきうっきしながら、リンゴの木の周りをぐるぐると回る。
うん。
今日はもう遅いから、卵に帰ろう。
寝よ。




