ぬすっと物語23 返事
おいらは次の日も相談書をチェックしてみた。
翌日だからかまだおいらの相談書に返事はない。
うーん、どんな返事が来るのか、ドキドキする。
おいらは掲示されている相談書を見る。
あっ、これって前の続きじゃない?
<相談書>
「挨拶をしたらぎょっとされて走り去られました。嫌われているのでしょうか?(25歳 男性)」
「答 嫌われているかもしれませんが、いつか思いは通じるかもしれません。諦めず根気よく挨拶をつづけてみるのがいいでしょう」
<相談書>
「遠くから毎日じっと見てくる男の人がとうとう挨拶をして来ました。怖くて走って逃げたのですがどうしたらいいでしょう?(40歳 女性)」
「答 事件が起こる前に警備隊の人に相談してください」
これって同じ内容だとおいらは思うのだけど、違う?
でも、回答が正反対だから、別の案件として処理されている気がする。
おいらはきょろきょろと周囲を見回す。
おし、誰もいない。
おいらは以前貼られていた相談書を2枚ベリッとはがす。
今回新たに貼られていた相談書を2枚ベリッとはがす。
おいらは合計4枚外して、相談書を並べて貼り付けてみた。
<相談書>
「気になる人がいるのですが、上手く声がかけられず遠くから見ていることしかできません。どうすればいいでしょう?(25歳 男性)」
「答 まずは挨拶から始めてみてはどうでしょう」
<相談書>
「遠くから毎日じっと見てくる男の人がいて怖いです。どうすればいいかわかりません。(40歳 女性)」
「答 毎日続くようであれば警備隊の人に相談してください」
<相談書>
「挨拶をしたらぎょっとされて走り去られました。嫌われているのでしょうか?(25歳 男性)」
「答 嫌われているかもしれませんが、いつか思いは通じるかもしれません。諦めず根気よく挨拶をつづけてみるのがいいでしょう」
<相談書>
「遠くから毎日じっと見てくる男の人がとうとう挨拶をして来ました。怖くて走って逃げたのですがどうしたらいいでしょう?(40歳 女性)」
「答 事件が起こる前に警備隊の人に相談してください」
うん。ほら、なんか、それっぽくない?
多分、同じ事について相談してるよ。
おいらは並べ替えて貼った相談書を前に満足してうんうんと頷く。
これってどうしたらいいのだろう。
25歳男性とやらはどうしたらいいのさ。
おいらはうーんと頭を悩ませる。
この相談書はどうすればいい?
相談書。
そうだんしょ。
そうだんしよ。
そうだんしょ。
相談書。
そうだんしょ!
そうだんしょ! そうだ、手紙を書けばいいんじゃない!
おいらは25歳男性の相談書に返事を付け足した。
<相談書>
「挨拶をしたらぎょっとされて走り去られました。嫌われているのでしょうか?(25歳 男性)」
「答 嫌われているかもしれませんが、いつか思いは通じるかもしれません。諦めず根気よく挨拶をつづけてみるのがいいでしょう」
「あいてからこわがられています。てがみをかいてだれかにわたしてもらい、おもいをつたえてみたらいいとおもいます(ぬすっと)」
おいらは40歳女性の相談書にも答えを付け足す。
<相談書>
「遠くから毎日じっと見てくる男の人がとうとう挨拶をして来ました。怖くて走って逃げたのですがどうしたらいいでしょう?(40歳 女性)」
「答 事件が起こる前に警備隊の人に相談してください」
「あなたのことがきになっているのです。あいさつをかえしてあげてください(ぬすっと)」
うん。いい答えじゃない?
おいらは相談書にかいた返事を見て、むふーっと息を吐いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あれから毎日相談書が貼られた掲示板をチェックしているけれど、おいらの相談書に返事はない。
もしかして無くしたのかもしれない。
おいらはもう一度相談書を書いて、相談箱に入れることにした。
<相談書>
「せいなるけものはみつかったら、にんげんにたべられますか?(ぬすっと)」
おし。ちょっと詳しく書いたから今度こそ返事があるはず。
おいらは期待を込めて、相談箱に入れた。
ちょっと気になっているのは、おいらが返事を付け足した相談書の続きが貼られていないことだ。
どうなったのかな。
おいらは壁に貼られた相談書を見ながら腕を組んでいると、人の気配が近づいてきた。
おいらは慌てて、ころりとスタイリッシュに机の上から滑り降りた。
どうやら男の人と女の人が来たみたいだ。
二人で相談書を書きにきたのかな。珍しい。
「神殿の人に聞いてもわからないなんてそんなことはあるのかな?」
「誰かのイタズラだったのかもしれないけれど、そのおかげであなたの思いに気付けたのだからありがたいわ」
「そうだね。でも、そんなことを言って君は警備隊の人に僕を取り押さえさせようとしたじゃないか」
「だって、あなたが私の事を好きだなんて思っていなかったし、この最後に付け加えられたお返事もあなたに言われるまで知らなかったのよ」
「うん、でも、僕はこの返事のおかげで手紙を書いて渡そうとしたのがよかった」
「ええ。警備隊の人があなたから出された封筒を脅迫状か何かと思って読みはじめるたのよね」
「ああ、あれにはまいったよ。僕の君への思いをそのまま書いていたから、ちょっと読んだ警備隊の人があわて始めたからね」
「ふふ、あなたも慌ててたわ」
「そりゃあ、あんなに人が集まっている前で読まれたら慌てるよ。でもだからこそ、君に僕の思いを知ってもらえた。そして君とつきあえるようになったんだ」
「こんなおばさんでもいいの」
「君がいいんだ」
「このぬすっとさんにはお礼をいいたいわね」
「でも、神殿の人も知らないっていうから、ここにお礼を書いて貼っておいたら読んでくれるよ」
「そうね」
おいらが返事を付け足した相談書の二人みたいだ。
どうやらおいらの返事は役に立ったみたい。
二人は相談書を相談箱に入れずに掲示板に貼った後、その場を去っていった。
おいらは机の上によじ登り、掲示板を確認する。
<相談書>
「ぬすっとさんのおかげでつきあい始めました。ありがとうございました。」
むふーっ!
おいらはうれしくなって相談書に返事を書き加える。
「よかったです。(ぬすっと)」
おいらもその場を後にした。




