ぬすっと物語20 リンゴ
おいらはアメをガリガリと食べた。
口の中に甘い余韻を残したまま、物陰から、辺りをささっと見回す。
おし、大丈夫みたいだ。
おいらは今見えなくなってるからね。
ぐぅ〜。
アメを食べたけど、あれだけじゃやっぱり足りない。
おなか空いた。
おいらはおなかの袋から、オレンジ色の先の細い野菜を取りだして、がぶりとかじった。
もぐもぐ。
……。
もぐもぐ。
…………。
ごくん。
おいらはそっとひとくちだけ食べたオレンジ色の野菜を袋にしまう。
何かおいしい食べ物がないか探そう。
おいらは物陰から出て廊下をてくてくと歩く。
美味しそうな食べ物があるのは厨房だ。
もう一回行ってみようかな。
おいらはもう一度厨房に向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
厨房に辿りついた。
そっと厨房の物陰から、中を見る。
人が多い。あっ、太い女の人もいる。おいらは厨房の中にそっと入った。
ふぅ。
ドキドキする。
おいらは物陰から厨房の中を見る。
赤い果物はないかな。
おいらは厨房の中にいる人に気を付けながら、赤い果物を探す。
おっと、あぶない。ぶつかりそう。
おいらはさっと身を躱して、さらに厨房の奥に向かった。
箱の中に入れられている物を確認する。
赤い果物はなかなかない。
前はカゴに入ってた。
カゴを探した方が良いかな。
おいらはカゴを探す。テーブルの上に置かれているかも。
おいらはそっと背伸びをして、テーブルの上を覗いた。
じーっと見る。目だけ動かして、カゴを探す。
!!
あった!
おいらはシッポをブンブンと振ってしまった。
あぶないあぶない。
シッポは振っちゃダメだ。
おいらは周りを見て、カゴに近づく。
あった!
あった! 赤い果物があった!
おいらは赤い果物をカゴから、ささっと二つ取り、おなかの袋の中に入れた。
ついでにおなかの袋の中から銀色のお金を取り出す。
カゴの横にそっと置く。
おいらはその場を離れようとしたが、ちらっとカゴを見た。
もう、一個もらっといても良いかな。
おいらはもう一度カゴに近づき、もうひとつ赤い果物を手に取った。
ぐぅ〜。
おいらは手に取った赤い果物をおなかの袋に入れる前に、がぶりとかじる。
しゃりしゃり。
おいしい!
しゃりしゃり。
おいしい!
「な、なんだい? リンゴが浮いてる?」
おいらは突然聞こえてきた声に振り返る。
そこには太い女の人がおいらの見下ろしている。
おいらは太い女の人の顔を見て、全体を見ていくと、その手に銀色の刃物を持っている。
……やばい?
やばくない?
いや、やばい!
おいらは慌ててしまい、食べかけの赤い果物をおなかの袋に入れることができず、落としてしまった。
うー!
ううー!
でも、拾うのはあぶない!
おいらはテーブルの上から、さっと降りて厨房を急いで後にした。
その後、急いで人が来ない物陰まで走って隠れる。
ふぅ。
額の汗をぬぐい、おいらはおなかの袋から赤い果物を取りだす。
赤い果物を丁寧にすりすりして、がぶりとかじる。
しゃりしゃり。
おいしい!
しゃりしゃり。
おいしい!
おいらは赤い果物を食べ終わった。
もうひとつの赤い果物は大切に食べよう。
そういえば、あの太い女の人は「リンゴが浮いてる」って言ってた。
この赤い果物はリンゴっていうのかもしれない。
リンゴ!
おいらはおなかの袋からノートとペンを取り出す。
リンゴ・赤い果物・おいしいと書いて、おなかの袋にしまった。




