ぬすっと物語16 学舎
おいらは中庭から出て、建物の中をてくてく歩く。
けっこう人が増えてきているから、おいらはぶつからないように隅っこを歩く。
おいらは気付いた。
廊下を歩いている人の中には時折、「おはよう」って言ったり、頭をすっと下げる人がいる。
あれがあいさつってやつのはずだ。
多分、「おはよう」って言ってる人がいるから、まだ朝だ。
おいらはうんうんと頷く。
おや、なんかあの部屋に小さな子供達が入っていくぞ。
何があるんだろう。
おいらは小さな子供達が入っていった扉に近づく。
扉はあけっぱなしだ。
扉の側から、そっと中をうかがう。
この部屋は他の部屋とちょっと違う。
机がたくさん並んでいる。
子供はその机のイスに座っている。
机の近くに集まって、おしゃべりしている子供達もいる。
部屋の壁には大きな黒っぽい板がある。
なんだ? この部屋は。
おいらはしばらく部屋の外から観察し、すっと部屋の中に滑り込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
黒い板がある反対側にある木の棚の上においらは登った。
上から見てもやっぱり机がたくさんある。
ん?
髪が長い女の人が入ってきた。
子供達は一斉に机の椅子に座っていく。
おいらもマネして棚の上に座る。
黒い板の前に立った女の人が、「おはようございます」と挨拶をし、子供達も「おはようございます」と挨拶を返した。おいらもぺこりと頭を下げる。
どさ。
いたた。棚から落ちちゃった。
痛くないけど、いたたって言っちゃうよ。
ん? 部屋の中が静かだ。
おいらが部屋の中を見ると、子供達がきょろきょろと部屋の中を見回してる。
おいらが落ちた時に音が出たのかな?
気を付けないと。せっかく姿を見えなくしてるのに、音を立てたら気付かれてしまう。
おいらは静かに棚の上に登った。
「落ちている物もないですし、さっきの音はなんだったんでしょうね?」
こちらに近づいてきた髪の長い女の人が首を傾げながら呟いた。
「せんせー、もしかすると聖なる獣様がいるのかもしれないよ」
「いないよー」
「聖なる獣様は卵の中にいるんだよ」
「でも、鑑定したら空の卵だったらしいよ」
「卵に穴が開いてないから、出られないから、むりむり」
「聖なる獣様は卵の中にいるの!」
「えー、どうなんだろ?」
子供たちがわいわいと騒ぎ出した。
髪の長い女の人が、手を叩く。
「はいはい、皆静かにね」
髪の長い女の人は黒い板の前に戻っていく。
子供達は髪の長い女の人の方を向いた。
「聖なる獣様がいるのかはわかりませんが、今日の勉強を始めますよ。
もしも、聖なる獣様がいるのなら、皆真面目に勉強をしないと聖なる獣様に笑われますよ」
「「「はーい」」」
髪の長い女の人は、黒い板に白い模様を描き、色々と説明していく。
ふむふむ。
おいらは髪の長い女の人の話や、壁に掛かっている模様などを見て、アレが文字だとわかった。
一度文字だとわかると、意味がすっと理解できた。
頭の中に色々なイメージが浮かび上がってくる。
うん、そういうことか。
おいらはうんうんと頷く。
おいらは賢くなった。
「それでは少し休憩を取ります。次の授業の準備をしていてくださいね」
子供達が一斉に立ち上がって動き出した。
むっ。
おいらはさっと棚の上から降りて、部屋の外に出る。
おいらは静かにその部屋を離れた。




