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ぬすっと物語9 うきうき

 おいらが樽の影からじーっと見ていると、食べ物を運び終わった人がこちらをちらっと見た。


 目があった気がする。


 む、なんか近づいてきた。


「なんでこんなところに動物がいるのかしら? 迷い込んだの?」


 動物? こちらに近づいて来る……。


 おいらはおいらの後ろを振り返る。動物なんていない。


 ひょっとしておいらのこと?


 でも、おいらの姿は見えないはず。

 どういうことだ!?


「えっ。消えた……。どういうこと?」


 こちらに近づいてきた人が呆然として立ち止まった。

 もしかして、おいらの姿が見えてた?


 おいらは、念の為、大きな樽の側から離れる。

 ささっと反対の部屋の隅に移動した。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 あぁ〜、おいしそう。

 おいらも食べてみたい。


 ふら〜、ふら〜とおいらはテーブルに近づきそうになる。


 おいらは頭をぶるると左右に振り、必死に踏みとどまった。


 自制心!


 大切なのは自制心!


 両手を上に大きくあげて、大きく深呼吸する。


 すー。はー。すー。はー。すー。はー。


 あぁ、でもおいらも食べてみたい。


 見て、あの湯気!

 ほわほわと白い湯気が出てる!


 赤い果物はしゃりしゃりしてたけど、あの湯気が出てるのはどんな感じなんだろう。


 ……。


 あれ、おいら、赤い果物を食べたけどお金を渡してない。


 これってダメなこと?


 でも、おいらはお金を持ってないし。

 おいらはおなかの袋の中に手を入れて探してみると、なにやら丸い物があった。

 おいらはそれを取り出してみる。


 これは、銀色のお金じゃない?


 なんでおいらの袋の中に入ってるの?


 ……。


 あれか?

 おいらが卵から出た時に袋の中に入ったのかな。


 皆おいらにお金を投げてくれてるのだから、おいらがあのお金を使っても良いのかもしれない。


 うん。多分、あれはおいらにくれているはず。

 だから、このお金はおいらが使ってもいいと思う。


 おいらは銀色のお金を握りしめて、厨房へと向かった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 あった。


 赤い果物の入ったカゴ。


 おいらは銀貨を赤い果物入ったカゴに置いた。


 ……。


 もうひとつもらっても良いかな?

 これだけいっぱいあったら、もう一つもらっても大丈夫だよね。


 おいらは周りを見る。

 誰もいないし、誰からも返事はない。


 おいらはゴクリとつばを飲み込む。

 そっと、丸い赤い果物を手に取った。


 おいら、もう一回しゃりしゃりを食べたい。


 おいらはもうひとつ赤い果物を手に取るとお腹の袋に入れた。


 おし!

 卵に戻ってから食べよ!


 おいらはうきうきしながら厨房を後にした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 おいらがうきうきしながら歩いていると、どんよりした雰囲気の場所に来てしまった。


 静かだ。


 なんで、ここはそんなに静かなんだろ?


 おいらは近くにあった部屋を覗いてみる。

 この部屋にはベッドがたくさんある。


 おいらはベッドによじ登ってみた。

 寝てる。


 たくさんあるベッドの上には寝てる人ばかりだ。


 このしわしわなのはおばあさんってやつかな。

 あっちのしわしわなのはおじいさんってやつのはず。


 おいらがベッドの上で寝ている人たちを見ていたら、部屋の外が慌ただしくなった。


 なんだろ?


 おいらはベッドからぴょんと飛び降りて部屋の外の様子を見てみる。

 あっちの部屋にたくさんの人が入っている。


 おいらも通路の端っこを歩いて近づいてみる。

 部屋の中をちらっと見る。


 この部屋にはベッドが一つしか無い。


 そのベッドの周りをたくさんの人が囲んでる。


 何をしているんだろう?


 おいらは気になってそっと部屋の中に入ってみた。

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