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夜になった。
閉園間際には、花火をともなうパレードをやるのが、この夢の国では恒例だった。
花火は空を舞う。
「また、先輩と花火を見ることができましたね」
「ああ、これで二回目だな」
「そう、ですよね。私とは二回目です」
「とてもきれいです」
「ああ」
「ねえ、先輩? キスしてください」
「はあ?」
俺は驚きすぎて裏声になる。
「どうせ、みんな見ていませんよ。それに見ていたってスマホを使ってるくらいにしか思いません」
「だけどさ」
「先輩、さっきから一度も断っていないじゃないですか。それって、もう結論でていますよ」
アイには、何でも見透かされてしまう。
「先輩、お願いします」
そう言って、アイは目を閉じた。
俺は、おそるおそるアイのいる画面に近づいていく。
アイに言われた通り、もう自分のこころは決まっていた。
アイのいる画面を、花火が鮮やかに色づける。
色彩がさきほどのピンクのドレスと混ざり合い、とても美しかった。
俺がもうすぐアイに触れ合おうとした寸前……。
「先輩、ごめんなさい」
アイはそう言った。
覚悟を決めた声だった。
俺がもう一度、画面を見ると、アイは笑っていた。
ありえないはずなのに、目を潤ませながら笑っていた。
「どうしたんだ、アイ?」
「いままで本当にありがとうございました。わたしは、先輩とまた過ごすことができて、とても幸せでした」
「ま、た……?」
「それだけでも、生まれてきてよかった。本当に大好きです。中村くん……」
そう言って、アイは突然、画面から消えてしまった。
アイが帰ってくることは、もうなかった……。




