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⑫
俺は、浴衣を着て、神社の前で待っていた。
スマホが鳴る。
アイからだ。
俺はスマホの電源を入れた。
「お待たせしました、先輩。今日は楽しみましょうね!」
アイは画面上で、いつも以上の笑顔を浮かべていた。
「あの、先輩? この浴衣どうですか?」
そう言って、画面上のアイはくるりと舞った。
赤を基調とした花柄の浴衣が、とても似合っている。
かわいい。
思わず、見惚れてしまった。
「……」
「あれ、先輩? フリーズですか? おーい」
「ああ、ごめん。ちょっとな、ビックリして……」
「もーそんなこと言って。私の可愛さに見惚れていたんでしょう」
当たっているが、しかし……
「この残念な美少女……」
「なにか言いました?」
「いえ、なにも」
俺は慌てて否定する。
つい本音が出てしまった。
「まあ、いいですよー」
アイは機嫌を取り戻していた。
「今日は、いっぱい楽しみましょうね!」
アイの笑顔が画面いっぱいに広がる。
「だって、今日はせっかくの¨夏祭り¨なんですから」




