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「やっと、バイトが終わったぜ」
俺は、帰宅して一息つく。
夕食は、スーパーで安くなった惣菜を買ってきたので、楽だ。
「そういえば、アイは静かだな」
バイト中は、静かにしていてくれと言っておいたからわかるが、帰宅中は一切登場しなかった。
スマホの充電もまだあるのに……。
気になって、おれはアプリを起動した。
「お疲れ様です。先輩」
画面上のアイは、冷たい表情でそう言った。
なんだか、変だ。
「おい、どうしたんだよ。急に、暗くなって。朝の元気はどうしたんだ?」
「なにか、言うことはないんですか? この浮気者!」
「はぁ?」
【速報:俺氏、出会って間もない美少女AIさんから浮気者認定される】
なにを言ってるのかわからないと思うが、俺にも(以下略)。
「いいですね。モテ男さんは……。美人の同級生兼バイト仲間といちゃいちゃして、鼻の下伸ばしちゃって」
休憩室の一件がどうやら見られていたらしい。
「おまえ、いつの間に……」
「やっと、気がつきましたか。この浮気者」
「だって、スマホの電源は……」
そして、思いだす。
今日に限って、スマホの電源を切り忘れていたことに……。
「さて、懺悔はありますか、せ・ん・ぱ・い」
ひきつった笑顔がとてもかわいい、もとい、怖い。
「おまえ、一体なにをする気だよ」
「先輩を殺して、私も死ぬうううう」
急にヤンデレ化し始めたぞ、こいつ。
「やめろおお。俺を(社会的に)殺して、スマホも壊すなああああ」
よく考えなくても、俺しか損してない。
俺は、そこから二時間必死で謝った……。




