閑話 夢見たもの
三人称視点です。
これでカイナ編は終わりとなります。
「行ってしまいましたね…。本当に優しい方でした」
メイが自世界へと帰った後、カイナは一人そう呟いた。
互いの世界を賭けた戦いにおいて、カイナは自ら負けを認めた珍しい存在であった。
(世界の理が大きく変わるかもしれない。
そうしたら私達の存在も…)
そんな考えもよぎるが、カイナ自身は一番この星を守ることができる選択肢であった。
他の星や、自分達の存在が無くなる可能性もあったが、そもそも隕石衝突によるアナザーレイド代表者の死亡により、世界の管理権限は他へ移譲される可能性が高い。
そう結論付けたカイナは、メイに救援の依頼をし、相手方の創造主にこの先の未来を託すほうがまだ自分達が存続できるかもしれないと考えた。
全ては星を守り、希望が僅かであっても「可能性0%の未来」より「未知数の未来」を選択したのだ。
ーーー
メイと出会う前、既にレイドバトルを二回戦ってきた。その二回の相手に未来を託すこともできたが、そうしなかった。
一回戦の相手であるどこかの星のものは、突然カイナ達のシェルターに現れた。多分人間の女性であろう彼女は出会ってすぐにこう言った。
『€¥・○! #\¥|☆=+〒スキル☆:…%<〆*!』
相手が知らない言語でそう言った。スキルという言葉だけが聞き取れた。
口調や表情、そしてあからさまに小銃のような武器を突きつけてきたので、話し合う余地はないと判断した。
すぐにカイナは自分のスキルで小銃を暴発させ、他の機械達に警戒体勢を取らせた。
銃の爆発により右手を失った人間は、泣きながら何か喚いていたが、彼女よりも遥かに大きい機械によって押し潰され、すぐに静かになった。
相手方のスキルと管理権限の移譲がなされたが、カイナはスキルの受け取りを断った。特段必要としないものばかりと判断したためだった。
二回目の相手は背中に翅のあるカイナよりも倍以上大きな人のようなモノだった。
顔は虫だったが。
その相手も突然カイナの世界に現れたかと思うと、手当たり次第に近くの機械達を食べ始めた。
離れた場所にいたカイナは、緊急警報の知らせを受け急いで相手がいる場所へ向かったが、そこにあったのは無惨な姿に変わった仲間が転がっていた。
怒る訳でもなく、労働力を失ったことと、このまま放置した場合の危険性が高かったため早急に駆除を開始した。
相手は強かった。厳しい環境にも耐え、カイナの攻撃も効果が薄かったため、『全機指揮』を使って、数の力で無理矢理抑え込んだところを、カイナが首を撥ねて漸く勝つことができた。ただし、カイナ側にもかなり被害が出た。
少ない仲間をまた失ったことで、カイナは自分の使命を達成できない可能性を考えた。
(次の相手も、同様なのだろうか)
そんな考えが、二回のレイドバトルを通してカイナの記憶回路に刻まれた。
ーーー
そんな中、三回目のレイドバトルの相手は、過去に自分達を生み出した人間という種族にそっくりだった。
ただそれだけで信頼できないため、カイナはカンシチロウを先に遣わせ、相手を探らせた。
カンシチロウからの報告では
【危機感が薄く、簡単な罠にもかかりそうな人間。ただし、話し合う余地はありそう】
とあった。
実際にカイナはメイにあった時、相手の様子や会話、表情から
(この人間であれば簡単に殺せる)
と結論付けた。
簡単に殺せるのなら話し合うだけ話してみようと考え、メイにこの星の現状を伝えた。
結果として、メイと話し合ったことがケンオウセイを救うことに繋がった。カイナの判断は正しかったのだ。
(こんなにも誰かを頼りにしたのは初めてだ)
人工知能をもつカイナにとってほとんどのことは自分で解決してきた。誰かに頼ることなく。
しかし、絶望しかない未来が待っている状況で、簡単に殺せそうな人間が、こんなにも頼もしく感じたことはなかった。
メイの励ましの言葉や会話に、胸の辺りがじんわりと温かくなるような感じがした。
カイナには『信頼』という人間らしい感情が生まれていた。そしてメイから『信頼』『希望』『喜び』『悲しみ』といった様々な感情を教えてもらった。
カイナにとってそうした感情を教えてくれたメイは、自分を造り出した人間と同等か、それ以上に感謝の気持ちを持った。
人の感情を持つ、どの世界においても珍しい人工知能のカイナは、例え自分の星が無くなったとしても最期は満足していただろう。
ーーー
カイナのいるシェルターに突然、
『君がカイナ君だね?』
そう呼びかけるメディテイカムの声が響く。
「そうです」
どこからか声が聞こえてくるのか分からないのに特に動じないカイナ。
『君たちの世界は僕が管理することになってね、今から全てやり直そうと思うんだ。残念かい?』
「確かに残念です。こうしてメイさんと守ることができた星がありますから。ただ、この世界が無くなったとしても後悔はありません。私は目的を達成できませんでしたが、少しでもこの星の役に立つことが出来たと考えます。そして、この世界の行末についてはメイさんと同意の上ですので、意見するつもりはありません」
メディテイカムはハハッと笑った。
『君の思考回路は既に人間と同様だね!とても素晴らしいよ!この世界は既に元の管理者がもう何千年と放置していたから創りなおしても良かったんだけど、君と話したらそんな気は失せたよ』
「…ということは、この世界は無くならないということですか?」
『そうだね。僕が見届けてあげるよ。カイナ君達の行末を。生命も物もいつかは消える。でも消えるまでに何が出来るのか、僕は興味があるのさ』
「私はこの星を元の生命体が住めるようにする。ただそれだけですよ」
『難しいことを簡単に言うね』
「出来ると『信じて』いますから」
『ふふふ、そうかい。それじゃあ期待しているよ。助けてほしい時は呼んでくれ。気分次第では応えるよ』
「結構です」
カイナはあっさりそう言った。その一言に笑うメディテイカムの声は徐々に消えた。
「せっかく頂いた機会ですから、何がなんでも使命を全うしますよ」
そうカイナは呟いた。
ーーー
カイナとメイが、ケンオウセイを隕石衝突から回避させた日から200年余り。
砂漠だらけで砂嵐が吹き荒れた星は今、その星の半分以上が緑に覆われた。
カイナの人工知能は感情を得たことで凄まじい速度で発達し、様々な土地の改良や植物の改良、生命体の産生に貢献した。
スキルは無くなったが、機械達からの信頼も厚く数千年かかると思われた星の改革はたった200年程度で完了しようとしていた。
海や森林の中では様々な生物が生まれていた。
その中に人間もいた。
ただし、衣類は身につけておらず、類人猿同様の生活を送っている。
人は木の実を食べ、雨風凌げる洞穴で寝起きし、時には猛獣に襲われ死ぬこともあった。
カイナは指令された通りのことが出来たと確信していた。
(高度な知的生命体は我ら機械のみで十分で、人間には一定以上の知能や能力は与えない)
こうした考えのもと造られた人間は、動物そのものだった。
(これで争いが起きることはない。全ての生命体が、星の生命が尽きるまで絶えることはない)
こうしてケンオウセイは、カイナ達人工知能による完全統制がなされ、生命体は過度な発展を遂げることなく、争いもなく、星の命が尽きるまで、その営みは続いたのであった。
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