危機が去った後で
空の大半を覆っていた隕石は徐々にではあるが小さくなっていった。
それは、隕石がこの星から遠ざかっていることを意味した。
「まだ油断はできませんが、とりあえず隕石の衝突は回避できそうです。
メイさん、本当にこの星を助けてくださってありがとうございます」
そうカイナが私にお礼を言った。
「本当に良かった…。ようやく上手くいった」
私はポツリとそう漏らした。
シロマちゃんが小さく声をかけてくれた。
「メイ様、大変お疲れ様でした。この後は少しお休みなさってはいかがですか?」
「もちろんそうするよ…。もう後がないから心配だったけど、これなら多分大丈夫だよね」
そう、私はカイナと初めて会った日から、この隕石衝突まで今回で3回目の時間逆行をしていた。もう後が無かったのだ。
初めて隕石と対峙した時は、有効な手段が思いつかないままに挑んだため、魔法などを駆使するが全く歯が立たなかった。
一度目の時間逆行では、カイナと協力して、仲間を増やして魔法を使ってみたが結果は同じに終わった。
二度目は重力操作の魔法で隕石を押し返すことを閃き実戦してみたが、力が弱く隕石はじわじわと接近してきてしまったため失敗に終わった。
三度目、この星を丸ごと味方にすることでようやく隕石を押し返す力が生まれた。
ただ、途中押し返す力が弱ったときに
(これでもダメなのか…)と少し弱気になってしまった。
しかし、カイナは諦めていなかった。
自分自身を、仲間を奮い立たせ、強い想いを乗せた魔法はついに隕石を押し返した。
こればかりは私ではどうにもならなかった。
彼女の想いと、仲間への言葉、そして信頼がこの星を救ったのだ。
「私は何も…。ただカイナの強い想いが皆を勇気付けて、ケンオウセイを救ったんだよ」
「そんな…。メイさんが居なければ、破滅の運命は変わらなかったのです。本当に感謝しています」
「そうだな。また運命を変えてくれたな」
カンちゃんが器用に二本の後ろ脚で立ち上がってそう言った。
「カンシチロウ?あなた何を言っているの?」
「運命が変わっちまったから、また仕事が増えたじゃねぇか。まぁ今回はそれも折り込み済みで考えていたから、そんなに手間でもないがな」
カンちゃんは女性の声を発している。
すると、カンちゃんの身体がもこもこと盛り上がり形を変えた。
「面白いものが見れるかと期待して、こうして近くで見ていたが…。また死に損なったな小娘」
ブラウンの髪に真っ青な肌の美人は、つまらなさそうにに言い放った。
「イムマニプラ様…!?」
「カンシチロウ!?どういうことですか!?カンシチロウは私の部下で、もう何百年と共に過ごしています。しかしこうした変身能力はなかったはず…!」
カイナは目の前の事態に混乱しているようだ。
「なぁに簡単なことさ。時の神である私がそう造られればいいだけ。最初から『カンシチロウ』は私だった。それだけだ」
「そんな…。カンシチロウ…」
よく分からないが、運命の神はこうなることがわかっていて、カンシチロウとして生まれたということか?
いずれにしても、カイナはずっと昔からカンちゃんと過ごしてきた。それが偽物だったと言われればショックも受けるだろう。
「ほう、人工物にも悲しむ気持ちがあるのか。物珍しいな。ここの世界も訳がわからぬほうに進んでいるな」
「お言葉ですが、カイナは人工物かもしれませんが、生命として今を生きています。彼女が大切にしていた部下をなくした気持ちは本物です」
運命の神の言葉に怒りが湧く。
「ふむ、まぁどちらでも良いことよ。
それよりもメイ、貴様はしぶとい。隕石を落としても死なぬとはな」
「私を殺すために、この星ごと破壊しようとしたのですか!?ふざけるのもいい加減にして下さい!」
「ふざけてなどおらん。本気で貴様を殺すつもりでいる。何故貴様だけが運命に抗える力を持っておるのだ」
「前にも言いましたが、私は大切な人を守りたいだけです。そしてこの星も私の大切なものになった。それが理由です」
私の性格上、多少でも関係がある人は出来るだけ助けたい、力になりたいと思ってしまうのだ。
カイナ達だって同じこと。友達が死ぬのを黙って見てなんていられない。
「まぁなんだっていい。こんな珍しいやつはそうそういないからな。また楽しみにしているぞ。ハハハ!」
笑いながら運命の神はフワッと浮いて消えた。
「メイさん、今の方は…」
「イムマニプラ、運命と時の神様だよ。
私はもともと自分の世界で事故によって死ぬはずだった。でも創造主様に救われてね、代わりにアナザーレイドの代表者として戦うことになったの。
だからカイナ、私のせいでこの星が巻き込まれてしまって本当にごめんなさい」
「いえ、メイさんが謝ることではありませんよ。遅かれ早かれ、この星は何もしなければ滅びる未来でしたから。
カンシチロウのことは、なんと言ったらいいか分かりませんが、胸の辺りが熱いです。もう会えないとか過去の記憶が沢山蘇ります」
「本当にごめんなさいカイナ…。カンちゃんもいる未来が良かったよね。カイナが悲しむ気持ち、私もわかるよ」
「悲しむ…これが悲しいという気持ちなのですか?なんというか、とても辛いものですね…」
感情がまだ豊かでないカイナにとって、大切な部下を失ったことで悲しみという感情がしっかりと芽生えたらしい。
良いのか悪いのかは分からないけど…。
「メイ様、もう一度カンシチロウを作り直すことを提案してはいかがですか?」
「ううん、シロマちゃん。もし完璧に作り直したとしても、記憶やそれまでの関わりを覚えていなければ、それはもう別のものになってしまうと思うの。
もし私が大切な人を亡くして、同じ人を作り直したとしても、その人を亡くした人と同一には見られないと思う」
「そうでしたか。出過ぎた真似をしました。申し訳ありません」
「ううん、励まそうとしてくれたんだよね。ありがとう、シロマちゃん」
せっかく皆が助かって、これからこの星の未来が始まるところだったのに。
こうして、私の第16世界での星を救う戦いは、全員助かったがカンちゃんだけは失う結果となった。
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