お金稼ぎ
その日、式典が終わった後、お金がない私はとある方法でお金を稼ぐことを考えた。
『腕相撲 一回500ララ 私が負ければ、一日なんでも言うことを聞きます』
そこらへんにあった木板に黒の石でゴリゴリ書いて看板にした。
ララはこちらの世界の通貨の単位。
1ララ=ほぼ1円くらいの認識だ。
屋台の食べ物の値段や、服装の値段から、そう推察できた。
幸い、式典が終わってもお祭りムードはまだまだ健在だった。
そこで一計を案じて力比べをすることにした。
(…シロマちゃん、私の筋力向上ってどれくらい強いのかな?)
『そうですね…。試してみるのが一番かと思います。そうそう負けることはないと思いますよ。スキルの熟練度は上がっていますし、身体操作の精度も向上しておりますので』
シロマちゃんに太鼓判を押してもらい、力比べでスキルの性能を試すことにした。
というか、目の前の屋台で美味しそうな匂いにどうしても我慢出来なくなってしまったのだ。
(あの、地球で言うイカ焼きみたいなの食べたい)
もちろん性格にはイカではない。
イカのような何か(以後イカ)を醤油っぽいもの(以後醤油)で味付けし、火で炙ったものだ。
香りは最高にお腹を減らしてくれる。
イカから滲み出る独特の海の匂いと、香ばしい醤油が炭に落ちる度、白煙とともになんとも言えない香りが屋台の周りに立ち込める。
(イカ焼き食べたいイカ焼き食べたいイカ焼き食べたい)
数日、携帯食料しか食べてない私は、こんな味が濃そうなものをどうしても食べたくなってしまった。
そこでお金を稼ぐことにした。
最初は誰も寄ってこない。
冷やかしで
「どうせ男に取り入って金を巻き上げるための口実だろ」
とか
「こんな勝ちが見えたものに金払うなんて馬鹿馬鹿しい」
と言われた。
しかしここで酔った中年のおっさんがやってきた。
「なぁに?なんでも言うことぉ聞くのかぁ?ふへへ!それならちょっとおじさんに付き合って貰うぜ!夜が楽しみだぁ!」
といって、500ララをバン!と台に叩きつけた。
「いらっしゃいませ、ご利用ありがとうございます!確認ですが、腕が痛くなったり、しばらく使えなくなっても大丈夫ですか?」
「…だぁはっはっはっ!!お嬢ちゃん、面白い冗談をぉ、言うもんだ!負けるわけがねぇからぁ問題ないだろぉ!はっはっ!」
「わかりました。それでは遠慮なく」
樽を台にして勝負となる。
割とマッチョなおじさんと手を組み膝を置く。
知らないうちに冷やかしも含めた十数人が、面白いものが見れると周りを囲んだ。
そのうちの一人が審判役を買って出てくれた。
「しかしお嬢ちゃんよぉ、このおっさんは去年まで現役の傭兵やってたんだぜ。痛い目見る前に止めといたほうが…」
「ご心配頂きありがとうございます。でも私こう見えて結構腕に自信あるんですよ?それに絡んでくるおっさんの扱いもそれなりに得意ですし」
病院にいたらこんなおっさんの相手なんて日常茶飯事だ。
腕自慢、金自慢、肩書き自慢、過去の栄光自慢…挙げればキリがないくらい、おっさん達は大体何か自慢するのが好きだ。
そんなおっさん達を、ある時はおだて、ある時はポッキリ心を折ってやった。
そう、状況に合わせておっさん達をコントロールして治療に向かわせていたのだ。
…ちなみにおっさん達の自慢を聞いたあと、心が折れるような話をするのが私の悪い癖だったりする。
手を組んで分かるが、このおっさんは言うだけあってかなり力があるようだ。手の握りで力量は分かる。多分相手も(小娘風情が)くらい思っているだろう。
ま、そう思っていられるのも今のうちだからねー!
「では、よーい…始め!!」
審判の掛け声で互いに手に力が入る。
ちなみに私は開始までスキルの発動をしていない。
組んだ時点で相手を油断させる算段だ。
開始とともに筋力向上発動。
見た目では分からないが、今私の右腕はゴリゴリのマッチョの腕より筋肉の質が上がっている。
それに耐えられるよう足腰腹筋にも筋力向上をかける。
余裕で勝てると思っていただろうおっさんの表情が曇る。
(なんでぇ、びくともしねえじゃねぇか…)
おっさんの顔が赤くなってくる。
「ぬうぅぅ…」
唸るおっさん。
「はぁあああ!」
力を込めるおっさん。
しかし私の右腕は微動だにしない。
「おーいゲラン!しっかりやれ!」
「そうだそうだ!盛り上げたいのはわかるが、時間をかけ過ぎだ!」
周りからおっさんことゲランへのヤジが飛び始める。
「ゲランさん」
「な、なんだ小娘ぇ!」
「ありがとうございました!またお越し下さい!」
ダァーン!という音とともにゲランの腕を樽に叩きつけた。
一瞬、場が凍りついたように静かになる。
後、
「おいゲラン!なーにやってんだ」
「そうだこんな小娘相手に優しすぎるんじゃねぇか?」
など、周りから批判の声が上がる。
ヤジが飛んでくる中、
「じゃあ次は俺だ」
とゲランよりも若い、これまたマッチョ系男子が名乗りを上げた。
「いいですけど、お代は1000ララです。今ゲランさんから貰った500ララを合わせて、あなたが勝てば賞金は全てお渡しします」
「よし!乗った!!」
次は若マッチョと対峙する。
「では、よーい…始め!!」
ダァーン!!
若マッチョの腕を樽に叩きつける。
「なんだなんだ貧弱者と優男しかいねぇなぁ!」
髭面のマッチョというより力士に近い体型の男が勝負を挑んでくる。
「次はあなたですか?お代は2000ララ、私勝った時の賞金は4000ララです」
こんな感じでどんどん賞金を釣り上げていく。
「では、よーい…始め!」
今度はまた暫く耐えて(フリをして)
ダァーン!
髭力士の腕を樽に叩きつける。
これを見た周りの人達はやや引いている。
(こんな小娘が?)
(なんかの奇術でも使ってるのか?)
(先の3人はヤラセか?)
様々な憶測がヒソヒソと飛び交っている。
聞こえてますよー皆さん!
「さぁ、賞金は倍々になっていきます!今勝てば8000ララですよ〜」
まぁまぁの大金になってきたため、引いてる人もいるが、所詮小娘と挑んでくるものは後を絶たない。
ダァーン!
ダァーン!
ダァーン!
…
ーーー
「さぁ!今私に勝てば51200ララですよ〜!お代は25600ララ!」
全然負ける気がしない。
気づけば、数十人だったギャラリーもかなりの数に膨れ上がっている。
そして徐々に挑戦者の数も少なくなってきた。
賞金も日本円換算で5万円となるとそれなりに大きい額である。
そんな中一人の若者が名乗りを上げた。
「私がやろう」
甲冑姿の人が目の前に現れた。
ということは騎士団の人だろうか。
「うん、これじゃ動き辛いな」
と言いながら甲冑を外していく。
腕と肩の部分の金属を外し床へ置く。
そして頭の部分の甲冑を外すと…
そこにレイドバトル対戦相手の『アルツア』と思しき顔が現れた。
ちなみに私は腕相撲、紙くらい弱いです。




