王国内へ
夜の闇に紛れてアトジュニ王国の城壁を見上げる。
昼の間に散歩がてら、見回り兵がどこにいるかサラッと観察しておいた。
警備が手薄なところを狙って、侵入することを決めた。
身体強化を使って壁を登ろうと思う。
しかし…
今ままで誰かの敷地に侵入したことなんてない私は、とんでもなく緊張していた。
(見つかったらどうしよう…)
と弱気になってしまう。
「いざとなったら、目撃者の記憶改変を行えば大丈夫ですよ」
シロマちゃんが穏やかでないことをサラッと言う。
ただまぁその一言に少し安心した自分がいた。
「ありがとうシロマちゃん」
こうして人生初、不法侵入を開始した。
夜になると警備の数が少なくなった。
兵士達はランタンと槍を手に、城壁の上を気怠そうに歩いている。
彼らとて、この高さの壁を登ってくるものなんていないと思っているのだろう。
敵の侵入を防ぐと言うより、遠くの異変を察知する役割に近いのだろうか。
「今日はちょっとあったかいな」
「そうだな。見回りが終わったら、一杯どうだ?美味いのが手に入ったぞ」
「お、いいねぇ」
過敏な耳に、サボる気満々の兵士達の会話が聞こえてくる。
この後、見回りをした後、一杯引っ掛けるらしい。
どの世界でも、監視の目がないとサボるのは変わらないなぁ。
…かく言う自分も暇な夜勤の時は仮眠時間を増やしたり、おやつパーティをしているから彼らを責めることは出来ないが。
見回り兵達が歩き始めたのきっかけに私は城壁にへばりつく。
城壁は石造りのため遠くから見れば分からないが、間近で見ると凹凸がある。
手と足の筋力を上げ、少しの出っ張りを利用し壁をよじ登る。
登る途中で下を見る。
…見るんじゃなかった…
見上げた時と実際に登って見ると高さの感覚というのはこうも変わってくるのか。
まだ半分くらいの高さしか登ってないのに、かなり高く感じる。
う〜、怖いぃぃ
ボルダリングくらいは2、3回友人とやったことはあるけど、命綱はあるし、明るいし、登るところが示されていた。
でも今はそれより高い位置で命綱もなく登っていることを考えてしまい怖くなってしまう。
でも、ここまで来たからには早く上に行くしかない。
10分くらいだろうか。なんとか城壁の上まで登ることができた。
幸い兵士達はまだ戻って来てないようだ。
少し街中を見渡す。
夜であるため、明かりが灯っている家は僅かだ。
ただこの国で一番大きい建造物が所々に明かりを灯しているため、そのシルエットが浮かんでいる。
「あれがアトジュニ王国のお城かぁ」
城を中心に家々が立ち並び、その一番外側が今立っている城壁であることが分かる。
所々、家が途切れた部分があるのは、そこが大通りになっているからだろうか。
「この中に初戦相手がいるのか」
「そうですね、相手もきっと待ち構えているのではないでしょうか」
条件は公平。アナザーレイドのルールの一つだ。
相手の名前と所属世界、顔は知られているはず。
もう気の抜けないところまで来たと思うと、じわっと手に汗が滲む。
まずは相手を探し出すところからだ。
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