情報収集
「メイ様、言語野の思考加速を行って下さい。この国の言語の文法、よく使用される名詞を述べます」
「へ?」
気の抜けた声が出てしまった。
「どうゆうこと?」
「こちらの言語が分からなければ色々とご不便でしょう」
シロマちゃんは私の頭にこの国の言語を叩き込んでくれた。
記憶保持で忘れないようにする。
「…今、こっちの言葉で喋れてるかな?」
「大丈夫ですよ、メイ様」
シロマちゃんのお陰で、異世界の言葉を喋れるようになった。
地球では他言語はもちろんのこと、日本語すら怪しい時もあるのに…
「ありがとうシロマちゃん」
これで情報収集ができるー♪
とりあえずこちらを遠巻きに見ている人達に声をかけた。
「あの、ここは何という場所ですか?」
「わ!こいついきなり喋りだしたぞ!」
「やっぱり魔物の仲間か!?」
いやいや、違うってば。
「いえ、私とこの白い球体のシロマちゃんは訳あって他の国からやってきました。服や言葉が違うのはそのためです」
「なに!?他の国だって!?」
「どうやってアレを超えてきたんだ!?」
「やっぱり魔物の仲間か!?」
しまった、何やら変な事を言ってしまったらしい。
またも魔物認定されそうになる。
やーもう面倒だ!
私は騒ぐ男性の一人の手を繋ぐ。
また一人、また一人という具合に手を繋いでいく。
「あぁ、わざわざ遠いところから来てくれてありがとう!」
「おーい、みんな!お客さんだぞ!」
男性達は村人達にそう声をかけた。
ーーー
スキル「記憶改変」
直接肌が触れた相手の記憶を一時的に改変する。短時間記憶の部分にのみ発動させることができる。
効果時間は、相手の精神やスキルに左右される。
ーーー
私は異世界へ来る前に特訓したスキルを発動した。
その一つ「記憶改変」は相手に私の記憶=私のイメージや認識を一時的に植え付けることができる。
ただし、効果はそんなに長くない。せいぜい持って1時間が限度だ。
記憶はより古いものは改変しやすい。が、私のスキルは短時間記憶にしか効果がない。
相手の認識を変えたとしても、元の記憶と整合性が取れなくなる部分から綻び、元の記憶に上書きされてしまう。
そのためスキルの効果時間は短い、と考えている。
どれくらいこの村の人達に効果があるかは分からないが、とりあえずおもてなしを受けている間は大丈夫そう。
私は、村で最上級のおもてなしを受ける旅人と認識してもらった。
その間に色々と村の人にお願いする。
まず、服を分けてほしいこと。
交換のため、こちらの服を相手にあげる。
これで、他の場所に行っても変な服だとは思われないだろう。
(安いジャージで来て良かった)
我ながらせこい考えだ。
それと現在の場所や村々の名前を分かる範囲で教えてもらう。
「アトジュニ王国に向かっているのかい?お嬢さん、それは中々大変だよ?知ってるだろ?王国に入るためにはお貴族様の許可証か領主様の許可証が必要だよ。持ってるのかい?」
もちろん持っている訳がない。
「大丈夫です、ちょっとした伝手がありますので〜」
適当に返答する。
そうこうしているうちに、村人の一人が
「あれ?最初に来た変な服装のヤツってどうしたんだっけ」
と言い始めた。
どうやら記憶が戻り始めたようだ。
(ヤバイ、早く逃げよう)
「私、皆さんのお心遣いに大変感激致しました!このことは故郷へ帰っても領主様へ伝えておきます。では、私は先を急ぐ旅にて、これにて失礼する」
と焦って言葉の最後のほうが時代劇の台詞のの様になってしまったが、そのまま入ってきた村の門へ速足で向かう。
「ん?」
「あれ?どうして…」
あ、もう時間切れだ。
「シロマちゃん!」
「はい、参りましょう」
速足から全力ダッシュに変更し、村を後にした。
聴力がアップした耳には、
『あいつやっぱり魔物だぜ!俺たちを惑わしやがった!』
『ねぇ見て!大事な服を渡しちゃったわ…代わりに魔物の毛皮が!!』
初めて来た異世界の、初めて会った人達には魔物認定されるという不本意な結果に終わった…
私、魔物じゃなーい!!!
特訓したお陰でいくつかスキルが増えたメイさんでした。




