異空間転移門
シロマちゃんに言われて向かった場所。
それは日本で一番人気のテーマパークであった。
私は今、そのテーマパークのエントランス前に突っ立っている。
「…なんでここに世界に一つしかない門があるの?」
ただただ疑問だった。
「この世界において、一定以上の知的生命体が住う星はまだそれほど多くありません。加えて、門が稼働するためには知的生命体の活発なエネルギーが充填し、かつ多くの個体数を必要とするからです」
「なんだか納得いくような、いかないような…」
「他にも似た場所はありますが、ここ以上に広いと密度が分散し、また人数が少ないと門の稼働には至りません」
…そうですか。
まぁ来てしまったものは仕方ない。
スキルを使って侵入する手もあったが、なんだかそういう犯罪行為をすると、自分が人の一線を超えてしまう気がして、ちゃんとチケットを購入して入園した。
入園口では楽しそうにはしゃぐ子どもとその家族、みんなで写真を撮っている学生、手を繋いで歩くカップルがいる。
アーケード内にはお土産屋が並び、その奥にはパークのシンボルであるお城が見える。
いいなぁ…こういう雰囲気って。
皆、幸せそうな顔をしており、泣いたり怒ったりしている人は見かけない。
シロマちゃんの言う、気分が高揚した人達が集まっているというのも納得がいく。
でも門はどこなんだろう?
シロマちゃんに確認する。
ちなみにシロマちゃんは、その不思議さにより人が集まる可能性があるので、カバンのストラップ役に徹してもらった。
白マリモにしっぽが生えただけのモノだからシンプル過ぎて何とも思わない。
喋らなければ…
「それで、異空間転移門はどこにあるの?」
「はい、既に見えておりますが、あの建物です」
おぉう。まさかのシンボルキャッスルか…
ていうか一番、人が集まる所じゃない?
とりあえず近くまで寄ってみる。
お城を正面にして見上げてみる。
こうしてみると、意外と大きく感じる。
「おっきいよね〜お城」
「実際の高さより大きく感じるのは、人間の視覚を惑わしているからですね。遠近法の錯視を利用しているようです」
夢の世界のようなシロマちゃんが夢のない話をする。
「それで、肝心の門はどこにあるの?」
「もう目の前に立っていますが?」
「へ?」
お城の真下は通り抜けが出来るようトンネルのような通路になっており、沢山の人が行き交う。
その先には、アトラクションを待つ人や食べ歩きをしている人達が見える。
「メイ様、私を手に持って上に掲げてみてください」
「え、恥ずかし…」
「それで門が開きますので」
シロマちゃんが門の鍵となっているらしい。
夢のような国とはいえ、成人女性が一人、お城の前で白いストラップを掲げる姿は、周りにどう捉えられているだろうか。
恥ずかしい気持ちを押し殺してシロマちゃんを天高く掲げる。
すると、さっきまで通路を行き交っていた人達が消え、目の前にシャボン玉ような虹色の膜が通路の入り口に広がる。
「これって…」
「はい、これで異空間転移門が開きました。この奥は既に相手の世界と繋がっております。門が閉じてしまいますので、早く入ってしまいましょう」
シロマちゃんが膜を潜るよう急かす。
この向こうには…
異世界…
恐る恐る、つま先から膜に入り、体全体が膜に入ると、一瞬だけ強い光が刺し、眩しくて目を瞑る。
そして、目を開けるとさっきまでの夢の国ではなく、ただただ草原が広がる光景となっていた。
今日は大掃除でした。
夢と魔法のキングダムは、最近めっきり行かなくなりましたね。




