分岐点 2
ゆっくり向かってくる乗用車を前に、私は考えを巡らせていた。
私が事故に遭うことは決まっている。
事故に遭うということはいくらスキルの力があっても、死ぬ運命は変わらないのでは?
その可能性が少しでもあるなら、身体硬化で車と真っ向勝負は避けよう。
車(運転手)は別に私を意図的に殺そうということではないはずだ。
なら、車を避けてこの場から逃げるのが正解かな。
私は歩道の上で自転車に跨っている。
車は右前方から車線を突っ切って私に向かっている。
左手側は空き家の壁が並ぶ。
左に逃げては車と壁に挟まれる。
前方に抜けても、車もそれに合わせてハンドルを切れば意味がない。それは右手側に逃げても同じことだ。
じゃあ後ろ?
いや、筋力上昇をしたところで人間のマックススピードが暴走する車に勝てることはない。背後から撥ねられて終わりだ。
…車が来られない場所なら?
うん。そこにかけてみよう。
事故に遭う(死ぬかもしれない)運命はどこまでついてくるのか分からない。
この時点で事故に遭わなければ、「事故に遭わなかった未来」は知らないので、どうなるのか不明だ。
分からないなら、その場で判断するのみ。
と、方針が決まったところで、頭が痛くなり思考加速が解除される。
身体強化を施しても、脳の処理能力が限界を迎えれば必然的にスキルは解除される。
スキル練習の時点で分かっていたことなので、心の準備はできている。
思考加速時の頭痛=スキルの解除=全ては元通りのスピードに。
…
徐々に目の前の車がスピードを上げ、また私を目掛けて突進してくる。
私は筋力上昇を発動。
自転車を捨て、空き家の壁へ走る。
車なんて見てられない。
壁の目の前で止まりしゃがみ込み、
「ふっ!」
全力で跳び上がる。
跳び上がった先には空き家の二階の窓があり、その上下に少しだけ指だけが置けそうな部分がある。
窓の下側に指をひっかけて、ぐいっと力任せに身体を引き揚げる。
人が乗れるスペースはない。
身体を丸める格好の私は空き家の壁を思いっきり蹴り、反動で車道側へ跳ぶ。
空中で身体を捻ると真下には車が見え、私が行く方向とは反対へ進む。
直後、
バン!ガシャン!!
と大きな音がなる。
もう視界から車は消えているため状況は分からないが、多分自転車と車と空き家の壁は、それぞれが形を変えたことだろう。
…
空を飛びながら上手く車を躱したことを喜ぶことも束の間、そういえば着地のことを考えてなかった私は、為す術もなく道路に転がった。
…痛覚遮断しておいてよかったよ…
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