試してみよう 2
シロマちゃんが準備してくれた空間でスキルを実際に使ってみる。
試す順番は、
身体操作→記憶保持→時間逆行
の順だ。
時間逆行から試しちゃうと、今日の仕事をやり直さなきゃいけなくなるから、それは後回しにしたい。
「じゃあ身体操作のスキルから試してみようかな。昨日は身体を硬くできたから、まずそれをやってみよう」
目を閉じて身体が岩のようになることを想像する。すごい力で殴られたり切られたりしてもびくともしない、頭から足先まで覆う中世の甲冑をイメージする。
そのイメージを保ったまま、シロマちゃんにまたハンマーになって殴ってもらう。
「メイ様、いきますよ」
ヒュッと白いハンマーが私の腕にぶつかる。
昨日と同様になんともない。
次は足、次は背中、その次は…
結果全身のどこを殴られても、私は痛みを感じなかった。もちろん怪我はない。
「では次は刃物切りつけてみますね。この国の『スパスパホウチョウクン』をスキャンして実体化します」
…『スパスパ包丁君』って
『固いカボチャや分厚いお肉でも…ほら!この通り、力を入れなくてもスゥっと切れてしまうんです!』
〈〈ワァー!スゴーイ!〉〉
『そして見て下さい!全く刃こぼれしてないんですよ!だから研がなくても次から次に…ほら!』
〈〈エー!シンジラレナーイ〉〉
の、あれだよね。お母さん含め、主婦の方々を虜にしている切れ味抜群の包丁。
それを敢えて使うシロマちゃんって…
なんて考えていたら、ふと身体操作のことを忘れていた。
瞬間、白い包丁は目の前まで迫る。
呆気にとられて私が動けないでいると、白い包丁は額の前で真一文字に刀身を払う。
前髪がパラっと数本切られた。
「メイ様、他ごとを考えて身体操作を忘れましたね?身体操作で全身を硬化させていられれば、前髪すら切り落ちることはありませんでしたよ」
私は嫌な汗をかき、息を呑んだ。
身体操作を意識して発動していなければ、直ぐに生身の身体になってしまう。
「メイ様、集中力は持続できそうですか?まだスキルの練習は始まったばかりですよ」
元の白マリモ状態に戻ったシロマちゃんが言う。
「う、うん。シロマちゃん、今わざとやったの?」
「はい、発動する意思がなければスキルは発動しませんので」
そうだったんだ…でも確かに自分の意思で発動の切り替えができなかったら、私の身体は永遠に硬いままになってしまう。
でも、人間の集中力が持続しないことなんて百も承知だ。
何かしようと思ったとき、誰かに話しかけられたら、さっきまでしようとしていたことを忘れることがある。
勉強中、自分は集中しているつもりでも、ついテレビや周りの音に気を取られたり、ペンでグルグル落書きしたりするのも、集中力が途切れている証拠だ。
しかし、これでは戦いには勝てない。身体操作でダメージを軽減できる状態にあっても、他ごとを考えたり、不意打ちや予想もしない攻撃があっては身体操作は維持できない。
例え維持できたとしても戦い自体に集中できないだろう。
どうすれば…
うーん。ずっと頭の片隅で身体操作を忘れないようにする?
どうやって??
忘れないように…する…
忘れない…
!!
「シロマちゃん、スキルの同時発動はできる?」
「可能でございます。ただし、スキル同士で整合性が取れない場合は発動いたしません」
「そっか…。うん!それならちょっと試してみよう!」
今日は風が強く寒かったですね。。
春が恋しいです。




