試してみよう 1
目覚ましに起こされ、少し明るい窓の外をぼんやり見る。
私は普段の通り仕事へ行く準備をする。
朝食を食べ、歯を磨き、簡単な化粧と髪をアップにし、動きやすい服装に着替える。
「行ってきます!」
そうお母さんに言い、家を出た。
自転車で駅まで行き、病院の最寄り駅から徒歩で10分。私の職場である総合病院はそんな場所にある。
…昨日の夢でメディテイカム様は「事故の回避」をするように私に言った。
やはり時間が巻き戻っているだけで、あの事故自体は起こることが確定しているということがわかった。
ならば対策を立てなければ!
職場へ向かう道の途中で、歩きながら考えていると、シロマちゃんがヒュッとスマホから出てきた。
「お困りですか?メイ様」
「わ!ちょっと!いきなり出てこないでってば!」
誰かに見られたら、こんな不思議な空飛ぶ白マリモはいないので興味を持たれてしまう。
「安心してください。現在私はメイ様の許可がなくては、誰かに姿が見えたり声が聞こえたりすることはありません」
「本当に?」
確かに皆、私の方はチラッと見るが、シロマちゃんのあたりに目線は行っていない。
というか、シロマちゃんが認識できないなら、私は独り言を喋っているように見えるんだろう…
恥ずかしい…
あ、イヤホン着けてハンズフリーで電話しているように見せかけよう。
少なくとも明日以降はそうしよう…
それはともかく。
「昨日夢の中にメディテイカム様がやって来てね、少し話をしたの」
「なんと!それは大変羨まし…いえ、光栄なことですね!」
声のトーンが上がったのがわかる。シロマちゃんにとってメディテイカム様は主人だからかな。
こう、なんというか情熱を感じるよ…
「うん、それでね。私が後6日でまた事故に遭うこととスキルの使い方の心得みたいなことを教えてくれたよ」
「そうでしたか。事故による死の運命を変えないといけませんね」
「そうなんだよね。でも何をどうしていいのかイマイチ分からないんだよね」
「メイ様、スキルの技術を上げて事故を回避できる選択肢を増やしてはいかがですか?このままではまた事故による高エネルギーにより生命活動が停止し、スキルのおかげで昨日まで遡ることは出来ますが根本解決にはなりません」
「スキルの技術向上か…。何か思いつくかな?仕事が終わったら手伝ってくれる?シロマちゃん」
「もちろんです、メイ様。またご都合が良い時にお声がけくださいませ」
そう言ってシロマちゃんはスマホに入る。
そうと決まれば、まずは仕事を終わらせよう。
ーーーー
総合病院で働く私は、定時で帰れることが少ない。むしろ残業当たり前の世界だ。
今日も入院、退院、検査や記録、患者のケアや家族の対応などなど、世界の命運が肩に乗っていることなんて吹き飛ぶくらいの忙しさでアッという間に時間が過ぎる。
はぁぁ、疲れたよぅ。
ーーーー
勤務後、誰もいない公園でシロマちゃんを呼ぶ。電話をするフリをして。
「シロマちゃん来てくれる?練習がしたいの」
「はい!かしこまりました」
出てくるやいなや、シロマちゃんは私の周りをクルクル回り出す。
私達を中心にして、光の線が円を描くように地面を走る。そして光の線から六角形のパネルが上や横に拡がり、直ぐに私達はドーム型の空間に包まれた。磨りガラスのようなパネルなので、景色が薄っすらと透けて見えている。
「これは…?」
「スキルの練習場所を設けました。外からも中からも見えませんし、音も聞こえません。時間の進みは通常通りです。また壁は強化されているため多少大きな力が加わっても壊れません」
それなら堂々とシロマちゃんと喋っても、スキル練習で突拍子もないことが起きても大丈夫ということかな。
よし、今日から事故までの間になんとか回避する方法を考えるぞ!
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