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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
9章 旧同盟領包囲戦

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第91話 勇者敗走

「チェックメイトだと! 何を馬鹿な!!」


 レインは罵倒した。

 氷のように冷たい眼差しを向けるヴァロウに対して、レインの薄い青眼は明らかに憤っている。

 歯茎を握りしめ、一瞬自分の中に浮かんだ迷いを噛み潰した。


 思考をはっきりと戦場へと向ける。


 ここで魔族側に逆転の一手はない。

 数の上では、言うまでもなく有利。

 彼らの頼みである海の魔物も無力化してみせた。

 地の利もこちらにある。


 負ける要素は何もない。

 そして、これ以上の問答も不要だ。


 レインは槍を掲げる。

 他の兵士たちに戦闘態勢の合図を送るためだ。


 しかし――――。


 あげようとした腕を半ばで止める。

 不意にレインの前に現れたのは、霧だった。

 視界の中で、おぼろげにそれが映り込んだ時、レインは気付く。


「なんだ……」


 一体、いつからだったのだろうか。


 周りが深い霧の中に覆われていた。

 氷原から向こうが何も見えない。


 不意に湿り気を帯びた冷たい風が吹く。


 それは、臆病風というヤツだろうか。

 レインはおろか、兵士たちの腕を粟立たせる。


 嫌な予感がした。

 突撃の合図をしようとしたレインは、もう1度周囲に目を凝らす。

 だが、すでに遅かりしだった。

 第5部隊はすっぽりと霧に覆われていた。


 その時である。


 強い魔力の流れを感じた。

 レインは前に向き直る。

 小さな舟の上で、ヴァロウが剣を構えていた。

 青白い光を輝いている。


「しまった!! ストームブリンガーか」


 レインの脳裏に、第7部隊の9割を削った悪夢が思い起こされる。

 何よりも、あれはレインの師の技なのだ。

 これ以上、人間に向けさせてはならない。


 レインは手を付く。

 氷の壁を作り出し、兵を守ろうとする。

 だが、一瞬早くヴァロウの剣は振り下ろされた。


「馬鹿な! 速すぎる!!」


 魔法は放たれた。

 が、ストームブリンガーを撃つのに十分な魔力は練られていない。

 故にレインは速いといったのだ。


 レインに向けられたのは、青白い光線だった。

 殺傷能力はない。

 ただ薄く霧がかり始めた氷原の中で、ぼうと光っていた。


「な、なんだ! 人を馬鹿にしてるのか!?」


 レインは激昂する。


 常に冷静沈着で、ロッキンドが命令無視する以外に激怒することがない司令官は、完全に頭に血を上らせていた。

 その豹変ぶりに、他の兵が戸惑っていたほどだ。

 『氷烈の勇者』は、『氷烈の獣』と化していた。


 ジャッと氷原を蹴る。

 兵に突撃の合図をする前に、自分が飛び出していた。



 だが、幸か不幸か……。この行動が彼を救うことになる。



 走り出したレインは気付いた。

 霧の向こうで、何か淡い光が閃いたのを。

 それも1つや2つではない。


 無数だ。


 直後、轟音が轟く。

 霧を切り裂き、出現したのは砲弾だ。

 ちょうどレインの上を通過していく。


 どどどどどどどどどぉぉぉぉおぉおぉぉおおおおぉおおおぉ!!


 いくつもの着弾音が背後で聞こえた。

 爆風が吹き荒れ、海の上に浮かんだ氷原を吹き飛ばす。


「うわあああああ!!」

「ぎゃあああああ!!」

「ひぃぃいいいい!!」


 当然、兵士の悲鳴が響く。

 2000の兵が、抵抗する間もなく四散していった。


 レインはただ呆然と見ていることができなかった。

 慌てて、氷の壁を生成しようとしたが、遅い。

 氷原の半分が吹き飛び、兵がいなくなっていた。

 かろうじて無事だった兵も、海に投げ出されると、海の魔物の餌食となる。


 一瞬だ……。


 一瞬にして、2000の兵がいなくなる。


 生き残ったのは、レインだけだった。


「え……」


 レインは呟く。

 怒りが一気に冷めていく。

 心の中にあった猛火ごと、爆風で吹き飛ばされたかのように、『氷烈の勇者』はただ佇んだ。


 その時である。


 霧の中で巨大な影が蠢いているのが見えた。

 壁のように反り立つ霧を突っ切り、それは現れる。


 一角獣の角のような舳先。

 蝙蝠の羽のように開いたマスト。

 海を蹴散らし、その巨大な構造物は姿を見せる。


 戦艦(ふね)だ。


 しかも、6隻。

 残った氷原と言うよりは、『氷烈の勇者』レインそのものを取り囲む。

 戦艦には砲門が搭載されており、いつでも次弾を放てる用意がされていた。


「そんな……。戦艦だと……。こんなもの一体どこに?」


 レインは声を震わせ尋ねた。


「無論、買ったのだ。うちの商人が格安でな」


 ヴァロウは応える。


 すると、すでに戦艦に乗り込んでいた商人ペイベロはニヤリと笑った。

 その後ろには、残りのルロイゼン城塞都市の領民が、不安そうに戦況を眺めている。

 たった1人生き残った勇者を見て、同情的な視線を送るものも少なくはなかった。


 だが、決してそれを口には出さない。


 同じ人間であろうと、向こうは侵略者である。

 生き残るために戦うことを選択した領民たちは、今1人佇むレインよりも強いかもしれない。


「ふ……。ふふふふ……」


 レインは突然笑い出す。

 気が触れたのだろうか。

 そう思ったが、レインの目はまだ生きていた。


 2000の兵を失い、たとえ単騎となろうとも、レインはまだ戦おうとしている。


 砲門がついた巨大な戦艦が自分を狙っていても、勇者は前を向いた。


「まだ戦うか、『氷烈の勇者』よ」


「当たり前だ! 私は勇者であり、そして第5部隊の司令官だ。兵の仇は、私が討たなければならん」


 声を張り上げる。

 それは明らかに虚勢であった。

 それでもレインは言葉を続ける。


「もう1度言う! 私は勇者だ。勇者は万の軍勢に匹敵する。戦力において、決して私は負けていない」


 その道理は確かにあってるかもしれない。

 だが、それは兵数という意味だ。

 果たして、6隻の戦艦が相手で的確な状況判断であるかどうかは怪しいところだった。


「そうか」


 ヴァロウはただ一言呟いた。

 手を振り上げる。

 その瞬間、戦艦から砲弾が放たれた。


 レインはぼうと見ていたわけではない。


 手を付き、氷の壁を生成した。

 次々と砲弾が着弾する。

 分厚い氷の壁がみるみる削られていった。


 ストームブリンガーですら堪え忍んだレインの氷の壁も、絶え間なく放たれる砲弾の前に押され気味であった。


 しかも、あの時はロッキンドと連携し、氷の中に石や砂を混ぜることによって強度を増すことに成功していた。

 だが、今は氷だけだ。

 石や砂を混ぜた時よりも、どうしても脆くなる。


 巨大な氷壁が哀れに思うほど小さくなっていった。

 レインは能力を使い修復する。

 が、明らかに艦砲の火力の方が勝っていた。


 ついには生け垣ほどの小さな壁になる。


「うおおおおおおおおお!!」


 レインは裂帛の気合いを吐き出した。

 だが、ついに壁が突破される。

 直後、砲弾が自分に襲いかかるのを目視した。


 不意に記憶の濁流がやってくる。

 レインは走馬燈を見ていた。

 そのどれもにも、ロッキンドが映っている。

 怒りを覚えるほどに……。


 レインは目をつぶる。


「すまん……」


 初めてロッキンドに向けて、謝罪の言葉を口にした。


 その時である。


「おらああああああああ!!」


 砲弾が手前で爆発した。

 レインは吹き飛ばされる。

 海に落ちる手前で、レインを受け取る者がいた。


 爆炎と黒い煙が覆われる空に、柿色の髪の青年が視界に入る。


 レインは大きく目を広げた。


「ロッキンド!!」


「色々言いたいことはあるだろうけどよ。とりあえず今は喋るな。舌を噛むぜ」


 ロッキンドはレインを抱え上げた。


 そのまま『爆滅の魔眼』を海に叩きつける。

 その勢いで、空に飛び上がった。

 一気に岸へとたどり着く。


 そこには、残りの第5部隊の兵が待機していた。

 慌てて治癒魔導士が駆け寄ってくる。


「お前、どうして?」


「助けに来たに決まってるだろ」


「す、すまん……」


「珍しいな、レインがオレに2度も謝るなんて」


「き、聞いていたのか! ……わ、私とて礼はいう!」


 レインは声を張り上げ、顔を赤くした。


 ロッキンドはからかうように笑う。

 そして、沖に浮かぶ戦艦を見つめた。


「まさかお前まで敗れるとはな」


「ああ……。敵の軍師はただ者ではないぞ」


「ステバノス師匠を敗っただけはあるか。これからどうする、レイン」


「ひとまず態勢を整える。戦力の半分以上を失ってしまったしな」


「前線軍総司令官に報告しなきゃ、か――」


「忌々しい限りだが、もう我々には手が余る事案になりつつある。だが――」


「退く訳にはいかねぇよな」


「当たり前だ」


 レインも立ち上がる。


 ロッキンドとともに、沖の魔族たちを睨むのだった。


あれ? どっちが主人公だっけ?w


これにて9章は終了です。

次章は短いですが、シュインツ城塞都市攻防戦をお送りします。

ルミルラとベガラスクのコンビをお楽しみ下さい。


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