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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
9章 旧同盟領包囲戦

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第89話 前線軍第5部隊

 突如ルロイゼン城塞都市に生まれた氷原に、風が吹く。

 小さな氷の粒が舞い上がり、雪のように勇者と魔族たちに降り注いだ。


 『氷烈の勇者』レインは静かに槍を構える。

 対するヴァロウは、船底が完全に凍り付いた舟から下り、勇者を睨む。


 すると、笑声が響き渡った。


「かっ――――かっかっかっ!」


 笑ったのは、ザガスだ。

 氷原にこん棒を打ち付ける。

 だが、分厚い氷塊の表面を傷つけるのみだった。


「面白れぇ勇者様だ。まさか単騎で突入してくるとはな。ヴァロウ! あいつはオレ様の獲物にするぞ!」


 ザガスはノコギリのような牙を剥き出す。

 その言葉を聞いて反応したのは、レインだ。

 眼鏡を釣り上げると、鈍く閃いた。


「誰が単騎だといった?」


 瞬間だった。

 氷原を影が走る。

 何かが高速で空の上を駆け抜けていくのがわかった。


 魔族軍の視線が上を向く。


 そこにいたのは、兵士だ。

 正確に言えば前線軍第5部隊である。

 その足先には、レインと同じく橇のような足がついていた。

 下からみると、まるで鋭い刃物のように見える。


 ジャッ、と氷を削りながら、着地する。

 次々とレインの周りに集まってきた。

 どんどん増えていき、気付けば千、いや2千は集まり始めている。


「駐屯兵! 矢で下りてくる兵を狙え!!」


 ヴァロウの指示が飛ぶ。

 ぼんやりと敵が増えていく様を見ていたルロイゼンの駐屯兵は、慌てて弓弦を引いた。

 矢を放つ。


 だが、兵士たちは矢に対応するための訓練を受けているようだ。


 足を動かし、地上から迫ってくる矢を足のブレードで弾く。

 駐屯兵の矢を物ともせず、氷原に下りてきた。


「無駄だ! 私の兵は矢などでは……」


 レインは厳しい眼光を魔族側に向ける。

 だが、すぐに顔色が変わった。


 ヴァロウが風の精霊アイギスを召喚し、魔法鉱石(ミスリル)の剣に込めていたからだ。


 青白い光が氷原を走る。

 当然、レインの脳裏に初撃で受けた昔の師の技がよぎった。


「散開しろ!!」


 レインは叫ぶ。

 兵たちは言われた通り、氷原を滑り、射界から逃れた。


 次瞬、光刃が放たれる。



 ストームブリンガー!!



 圧縮された嵐がヴァロウの得物から吐き出される。

 氷原を抉りながら、一直線に伸びていった。

 一部城塞を吹き飛ばし、城外へと飛んでいく。


 凄まじい威力に、自軍と敵軍から驚声が漏れた。


 青白い光に埋まった視界が徐々に晴れていく。

 空に舞い上がった氷の粒がパラパラと地上に落ちてきた。


 レインはすぐさま顔を上げる。

 こちらの損害を確認した。

 数人飛ばされたようだが、被害は軽微といっていい。


 だが――――。


「レイン様! あれを!!」


「な――――!」


 兵士が指差した方向を見て、レインは言葉を失う。

 巨大な氷の滑り台が先ほどのストームブリンガーによって吹き飛ばされていた。


(これが狙いだったのか!?)


 レインは振り返る。

 ヘーゼル色の瞳に、自分の眼光を叩きつけた。


 一瞬、顔を紅潮させたが、レインはすぐに気を取り直す。

 1つ息を吐き、状況を再確認した。


 氷原に上ってこられたのは、ざっと2000人弱。

 相手の戦力は、邪魔な海の魔物は無力化できたので、駐屯兵と魔族のみ。

 魔族軍は前線軍の10分の1である。

 勝てない方がおかしい。


 レインの状況判断が終わった。

 槍を振り上げ、2000の兵に命令する。


「いつも通りだ。美しく舞え。我が兵たちよ!」


 瞬間、氷原の戦いが始まった。

 兵たちは足のブレードで氷上を蹴る。

 加速すると、駐屯兵たちに襲いかかった。

 むろん、ヴァロウたちや舟の上で戦況を眺めていた領民の方にもだ。


 だが、ヴァロウは慌てない。


「今だ! 出てこい!!」


 ヴァロウは足で氷原を叩く。


 その瞬間、氷原から手が伸びた。

 ぬらりと魚の鱗のような表皮をしている。

 それが、氷原を滑る第5部隊を捕らえた。


 魚人族――サハギンである。


 次々と第5部隊の兵を氷上に引き倒す。

 口開け、その喉元に噛み付いた。

 たちまち人間の悲鳴が聞こえる。


 阿鼻叫喚に、双方の人間が震え上がった。


 それでもレインだけは冷静だ。


「怯むな! 相手の数は少ないぞ!!」


 戦況を冷静に分析する。

 レインの言うとおりだった。

 氷原に現れたのは、氷面近くにいた海の魔物だけだ。

 他は分厚い氷に阻まれ、動けないでいた。


 かなり硬い氷らしく、底まで浸透している。

 これ以上、海の魔物の増援は望むのは難しい。


 最初から己の『氷烈』の力を信じていたレインは、兵たちを鼓舞する。

 第5部隊の兵は、それに応えた。


 レインの第5部隊は元々特殊な訓練を受けている。

 『氷烈の勇者』の力を十分に引き出すため、普段から氷上で動くための特訓を受けていた。


 レインが戦場を凍らし、相手の動きを止めると、氷上を自在に動くことができる第5部隊が襲いかかる。

 その戦術で、数々の魔族たちを完封してきた。

 それがレイン・ヴォア・アバリカンが指揮する第5部隊の真骨頂なのだ。


(いける!)


 レインは確かな手応えを感じていた。

 相棒ロッキンド率いる第7部隊の仇を討てる。

 そう考えていた。


「全員乗船しろ!!」


 すると、ヴァロウは手をあげた。

 戦況にあって、その指示は奇妙な響きを持って、レインに伝わる。


 一方ルロイゼンの兵や領民たちは粛々と命令に従う。

 城壁側から矢を放っていた駐屯兵も、近くで氷に埋もれた舟の上に乗り込んだ。


(奇策か。それともはったり? この状況で何の意味が? 時間稼ぎ……。ならば、ここは前に出るべきか。いや、相手は都市ごと水没させるような策士だぞ。何か策が……)


 ルロイゼン側の動きに、レインは戸惑う。

 こういう時、慎重な勇者はすぐに決断できないでいた。

 側にロッキンドがいれば、今すぐにでも飛んでいき、魔族に襲いかかっただろう。

 それができないのが、レインの弱さだった。


 前線軍第5部隊の兵士たちは攻撃を続行する。

 レインから中止する命令は出ていない。

 氷原を滑り、領民が乗る舟に襲いかかった。


 その時である。


 ヴァロウは赤い石を掲げ、魔力を込めた。

 石の色そのままに光り輝く。

 距離を詰めようとしていた兵士たちは、目が眩んだ。

 バランスを崩し、倒れる兵士が続出する。


「まやかしか!!」


 レインは喝破するが、それは違う。


 どぅぅうううううううんんんんんん!!


 腹の底まで響くような重音が轟いた。

 第5部隊は一瞬何が起こったかわからず、呆然とする。

 煙が皆の視界に入った時、事態を察した。


「爆発!!」


 そうだ。

 ルロイゼンの南側。

 つまりは海側で爆発が起こっていた。

 正確に記するならば、南側の城壁が爆発物によって吹き飛んでいたのである。


「そんなことをして一体――――はっ!?」


 聡明なレインは気付く。


 仮にこの場所が氷原でなければ、南側から水が抜け忽ち兵たちは海に放り出されていただろう。


 だが、今はほとんどの水が凍っている。

 この状態であれば、水が排水されることはない。


 レインは薄く笑う。

 偶然にも敵方の軍師の策略を止めたのである。


「はははは……。魔族側の軍師! 確かヴァロウとか言ったな。残念だったな。この状況で排水はできないぞ」


 レインは珍しく声を上げて笑った。

 大げさにゼスチャーしてみせたのは、兵を鼓舞するためだ。

 敵の策が機能しなかったことを示すためである。


 だが、ヴァロウの表情は変わらない。


「全く……。相変わらず状況判断ができない勇者だ」


 ごとりっ……。


 瞬間、氷原が傾いた。


「なにっ!?」


 たった今、レインは気付いた。

 氷原全体がゆっくりとだが、海に向かって動き出していることに。

 さらに大きく傾いた瞬間、一気に加速を始めた。


 減速機のない巨大な橇が動き出す。

 進行方向は崖――そして海だった。


「くっ!!」


 レインは慌てて手をついた。

 『氷烈』の力を捻り出す。

 現れたのは、無数の氷の柱だ。


「総員掴まれ!!」


 兵士たちは飛びついた。

 だが、対応が1歩遅い。

 瞬間、進行方向の景色は青に染まった。


 海である。


「ひぃぃいいぃいぃいいいぃぃいいいぃ!!」


 妙な浮遊感を感じ、レインは悲鳴を上げる。


 同時に、巨大な氷塊は空を飛んだ。

 それは一瞬のことだ。下を向き、垂直に落下するのだった。


ご許可いただきましたので、ご報告いたします。


おかげさまで

『上級貴族様に虐げられたので、魔王の副官に転生し復讐することにしました』の書籍化が決まりました。

詳細については、こちらの後書き、活動報告、作者のTwitterなどで発表させていただきます。


こうして書籍化が決まったのは、ひとえに読者の皆様のおかげです!

息の長いシリーズにしたいと思っておりますので、今後も応援いただければ幸いです。

よろしくお願いしますm(_ _)m


延野 正行

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