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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
9章 旧同盟領包囲戦

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第88話 氷烈の勇者推参

 ルロイゼン城塞都市城外から、中の様子を窺っていたレインは動けないでいた。


 突然、ルロイゼンの中から大量の水が放出されたかと思えば、次に兵士の悲鳴が聞こえる。

 幸い水は排水口となっていた城門に瓦礫が積み上がり、止まった。

 だが、水に巻き込まれたのは、侵入した兵士だけではない。

 鉄砲水のように飛び出した水によって、城外の兵も巻き込まれてしまった。


 おかげでレインはその対応に追われることになる。


 要救護者を後退させ、いざ城外に侵入しようとした時、ロッキンドが戻ってくる。


「ロッキンド!」


 レインは第7部隊司令官であり、友人であるロッキンドに駆け寄る。


 どうやら大した怪我はしていないらしい。

 その代わり、いつも自信たっぷりの顔が見る影もなく憔悴していた。


「何があった……」


「…………」


 ロッキンドはポツリポツリと説明する。

 仲間の死に激しく憤るわけでもなく、自身に猛省を促すわけでもない。

 ただ淡々とレインに状況を説明をした。


 ルロイゼン城塞都市が水に満たされたこと。

 そこに海の魔物がいて、市民は舟に乗り生活していることを告げられた。


 レインは絶句する。

 そんな大胆な戦術など、見たことも聞いたこともなかったからだ。

 いくらルロイゼン城塞都市が切羽詰まっているとは言え、自分たちの家を水の中に沈めるのだ。

 それにルロイゼンは自給自足を目指した城塞都市と聞く。

 中には、畑もあっただろう。

 海水に浸かれば、例え全部抜いたとしても、影響は残る。


 余程の覚悟と住民の理解がなければできない作戦だ。


 だが、今はそれよりも……。


「ロッキンド……。お前は少し休め」


「………………わかった」


 ロッキンドは頷く。

 誰よりも戦場で活躍したがるロッキンドが、あっさりと休息を承諾した。


 無理もない。

 立て続けに部下の死を目にしたのである。

 十代の若い指揮官には、少々荷が重い損失だろう。

 かくいうレインもまた、その死の重さに耐えきれるかどうかわからない。


「なあ、レイン」


 唐突にロッキンドは話しかけてきた。


「なんだ?」


「お前は、その――――」


「?」


「……いいや。なんでもない」


 ロッキンドは軽く手を振り、救護者と一緒に後退していく。


 『爆滅の勇者』の背中は、まるで幽鬼のように透けて見えた。



 ◆◇◆◇◆



「これで第7部隊は壊滅だね」


 エスカリナは舟の上で例の茶漬けをヴァロウに差し出した。

 横でザガスが器をカンカンと叩きながら、夢中で茶漬けをかき込んでいる。

 気に入ったらしいが、相変わらず箸の持ち方がなってなかった。


 一方、ヴァロウも口を付ける。

 ザガスと違い、上品にサラサラと食べ始めた。


 すると、舟に人魚が近寄ってくる。

 ヴァロウが食べているものを興味深そうに見つめていた。


「あなたも食べる?」


 エスカリナは器に麦飯を盛り、魚の身を混ぜ、最後に魚の出汁をかける。

 今は船上での生活を余儀なくされているため、火が使えない。

 冷や汁だが、それもそれとしておいしかった。


 熱いものが苦手な人魚にとっては、こちらの方がいいだろう。


 エスカリナは食べ方を教えた後、人魚に器を差し出す。

 サラサラと出汁茶漬けを食べ始めた。


 人魚の黒目が大きく開く。

 どうやら喜んでくれているらしい。

 「ぴぃいいい!」と綺麗な声を上げた。


「良かった」


 エスカリナも満面の笑みを返す。


「ところでヴァロウよ」


 ザガスは口元を拭った。

 手の甲に付いた麦粒をペロリと舌で舐め取る。


「これからどうするんだ?」


 ザガスの質問に反応したのは、エスカリナだった。


「半数以上の戦力を失ったのよ。これで退却するんじゃないの?」


「オレ様はそうは思わねぇな」


「どうして?」


「向こうには、まだ勇者が2人いる。あといくらか損失は出したが、第5部隊が健在だ。ざっと見ても、17000は残ってるんだ。数の上では、まだまだ向こうの方が有利なんだよ」


「的を射ていると思うけど、それってザガスの願望も入ってるよね」


「まあな。これで退却しようものなら、オレ様自ら追いかけて勇者どもをぶっ倒してやる」


 どんと舟の底を叩く。

 ぐらりと小舟が揺れた。

 エスカリナは危なく水に落ちそうになる。


 この戦いが始まって、ザガスはいまだ何も戦果を上げていない。

 暴れたくてウズウズしているのは、誰の目から見ても明らかだった。


「ヴァロウはどう思う、ザガスの推理」


「合っていると思う。これで前線軍が退くことはないだろう」


「でも、どうやってここを攻めるの?」


 エスカリナは周りを見渡した。

 現在、ルロイゼン城塞都市は水に浸かっている。

 その中にはうようよ海の魔物がいるのだ。

 今、ここを攻め入るのは、至難の業である。


 ザガスはルロイゼン側が数的不利といったが、海の魔物を合わせればほぼ同数に近い。


 敵が攻めてくるとは考えにくかった。


「わたしが向こうの指揮官なら、まず水を抜きに行くわね」


 エスカリナは城門付近に振り返る。

 そこには大量の瓦礫が詰まっていて、水の流出を抑えていた。


「あそこを爆破して水を抜いてくるんじゃないかしら」


「それはないな」


 エスカリナの推理に、ヴァロウは不合格を与える。

 自信があったエスカリナは口を尖らせ、ヴァロウに噛みついた。


「どうしてよ?」


「次に先頭に出てくるのが、第5部隊の司令官『氷烈の勇者』レイン・ヴォア・アバリカンだからだ」


 ロッキンドは若い。

 自分の部隊が壊滅し、そこから立ち直るのには時間がかかるだろう。

 とすれば、今度はレインが先頭に立って襲いかかってくるはずである。


「それは何となくわかるけど、レインが排水しない理由は?」


「どんな将でもエスカリナが考えたように、城塞都市の水を排出する戦法は当然考える。だが、俺たちは都市を丸ごと水に沈めるような輩だ。むろん、何らかの対策を取っていると警戒するだろう」


「あ。確かに……」


「特にレインという司令官は、慎重な人間だ。その性格だからこそ猪突猛進するロッキンドと組まされ、バランスを取ってきたのだろう。だから、まず間違いなくレインは水を抜いてこない。それに――――」


「それに?」


「水があるという優位は、何も海の魔物だけではないということだ」


 レクチャーを終えると、ヴァロウは器に残っていた茶漬けをかき込むのだった。



 ◆◇◆◇◆



 城外の第7部隊に動きあり!


 城壁に立ち、見張っていた駐屯兵から報告を聞いて、ヴァロウたちは臨戦態勢を整える。

 ヴァロウとザガスは、城壁に集まった。


「なんだ、ありゃ?」


 ザガスが首を傾げた。

 そこにあったのは、氷のオブジェだ。


「いや、違うな。あれは滑り台だ」


 U字を描き、片方の先端は今にも城壁に届きそうである。


「一体、あれで何をしようというんだ?」


「来るぞ」


「あん?」


「簡単なことだ。勢いを付けて、ジャンプしようというのだろう」


「はああああ!?」


 ザガスは声を張り上げる。


 ヴァロウの言う通りだった。

 U字のもう片方に兵が並ぶ。

 足には(そり)の足のようなものを履いていた。


 1番手に飛び出したのは、司令官レインだ。


 ザッと氷を掴むと、走り出す。

 坂道で一気に加速すると、上り坂を上った。

 減速することなく、レインはそのまま空へと打ち出される。

 三段城壁を軽々と越え、そのまま水の中に落下した。


 バシャン、と真っ白な水柱が立ち上る。


 それを見て、ザガスは大笑いした。


「何が慎重なヤツだよ! 思いっきり大馬鹿野郎じゃねぇか!!」


 ザガスの言う通りである。

 氷の滑り台を作り、三段城壁を乗り越えた奇策はなかなかに愉快だ。

 しかし、水の中には万の海の魔物たちがいる。

 『氷烈の勇者』とて、たちまち切り裂かれるだろう。


 その予測通り、海の魔物たちが牙を剥いて、レインに襲いかかった。


 だが――――。


 ギィン!!


 鋭い音が見ていた者の内耳を叩く。

 その瞬間、ルロイゼン城塞都市にした生きとし生けるもの全員が驚いた。

 ヴァロウですら、その眉を動かす。


 たった刹那である。


 ルロイゼン城塞都市に貯められた水が、一瞬にして凍り付いていた。

 たちまちヴァロウたちの前に、真っ平らな氷原が現れる。

 その中にいた海の魔物が、全員凍り付いていた。


「ふん……。調子に乗るなよ、悪魔ども」


 突如現れた氷原に、1人の男が立っていた。

 眼鏡の弦を指で摘まみ、位置を直す。


 『氷烈の勇者』レインが、難攻不落と呼ばれたルロイゼンに降り立った。


たまには勇者を活躍させないとな(ただし、その後はフルボッコやけど)


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そちらもよろしくお願いします。

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