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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
9章 旧同盟領包囲戦

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第82話 2人の勇者

「ほう」


 輿の上でダレマイルは口角を上げた。

 手に書類を掴み、肘掛けに寄りかかりながら眺めている。

 書類は先ほど前線軍の使いが持ってきたものだ。

 前線軍の兵の配置図、各部隊の兵数、さらに指揮官の名前などが記載されている。


 ダレマイルの声に反応したのは、チェッカーだった。


「いかがしましたか、ダレマイル様?」


「いえ……。前線軍もなかなか無慈悲だと思いましてね」


「?」


「見てみなさい」


 御簾から手を伸ばし、書類をチェッカーに渡す。

 馬上で受け取ると、軽く目を通した。


「主力は前線軍第5部隊と第7部隊ですか。司令官は――」


 それまで平静だったチェッカーの顔がこわばる。

 その反応を見て、ダレマイルは「むふ」と笑った。


 司令官の名前にはこう書かれていた。


 ロッキンド・ラー・ファルキス 19歳 男

 レイン・ヴォア・アバリカン  22歳 男


 いずれも若い。

 ロッキンドなどまだ十代だ。

 その2人が、2万の兵を率いる司令官なのだという。


 彼らが若くして、部隊の司令官についているのには、理由がある。

 それは――。


「だ、ダレマイル様……。この2人はもしや――」


「そうです。1人は『爆滅の勇者』ロッキンド。そしてもう1人は『氷烈の勇者』レイン。彼らは2人とも勇者です。その戦力を、前線軍は小さな城塞都市に差し向けたというわけですよ。くふふふふ」


 ダレマイルの目が妖しく光る。

 ルロイゼンの絶望を想像し、愉悦に浸っているようだった。


 チェッカーとしては頼もしいというより恐ろしかった。

 4万の大軍を寡兵でもって相手しなければならないのに、そこに2人の勇者である。


 勇者の戦力は、万の兵と同等だといわれる。

 実質、ルロイゼン城塞都市は6万の兵を相手にするということだ。


「前線軍も思い切りましたね。暇なんでしょうか?」


「現在、最前線は敵の守りが堅く、膠着状態のようです。ここでいくさに勝利し、士気を上げたかったのではないでしょうか?」


「なるほど。その線はありますね。いずれにしろ……。ルロイゼンの皆様にはご愁傷様といっておきましょうか。くふふふふ……」


 ダレマイルはまた妖しく笑うのだった。



 ◆◇◆◇◆



 一方、前線軍第7部隊司令官ロッキンド・ラー・ファルキスと、前線軍第5部隊司令官レイン・ヴォア・アバリカンは、ルロイゼン城塞都市西の平原にいた。


 もう少しすれば、目的地に着くといったところで、ロッキンドは行軍の指示を副官に任せ、隣の第5部隊にいるレインの方へと馬を駆る。


 柿色の髪を(なび)かせ近づいてくる司令官を、レインは眼鏡越しに捉える。すると、あからさまに嫌そうな顔をした。


「ロッキンド、何をしている。自分の部隊から離れるな」


「なんでぇ、藪から棒に……。緊張してるお前の顔をほぐしに来てやったのに」


「無用だ。こちらは4万。向こうは駐屯兵と全市民を合わせても、3000余り。そこにメッツァーやヴァルファルから加わったとしても、5000もいかないだろう。そんな優勢な状況の中で、緊張しろというのがおかしい」


「ふはははは……。ま、確かにな」


 だが、結局ロッキンドはレインの側に近づいてきた。

 馬を並べ、2人は歩き出す。

 彼らは年こそ少し離れているが、昔からの知り合いだ。


 本国には特殊な能力を持つ子どもを育成する機関があり、2人は幼い頃からそこで育った。

 軍に入隊したのも同じ時期で、勇者として認められたのも同時期だ。

 部隊の司令官に任じられ、何故か同じ戦場を共にすることが多かった。


 腐れ縁の中の腐れ縁なのだ。


「全くむなしさを感じる」


「だよな。こんな勝ちいくさ……。やる気が出ねぇよな。いくら最前線が今膠着していてもよ。これじゃあ、弱いものいじめだぜ」


「違うな。私が言いたいのはそういうことではない」


「じゃあ、なんなんだ?」


「なんでまたお前と組まなければならないか、ということだ」


「なんだ、またかよ。いいじゃねぇか。オレたち息ピッタリだしよ」


「ピッタリなものか。私が合わせてやっているのだ。くそ! 今度こそ配置換えしてもらう」


「ふはははは……。オレは却下される方に賭けるがな。ま、とっとと終わらせて、早いとこ前線に帰ろうぜ」


「あまり油断するなよ、ロッキンド。相手はあの『風の勇者』ステバノス先生を倒したヤツだ」


「だったな……。弟子として(ヽヽヽヽヽ)、そこはきっちりと(かた)を付けてやらねぇとな」


 ようやくやる気が出たのか。

 ロッキンドはパシッと両手を叩く。

 レインの方も馬に吊した愛槍を確認した。


 すると、馬上からルロイゼン城塞都市が見えてきた。

 今日は空気が澄んでいて、遠くからでも有名な三段城壁がはっきりと確認できる。


「聞いていたよりも大きいな」


「なんだよ、レイン。ビビってんのか? 大丈夫だよ。オレの『爆滅』の力で、あんな城壁吹き飛ばしてやる」


 ロッキンドは三白眼の目を光らせる。


 その時だった。

 ロッキンドが何かを捉える。


「今、何か光らなかったか?」


 同時にレインも気付いた。

 すると、突然声を張り上げる。


「ロッキンド! 地面だ!!」


「――はいよ」


 まさに阿吽の呼吸だった。

 ロッキンドは訳を聞かず、地面に『爆滅』の力を叩きつける。

 三白眼が光った瞬間、前方の土が轟音と共に捲り上がった。

 大きな砂埃が立ち上がる。

 すかさずレインは手を伸ばした。


 埃に触れた瞬間、一瞬で凍てつかせる。

 氷は蔓のように伸びると、1本の大きな氷柱ができあがった。


 刹那、その青白い光が第5、第7部隊に襲いかかる。

 それは一条の嵐だった。

 部隊をなぎ払うかのように抉る。

 たちまち周囲の兵が吹き飛んだ。


「ぐぅう!!」


 レインは光によって破砕される氷を、崩れた側から精製し直していく。

 友人が苦悶の表情を浮かべるのを、ロッキンドはただ眺めるしかなかった。


 やがて光は収束していく。


「な、何が起こったんだ?」


「わからん」


 ロッキンドとレインが顔を上げる


 ふと周りを見た時、兵士の半数が吹き飛んでいることに気付いた。


「な――――ッ!」


「馬鹿な!」


 2人の勇者は絶句する。


 レインの能力によって守られた第5部隊の被害は少ないが、ロッキンドが離れていた第7部隊は9割以上の損害を出していた。


 4万の兵が、あっという間に2万近く減らされたのである。


「誰だ、こんなことをやったヤツは……」


「気を付けろ、ロッキンド。向こうにも勇者クラスがいるらしい」


 ロッキンドが怒りを滲ませる横で、レインは汗を拭うのだった。



 ◆◇◆◇◆



 ルロイゼン城塞都市の西の城壁。

 そこに立っていたのは、1人の人鬼族だった。

 剣を下ろした体勢のまま固まっている。

 やがてゆっくりと剣を振り上げた。


 ヘーゼル色の瞳が閃く。


 半数を失った前線軍を見ながら、第六師団師団長ヴァロウは吐き捨てた。


「ぼさっと行軍しているからこうなるのだ」


 戦争は始まっている。


 例え、相手が寡兵であっても、いついかなる時も兵は油断してはいけない。

 それは戦争において、基本中の基本だった。


 こうして同盟領包囲戦の火蓋は切られるのであった。


面白い! あれ? これ? もう決着ついたんじゃね?

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