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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
9章 旧同盟領包囲戦

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第80話 作戦会議

『第9章 旧同盟領包囲戦』、早くも開幕です。


書籍版が1月15日発売です。そちらもどうかよろしくお願いします。

 メッツァーに張られた天幕の1つ。

 そこは異様な緊張感に包まれていた。

 長机に地図が置かれ、各都市を示す駒と人員の状況が示されている。


 その周りに集まったのは、魔族と人間たちだ。


 魔族側は、ヴァロウとベガラスクの師団長2人に、第四師団の補佐役と第六師団の武将であるザガス、工兵部隊統括のアルパヤ、そして新しく第六師団の補佐役に加わったルミルラの計6名である。


 一方、人類側はルロイゼン城塞都市領主代行エスカリナ、その御用商人ペイベロ、さらにヴァルファル軍の前線指揮官と、ルミルラの秘書官が加わった。


 第四師団、第六師団の魔族軍。

 ルロイゼン、ヴァルファルの同盟軍。

 こうして幹部が一箇所に集まったのは、初めてことだった。


「なんか作戦会議って感じね」


 明るい声を上げたのは、勿論エスカリナである。

 皆がどこか緊張した面持ちなのに、彼女の方はというと、ドキドキよりもワクワクが勝っているような表情をしていた。


「なんで武将でもないお前がここにいるんだ?」


 茶々を入れたのはベガラスクである。

 紅蓮の瞳を光らせた。

 しかし、エスカリナには通じない。

 下瞼を押さえて、舌を出した。


「わたしだってルロイゼンの領主代行よ。今回の作戦は、同盟全体に関わるんでしょ。わたしがいてもおかしくないはずよ。そうでしょ、ヴァロウ」


 机の中央に陣取ったヴァロウを見つめる。

 集中を高めていたのか。

 それとも思索にふけっていたのか。

 エスカリナの声を聞き、瞼を持ち上げる。


 そして、1つ頷いた。


「エスカリナの言う通りだ。今から話す作戦は、同盟全体に関わることになる」


「ねっ!」


「ぬぅ……」


 エスカリナが「勝った」とばかりにウィンクする。

 一方、ベガラスクは腕を組み、唸った。


「よし、揃ったな。作戦会議を始める」


 ヴァロウの声が響く。

 皆が彼の方に身体を向けた。

 先ほどまで戯けていたエスカリナも真剣な表情で、耳を傾ける。


「次のいくさは防衛戦になる。つまりこの同盟領を守る戦いだ」


「ふん。人間の領地を守る戦いとは……。なんとも奇妙なものだ」


 ベガラスクは鼻で笑う。


 だが、ヴァロウは首を振った。


「ベガラスク、その認識は間違っているぞ。同盟領はすでに我ら魔族のものだ。その領地を守るのは、当たり前のことだろう」


「……ふ、ふん。わかっておる」


 ベガラスクは鼻頭を振り、そっぽを向いた。


 ヴァロウは説明を続ける。

 すると、地図に新たな駒を置いた。

 1つはメッツァーの東――同盟領と本国領の境。

 もう1つはルロイゼンの西である。


「敵の作戦は、2正面作戦だろう」


「東は本国軍。西は最前線から戦力を割いて、挟み撃ちする作戦ですか……」


 ルミルラは感心した様子で、地図という盤面を睨んだ。


 ヴァロウは頷く。


「ああ。しかも、これまでにない兵力を投入してくるだろう。俺は最悪10万規模の大軍勢で攻めてくると考えている!」


「「「「「10万!!」」」」


 唸ったのは主に人類側の幹部である。

 互いに口を開け、顔を見合わせた。


 一方、ベガラスクは「むぅ」と唸る。

 血の気の多いザガスは、ペロリと唇を舐めた。

 魔族側でビビっているのは、ドワーフのアルパヤぐらいだろう。

 褐色の肌を青白くし、ゴクリと息を飲む。


「対して俺たちは第四師団が1500、第6師団が1100、予備兵も合わせたヴァルファル軍が5000余名。全軍合わせて1万もない」


 ヴァロウは駒を起きながら、現実を突きつける。

 肩を竦めたのは、ペイペロだった。


「これは……。逃げ支度をした方が早いのではありませんか? といっても、逃げる場所はどこにもありませんが」


 皮肉る。

 だが、笑うものはいない。

 皆、真剣な表情で盤面に向かっていた。


 やがてルミルラはヴァロウに答えを求める。


「ヴァロウ殿……。――この圧倒的不利な状況をどうするのですか?」


「何か策があるのか、ヴァロウ」


「いつもの手の平の上なんでしょ?」


 皆がヴァロウの方を向く。


 しばらく沈黙した後、ヴァロウは短く答えた。


「ある」


 すると、盤面の味方駒をシュインツとルロイゼンに分けた。


「まずヴァルファル、メッツァーの民をシュインツとルロイゼンに移住させる」


「敵に的を絞らせる作戦ですね。ですが、ルロイゼンはともかくとして、もう1つはヴァルファルでもいいのではありませんか?」


 ルミルラは質問する。


 弟子の答えに、ヴァロウは満足せず、首を振った。


「今回の戦いは、間違いなく防衛戦が主体となる。10万の兵を同盟領から追い出すのが目的だ。そのためには籠城戦しかない」


「それはわかりますが……」


「その点において、ヴァルファルは都市が広すぎる」


 ヴァルファル城塞都市は、人口こそメッツァーより少ないが、広大な土地を持つ。城壁に囲まれてはいるが、東西南北いずれも開けていて、どこからも攻めることができる。

 非常に守りにくい土地柄なのだ。


「だが、シュインツはヴァルファルと比べて狭い。さらに西側は山だ。東と南北の守備に徹すればいい」


 加えるならば、シュインツの城壁は他の都市と比べても高い。

 あそこを攻略できるのは、魔狼族ぐらいだろう。


「メッツァーではダメなのか?。ここには3つの城壁があるぞ」


 ベガラスクは尋ねる。

 しかし、この質問にも軍師は満足しなかった。


「メッツァーの3つの城壁は一見有用には見えるが、第1の城門を抜くだけで十分この都市の機能を停止できる」


 メッツァーを上から見ると、大きな四角、中ぐらいの四角、小さな四角という風に3つの城壁が中央に向かうほど小さくなっていっている。


 その大きな四角である第1の城門を抜けば、籠城した敵は外部との連絡手段がなくなり、やがて自滅すると、ヴァロウは考えていた。


「それにこれは単なる籠城戦ではない。いわば攻めの籠城戦なのだ」


「あくまで敵を同盟領から追い払うのが目的なのですね」


 ルミルラの答えに、ようやくヴァロウは頷いた。


「ね、ねぇ、ヴァロウ」


 そこで手を挙げたのは、ずっと黙って聞いていたアルパヤだった。


「作戦はわかったよ、概ね……。けど、今残っているメッツァーの人たちと、ヴァルファルの人を、シュインツとルロイゼンに振り分けるんだよね。ルロイゼンのことはわからないけど、シュインツは今いっぱいだよ」


「そのことか。すまないが、お前たちには山の中で暮らしてもらう。シュインツの移住地を明け渡してもらうことになるが、ドワーフは山の民だ。それでも構わないと思っているのだが」


「なるほどね。……確かにみんな喜ぶかも」


「あと……。作戦会議の後で指示を出すが、お前たちの半数にはこのメッツァーに来てもらうことになる」


「ええっ! どういうことそれ……。なんか不安だな。仕事が増える予感……。キラビムの開発がますます遅れちゃうよ」


「案ずるな。この戦いが終われば、開発費と開発時間をやる」


「ホント???」


 アルパヤは目を輝かせた。

 だが、それに待ったをかけたのは、商人のペイペロだ。

 こほん、とわざとらしく咳払いした。


「時間はともかく……。使えるかどうかもわからない兵装に、無尽蔵に開発費を出せませんよ。今だってカツカツなのに……」


「いいじゃん。シュインツの武器で儲けているんでしょ」


「儲けている時こそ、引き締めは必要なのです。それにアルパヤさん、あなたは使途不明金が多すぎる。お菓子代って一体何に使っているのですか?」


「え? いや……。それはそのぅ――――」


 ペイペロに攻め立てられ、アルパヤは目を右往左往させる。


 慌てるアルパヤに救いの手を差し伸べたのは、ルミルラだった。


「それを言うなら、ペイペロさん。あなたもですよ。帳簿と出金伝票が合わない時があるんですけど……」


「え? ……なはははは。これは藪蛇だったようですね」


 ペイペロは横を向く。

 ルミルラから視線を逸らした。


 その様子を見て、エスカリナはケラケラと笑う。


「あはははは……。みんな、色々とあるのね」


「エスカリナさん、あなたもですよ。料理開発費ってなんですか? 少しならいいですが、想定よりも2桁ぐらい違うんですけど」


 ルミルラの眼光が飛ぶ。

 エスカリナはぷいっと青い顔を背けた。


「あらら……。こっちも藪蛇だったみたい」


 すると――。


 ガンッ!


 金属を叩くような音が狭い天幕に響いた。

 出所はザガスである。

 ふん、と鼻息を荒くする。


「金がどうだってのは、オレ様にはどうでもいいことだ。問題は、この戦さをどう切り抜けるかってことだろ?」


「う……」

「確かに……」

「ご、ごごごごめんなさい」


 エスカリナ、ペイペロ、アルパヤは謝罪する。

 ルミルラも息を吐いた。

 その横でベガラスクが笑っている。


「くくく……。たまにはまともなことをいうではないか、ザガスよ」


「はっ! それよっか、ヴァロウ。相手を追い払うのが目的なら、どっかで一大決戦があるってことだろ」


 今日のザガスは冴えているらしい。

 いや、彼自身が持つ独特の嗅覚というべきか。

 その答えは的を射ていた。


 籠城戦では、敵を追い払うことは難しいからである。


「ああ。そうだ」


「どこかで10万対8000がぶつかるってわけだ」


 絶望的な差であるはずなのに、何故かザガスは嬉しそうだった。


「いや、そうはならない。何故なら、俺たちには援軍がいる」


「援軍? 今、オレ様たちに味方してくれるヤツなんているのかよ」


 すると、ヴァロウは駒を取り出す。

 盤面のある場所に置いた。


 それを見て、皆が「おおっ」とどよめく。


 さらにヴァロウは詳しい立ち回りを説明した。

 またヴァロウ以外の魔族や人間が声を上げる。

 それはもう悲鳴に近かった。


 ルミルラもその1人だ。


「な! 待ってください! それは危険ではありませんか、ヴァロウ殿」


 ヴァロウの作戦は概ねこうだった。


 シュインツ城塞都市に第四、第六師団の本隊を置く。

 つまり、8000名近くの兵をすべてシュインツに集中させるということだ。


 対してルロイゼンに行くのは、ヴァロウとザガスのみ。

 メッツァーの民の一部を連れていくが、戦力となるものはすべて連れていかない予定だった。


「ルロイゼン城塞都市にいるのは、200名の駐屯兵だけと聞いています。そんな戦力で、予想される5万の兵に対抗できると思っているのですか!」


 ルミルラは詰問した。


 さすがはヴァロウの弟子だっただけである。

 状況をよくわかっていた。


 だが、ヴァロウは平然としている。

 取り乱す元弟子の前でも無表情だった。


「ルミルラ……。もっと考えろ。200の駐屯兵? 確かにそれも戦力のうちだろう。だが、我々には戦力が残されている」


「まだ戦力があるですって」


 ルミルラは盤面を見た。

 しかし、どこにもない。

 これ以上、援軍などどこにもなかった。


 すると、ヴァロウはフンと鼻を鳴らす。

 そして「ここ」と指を差した。

 そこはルロイゼン城塞都市だ。


「一体、どこに?」


「案ずるな。お前が采配するわけではない。それよりも、自分のことだけを考えろ。シュインツの守りは、すべてお前にかかっているんだからな」


「わかっています。……あなたが、退かないことも。だから、ヴァロウ殿」



 必ず生きて帰ってきて下さい。



 ヴァロウは口角を上げる。


「無論だ。俺はこんなところで死ぬつもりはない」


 そしてヴァロウの作戦案の下、様々なことが実行された。


 まずは民の移動である。

 メッツァーの生き残りと、ヴァルファルの民をシュインツとルロイゼンに振り分けた。


 特にドワーフたちは大忙しだ。

 シュインツを開けるために引っ越しを始め、さらにヴァロウに指示されたことをこなさなければならない。

 それでも、ドワーフも必死だった。


 もうこれ以上、裏切りたくはない。

 その一心で、武器を作り、そして穴を掘った。


 そうしてあっという間に、60日が経過する。


 ヴァロウの予想通り、本国軍4万5千、前線の軍が4万。

 計8万5千の兵が、同盟領に押し寄せてきたのである。


ルロイゼンとシュインツ、そして前線軍と本国軍。

広大な旧同盟領の地で行われる包囲戦を、どうぞお楽しみに!

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