第74話 敵将、討ち取ったり!
「笑止!!」
その言葉は英雄誕生に沸くメッツァーの街に轟いた。
魔族も、そしてメッツァーの民たちも、一斉に振り返る。
黒煙の中で蹄の音が近づいてきた。
1つだけではない。
100、いや1000以上はいる。
地面の灰や煤を巻き上げながらやってきたのは、本国軍だった。
およそ2000はいるだろう。
10000の兵が、5分の1にまで減ったのである。
だが、あの混乱の中で2000も残ったのであれば、よく生き残ったというべきだ。
その先頭に立っていたのは、ボッタッキオだった。
どうやら死んでいなかったらしい。
傷口は魔法兵によってふさがれ、全快した将は笑みすら浮かべていた。
「本国軍め……。生きていたのか」
ベガラスクは爪を構える。
第四師団師団長の動きを見て、魔狼族たちもまた1度引っ込めた爪を伸ばし、牙を見せて唸った。
だが、魔狼族たちは明らかに疲弊している。
パルマ高原での激戦に、休む間もなくメッツァーの攻略。
さしもの魔狼族も、疲れが見え始めている。
相手とはほぼ同数といえ、向こうは回復を終え、満を持しての登場だ。
少々分が悪いように見えた。
「ヴァロウ様」
やってきたメトラが本国軍を前にして息を呑む。
だが、ヴァロウの表情は変わらない。
「意外としぶといな。……残った魔法兵を集め、防御結界で堪え忍んでいた、といったところか」
「メッツァーの民たちよ。悪魔共の甘言に騙されるな。人類軍こそ正義! こやつらのいうことは、すべてまやかしだ!!」
ボッタッキオは声を張り上げ、民を諭す。
だが――。
「ふざけるな!!」
「お前たちが、ここに来て何をした!」
「オレらから、財を奪い!」
「女を犯し!」
「わたしの子どもを殺した!」
そんなヤツらの言うことを聞くヤツが、どこにいる!!
――とばかりに、反発が返ってくる。
まるで悪魔に感化されたかのように喚き散らした。
その声を聞きながら笑ったのは、ザガスだ。
こん棒を振り回しながら、「確かに……」と肩を竦める。
一方、ボッタッキオの顔が赤くなっていく。
将軍である自分の言葉を全否定されたのだ。
気位の高いボッタッキオにとって、聞き逃せない言葉だった。
「諸君らのいうことはよくわかった。ならば、諸君らはもう人間ではない。そこの悪魔と同じ、いやそれ以下の下郎よ!!」
構え、とボッタッキオ自ら合図を送る。
騎兵たちは槍、弓、剣を構え、魔法兵たちは杖を掲げた。
ヴァロウの側にいたベガラスクは尋ねる。
「1つ確認するぞ、ヴァロウ。何か策はあるのか?」
「ふん。必要あるのか、そんなもの……」
ヴァロウは1度収めた魔法鉱石製の剣を抜いた。
ベガラスクは微笑む。
いや、大笑した。
「くわははははははははは! いいぞ! そうだ! これこそ戦さというものだ」
「これが戦さの醍醐味よ!!」
ザガスも反応する。
くるりと重たそうなこん棒を振り回し、肩で担いだ。
そう。
ここからは総力戦。
だが、ヴァロウは確信していた。
ほぼ同数の対決。
ならば、勝敗は兵の質、そして練度が物をいう。
こちらが連戦で疲弊しているとはいえ、本国軍も回復こそしているが、似たような状況だ。
「――であれば、俺たちに負けはない!」
ヴァロウは剣を前に掲げる。
同時に、ボッタッキオもまた青龍刀を構えた。
「「かかれ!!」」
両軍の大将の声が響き渡る。
鬨の声が焼け野原となったメッツァー城塞都市に鳴り響いた。
その戦さを固唾を呑んでメッツァーの民たちは祈る。
おそらく住人を前にして、魔族と人類がぶつかり合うのは、希有なことであろう。
目の前で始まった殺し合いを、ただ見つめるしかなかった。
剣戟の音が鳴り響く。
ほぼ同数のぶつかり合い。
何度もいうが、その勝敗を分ける鍵は兵の質であった。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
悲鳴が鳴り響く。
吹き飛ばされたのは、人間、そしてその身体の一部だった。
鮮血が飛び散る。
その中をかいくぐったのは、魔狼族だ。
「馬鹿な!!」
ボッタッキオはおののく。
思わず馬を止めて見入った。
一合目から勝敗は決まる。
正面衝突した本国軍第一部隊と第四、第六師団連合軍は、後者の優勢に傾いた。
もはや圧倒的といっていい。
勝敗はやはり質だった。
本国軍のほとんどが、本国周辺から集められた駐屯兵の寄せ集めだ。
前線からほど遠く、ぬるま湯に浸かっていた兵士ばかりだった。
今回初陣という者もいる。
訓練こそしているが、訓練は所詮訓練である。
死線を幾つも超えてきた魔族軍と比べれば、雲泥の差だった。
たちまち兵たちの士気が乱れる。
その圧倒的な力に、背を向けるものも現れはじめた。
ボッタッキオの叱咤が響く。
「ええい! 逃げるな! 戦え!!」
その時だった。
彼に2つの影が重なる。
上を見上げた時、魔狼族と人鬼族の姿が見えた。
銀色の魔狼族は爪を。
赤髪の人鬼族はこん棒を振り下ろしている。
「それで不意打ちのつもりか!!」
ボッタッキオは反応した。
すぐさま長柄の青龍刀を掲げ、構えを取る。
ギィン! キィン!!
2つの硬質な音が響いた。
ベガラスクとザガスの同時攻撃を防ぐ。
しかもカウンターを用意し、2人の魔族に襲いかかった。
たまらずベガラスクとザガスは後ろに下がる。
「ふむ! 悪魔の割にやるではないか」
ボッタッキオは顎を撫でる。
「へぇ……。おかざりの大将じゃないみたいだな」
「ああ。だが――――」
ザガス、ベガラスクの2人は、もう1度突撃しようと構える。
しかし、その前にボッタッキオの背後に再び影が現れた。
それに気付き、また応戦しようとする。
上段で構えた剣を見て、ボッタッキオは長柄を横に構えた。
また硬質な音が響く。
目の前に現れたのは、ヴァロウだった。
「貴様が大将だな。小柄だな。そんな身体で俺様に――――」
通じるのか? とでも言おうと思ったのだろう。
そもそもボッタッキオには、自信があった。
その膂力にである。
彼は薄いとはいえ、城門を破った男だ。
たとえ、魔族の力だろうと引けは取らない自信があった。
だが――――。
「ぐおおお!」
ボッタッキオは唸りを上げる。
ヴァロウの剣がドンドンとボッタッキオを押し込みつつあった。
馬上でのけ反りながら、顔を赤くし、踏ん張る。
すると、ヴァロウの手の甲が光り輝いた。
“角”の力が覚醒する。
ボッタッキオに為す術はなかった。
いよいよ刃がボッタッキオの肩口に届く。
鎧を果物のように斬り裂き、肌に届いた。
シュッと血が噴出する。
その真っ赤な血を見て、ボッタッキオは悲鳴を上げた。
「血! また血ぃ! やめ……。やめてくれ! し、死んじゃう」
「ああ。そうだな」
「誰か、誰か助けて……」
そこに将の姿はない。
ただ前線を離れ、本国のぬるま湯に浸かっていた貴族がそこにいた。
ボッタッキオは周りを見渡す。
いつの間にか剣戟の音がなくなっていた。
妙な沈黙が落ちている。
そして、その視界に映っていたのは、爪についた血を舌で洗う魔狼族だった。
「そんな……!!」
ボッタッキオは悲鳴を上げた。
いつの間にか全滅していた。
2000もいた兵士が……。
一瞬で。
「お前たちの負けだ」
ボッタッキオは前に顔を戻す。
ヘーゼル色の瞳が、冷たく光っていた。
「ぎゃああああああ!! ダレマイルさまぁああああああああ!!」
上級貴族の名を叫ぶ。
一瞬、ヴァロウのこめかみが動く。
すると、一息で斬り裂いた。
左肩から、右脇腹まで袈裟に斬られる。
胴が真っ二つにされた。
がさりと思ったよりも軽い音を立て、ボッタッキオの骸は馬上から落ちる。
馬は驚いて立ち上がり、さらに骸の上に着地すると、さらに血の海は広がっていった。
「チッ! いいところだけ持っていきやがって」
「ふん」
ザガスはこん棒を振り回せば、ベガラスクは鼻を鳴らし、爪はしまう。
ヴァロウは討ち取ったボッタッキオの骸を掲げた。
「討ち取ったぞ……」
メッツァーの民衆に向け、淡々と告げる。
そのテンションとは真逆――メッツァーの民は大騒ぎだった。
「おおおおおおおおおおお!!」
「英雄様が! 英雄様が!!」
「我らの仇を!」
「オレたちの無念を」
「晴らしてくれたぞ!!」
再び歓声が沸き上がる。
手を叩き、またメッツァーの民は喜ぶのだった。
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