第73話 角を生やした英雄
おかげさまで24,000ptを越えました。
ブックマーク、評価いただいた方ありがとうございます!
ヴァロウが放ったのは、『風の勇者』ステバノス・マシュ・エフゲスキの技だった。
風の精霊アイギスを自らの剣に纏わせ、極限にまで圧縮された風と魔力を撃ち放つ。
その威力は千の魔族を討ち払ったといわれる。
ストームブリンガー、交信するアイギスを駆使し、ステバノスは勇者というスターダムに駆け上がったのである。
だが、ヴァロウが放ったストームブリンガーは、その比ではない。
ステバノスが緑の魔力光であったのに対し、ヴァロウはさらに風と魔力を圧縮していた。
おかげで、青白く光り、その制御から逃げ出した魔力は炎のように揺らめいている。
ステバノスのストームブリンガーが、千の魔族を引き裂くなら、ヴァロウのは万、いや10万の軍勢を消滅させたかもしれない。
それほど、ヴァロウとステバノスの間には、地力の差があった。
持ってる潜在能力が違うのだ。
そもそも人類の軍師であった頃から、ヴァロウの魔力は他の勇者と比べても遜色なかった。
その魔力が魔族になったことによって増幅され、魔王から“角”の力を借り受けたことにより、さらに底上げされた。
すでにこの時、ヴァロウの魔力はかつて最強といわれた『毒の勇者』の魔力を抜き去っていたのである。
そのヴァロウのストームブリンガーが炸裂する。
巨竜も最大火力を持って対応した。
それがヤバい代物であることを、本能的に悟ったのだろう。
全力を以て、青白い嵐を消しにかかる。
そして炎と嵐がぶつかりあった。
竜と竜が組み合う。
そんな拮抗状態を予想したが――違う。
あっさりと嵐が炎を食い破る。
さらに巨竜の鼻先に、青白い刃を落とした。
竜の硬い鱗をものともせず、肉を引き裂く。
ズザァァァァアアアァアァアァアァアァアァアアアアンンンン!!
巨竜を真っ二つに切り裂いた。
『ぎゃああああああああああ!!』
断末魔の悲鳴が上がる。
その瞬間、開けた顎がズレた。
ずるりと巨躯が歪む。
2つになった胴は安定を失い、両端に向かって倒れた。
轟音が鳴り響き、黒い煤が舞い上がると、嵐の中に吸い込まれていく。
ストーブリンガーの嵐に、小型の飛竜も巻き込まれたらしい。
焼け野原の街に、累々と飛竜の死体もまた転がった。
「やった……」
メトラは思わず口元を手で覆う。
「あの野郎……。やりやがった」
飛竜の頭を棍棒で叩きつぶしたザガスはニヤリと笑う。
「ヴァロウめ。まだあんな技を隠していたのか」
ベガラスクは飛竜の喉元から爪を抜くと、ぐっと目に力を入れてヴァロウを睨む。
アルパヤは手を叩き、ゴブリンたちは地面を踏みならす。
魔狼族たちも遠吠えを上げ、よその師団長を称賛した。
魔族軍はお祭り騒ぎだ。
だが、巨竜が討たれるのを見て、喜んでいたのは魔族だけではない。
人間――メッツァーの民も一緒だった。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
絶叫した。
魔族たちと同様に手を叩き、巨竜を討ち取った魔族を賛美する。
先ほどまで地獄を彷徨い歩いていたのだ。
死すら覚悟していた。
そこから解放された喜びに、メッツァーの民たちは踊り狂う。
そしていつの間にか、こんな声が聞こえてきた。
「英雄だ!」
「メッツァーを救った英雄だ!」
「英雄様を讃えろ!」
「英雄様、万歳!!」
英雄、そして万歳という言葉が、魔族たちを包む。
メッツァーの民はその4分の3を失っていた。
だが、その声の大きさは、1万人を遥か越えた声量だった。
すべての力を振り絞り、メッツァーの民たちは讃えたのである。
『英雄』と……。
その異様な雰囲気に、魔族たちは戸惑っていた。
だが、ヴァロウだけは違う。
『英雄』と讃える人間たちの元へとやってくる。
冷たい表情を浮かべた人鬼族を見て、メッツァーの民たちは合唱を止めた。
今さらだが、思い出したのである。
目の前の『英雄』が魔族であることを。
自分たちを虐げし、存在であることを……。
騒然となる。
逃げようにもすでに魔族は彼らを取り囲んでいた。
数の上では勝ちだが、そのほとんどが非戦闘員である。
女や子ども、老人もいた。
勝ち目は見えている。
実は状況は何も変わっていない。
巨竜からただ魔族に移っただけなのである。
ヴァロウはメッツァーの民たちの前に立ちはだかった。
「選べ……」
ぽつりと呟く。
聞こえた者は顔を突き合わせて、首を傾げた。
「お前たちをこれまで虐げていた者に忠誠の言葉を吐きながら殉死するか、それともお前たちをこれまで虐げていた者を討つ者に命を預け、盟約を結ぶか。どちらか好きな方を選べ」
「そんなことを言われても……」
メッツァーの民たちの戸惑いは続く。
平たく言えば、死か生かということだ。
選択しろといわれても、そんなものは決まっている。
後者だろう。
生き延びることができるなら。
それに越したことはない。
たとえ、今目の前に広がる焼け野原からの出発だとしてもだ。
なら……。
という雰囲気が広がる。
だが、それを打ち破ったのは、メトラだった。
「良くお考えなさい。この選択は、あなた方の生き方に関わることです」
熱弁を振るう。
その姿はまるで君主のようであった。
「あなた方に突きつけられているのは、人類の一員として尊厳ある死を望むか。もしくは、尊厳ある生活のために各々が戦うかと問うているのです」
尊厳ある生活……?
ざわりとメッツァーの民たちが波だった。
「ここにおられる方はヴァロウ……。第六師団師団長にして、魔王様に仕える6人の副官の1人。ヴァロウ様であれば、必ずあなたたちを人間らしい生活へと導いてくれる。このどうしようもない世界を救ってくださる! さあ、もう1度よく考え、選択するのです」
人類の一員として死ぬか……。
人間としての誇りを取り戻すか!
メトラの声は、民たちの喉元に深く抉った。
途端、楽観的な雰囲気が消え去っていく。
緊張し、誰もが息を呑んでいた。
長い沈黙の後、1つ1つ蝋燭の明かりを灯すように声が聞こえてくる。
「生きたい!」
「そうだ。俺たちはまだ生きていたい!」
「でも、ただ生きていくだけなんてまっぴらだ!」
「そうよ! わたしたちは人間よ」
「人間として生きて……」
「「「「そして、死にたい!!」」」」
民たちの声が揃う。
一言一句違えることない。
奇跡のように。
民の強い意志がそうさせたのだ。
ヴァロウは頷く。
少し遠目で見ていたメトラは、一瞬笑ったような気がした。
いや……。
これもまたヴァロウの手の平の上なのかもしれない。
ここでメッツァーの民を虐殺している時間はない。
すぐにでも本国軍の本隊が襲ってくるだろう。
出来る限りの用意を調えなければならない。
ずっと沈黙していたヴァロウはいよいよ顔を上げる。
メッツァーの民1人1人の顔を見た後、言った。
「わかった。歓迎しよう、メッツァーの民よ」
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」
再び歓声が上がる。
それはメッツァーそのものが生まれ変わった産声でもあった。




