第70話 メッツァー蹂躙
有り体にいうなら、ルビガン・ゼイ・ボッタッキオはダレマイルが嫌いだった。
目立った戦功もなく、本国の文官として何か偉業を成し遂げたわけではない。
ただ王族――とりわけリントリッド王に寵愛され、成り上がった豚である。
何よりボッタッキオは上級貴族が気にくわなかった。
大公に続いて公候伯子男と続く貴族階級。
そこにいつの間にやら、上級貴族という階級が生まれ、自分たち貴族を顎で使い始めた。
その能力は非凡であり、王族や民も認める殿上人というが、ボッタッキオからすれば、金持ちのボンボンとそう変わらない。
ダレマイルにしてもそうだ。
今も地方の村を占拠し、どんちゃん騒ぎをしている。
戦局というのを何もわかっていない。
所詮はお飾りの司令官なのだ。
メッツァーを占拠するのは今しかない。
本国の指示を仰いでいては、好機を逸す。
ボッタッキオは自軍だけを率いて、メッツァーへと向かった。
メッツァーの城門前へ来ると、兵を見せつける。
その中で先頭に立ち、ボッタッキオは声を張り上げた。
「我らは本国軍第一師団。我は第一師団師団長ルビガン・ゼイ・ボッタッキオである。メッツァー軍に助太刀に来た。城門を開けられよ」
突然の大軍に、数少ない駐屯兵たちは慌てふためく。
だが、援軍だと知ると、ホッとした様子で、門の上から声を掛けた。
「助太刀感謝いたします。ですが、本隊はすでにシュインツに向けて進発いたしました」
「なるほど……。そうか。すまぬが、こちらは遠方より来て、人も馬も疲れている。一時、中で休息を取りたい。門を開けてくれぬか」
駐屯兵たちが集まり相談する。
「何人であっても門を開けるなと、領主バルケーノ閣下から言付かっております」
返答が聞こえる。
ボッタッキオは軽く舌打ちした。
だが、警戒しているだろうことは、予想の範囲内だ。
「我らは本国から来たのだぞ。その同胞に対して、門を開けぬとはどういうことだ。これならば、同盟は本国に含むところがあるといっているようなものだぞ!」
「そ、そんなことは……」
「ここで一戦を交えるというのは良かろう。お主らの数は精々500。我らは10000。籠城戦になろうと、どちらが有利かわかっているだろう!」
「うっ……」
駐屯兵はたじろぐ。
「案ずるな。大人しく門を開けてくれれば、何もせぬ」
肩をいからせ凄んだかと思えば、次にボッタッキオは柔和な笑みを見せる。
その顔はまるで猿のようだ。
彼はその容貌から密かに『大猿』と呼ばれる将軍であった。
しばらく時間が置かれる。
すると、ようやく門が開いた。
ボッタッキオは「ありがとう」と感謝を述べ、悠々と兵を率い、メッツァーの中へと入っていく。
全軍が入城したのを確認し、ボッタッキオは持っていた長柄の青竜刀をかざした。
「蹂躙せよ!」
その一言で戦い――いや、虐殺が始まった。
猿の顔をした兵は、途端に牙を剥き、獰猛な大猿へと変貌する。
「話がちが――――」
あっという間に城壁にいた駐屯兵たちを屠る。
ボッタッキオは笑いながら、声を張った。
「殺せ! こいつらは全員逆賊だ。略奪も許す。ただし、女も子どもも各人1人ずつまでだ。いいな!!」
将軍の許しが出ると、大猿たちは領民に襲いかかる。
次々と街の人間を斬りつけ、家の中に押し入っては、壁に血の跡を作った。
およそ人の所行とは思えない。
酷たらしい光景に、ショック死するものすら現れる。
一方ボッタッキオは街の中心へと向かった。
メッツァーには他に2つの壁がある。
そこにも駐屯兵が待ち構えていた。
弓を構え、先頭のボッタッキオを狙う。
「放て!!」
号令と共に矢の雨が降る。
するとボッタッキオはそのすべてを打ち払った。
スピードを緩めず、第2の城壁に突撃していく。
すると、サッと手を挙げた。
「魔法騎兵!! 呪唱準備!」
ボッタッキオの背後にいた騎馬に乗った魔法騎兵が、槍のようなものを掲げる。
先端の魔石に魔力を込めると、赤く光り始めた。
「放て!!」
ボッタッキオは青竜刀を振るった。
同時に魔法が放たれる。
魔力が城門に殺到した。
ドンッッッッッッ!!
腹の底を揺るがすような轟音が、メッツァーを貫く。
分厚い第2の城門が吹き飛んでいた。
使用したのは炸裂系の魔法だ。
それを収束させ、城門を吹き飛ばしたのである。
さらにいえば、第2の城門ができたのは昔のことだ。
今の魔法戦とその技術に、城門が対応できていなかったのである。
ボッタッキオはその脆さに気付いていた。
いずれ攻略しなければならない城塞都市である。
事前に兵とも打ち合わせと訓練を重ねてきていた。
第2の城門をくぐり抜ける。
ここは中産階級の人間が住む区画だ。
貧困街が並ぶ区画とは、着ているものも建物も違う。
だが、ボッタッキオは目もくれない。
狙うは次の門だった。
駐屯兵を置き去りにして、第3の城門へとかかる。
もう先ほどの魔法による突破はできない。
炸裂系の魔法は魔力を食う。
増幅の時間もかかるため、同じ戦術は使えないのだ。
「来たぞ! 死守だ、死守!!」
第3の城門を守る駐屯兵たちの悲鳴じみた叫びが聞こえる。
第2と同じく矢を射かけたが、ボッタッキオには通じない。
構わず突っ込んでくる。
「ぶつかるぞ!」
「何をするつもりだ」
スピードを緩めようとしないボッタッキオを見て、駐屯兵たちは戦慄した。
すると、ボッタッキオは青竜刀を掲げる。
大上段にかかげると、さらに馬の腹を蹴って、速度を要求した。
口を開け、『大猿』の将軍は裂帛の気合いを吐き出す。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
青竜刀が閃く。
その速さは落雷。
聞こえてきたのは、雷鳴であった。
ガラン、と甲高い金属音が響く。
真っ二つに斬られた城門は、剣圧を浴びて吹き飛んだ。
それは近くの屋敷に突き刺さった。
メッツァー最後の門。
第3の城門は第2の城門よりもさらに古い。
まだ魔族の勢力圏内だった時に、急造で作られたものだ。
そのため門の厚さが、他の門よりも薄い。
だからボッタッキオは、自分の膂力ならば斬れると考えていた。
かつて彼はその青竜刀で硬い巨人族をも斬ったことがある。
古びた門を斬るなど、造作もなかった。
「きゃああああああああああ!!」
悲鳴が上がった。
上質な絹を纏った女が、道ばたで固まっている。
ここは上流階級が住む区画。
そして目の前には、宮殿ブロワードがそびえていた。
広いメッツァーを走りきったボッタッキオは、己を称賛するように手を広げる。
猿のように歯をむき出し、笑った。
「きぃきいいいい!! ものども! よりどりみどりだ! 殺せ! そして奪え! 2度と我ら本国に逆らえないように見せしめにせよ!!」
ボッタッキオは再び号令をかける。
まるで1本の男根のように怒張させた兵士たちは、のうのうと暮らしていた商人や貴族に襲いかかった。
様々なところで悲鳴が上がる。
血の雨がメッツァーに降り注いだ。
だが凶行はいつまでも続かない。
ボッタッキオはふと足を止める。
青竜刀を降ろし、嬲っていた貴族を塵のように捨てた。
振り返るが、そこにあったのは白煙と悲鳴が上がるメッツァーの姿しかない。
「気のせいか……」
首を傾げる。
だが、確かに感じたのだ。
誰かに見られているような感覚が……。
しかし、それは気のせいではなかった。
突然、メッツァーに地鳴りが響いたのである。
おかげさまで『ゼロスキルの料理番』が無事発売されました。
有り難いことにコミカライズも決まっております。
良ければ、Web版、書籍版、コミカライズ版を楽しんでいただければと思います。
『上級貴族様~』もコミカライズしたいぞ!
その前に書籍化だけど……!
なので、更新頑張ります!!
引き続き応援いただければ幸いです。




