第64話 総員傾注せよ!
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してやられた!
悔しがるレドベン。
その時、何か彼の前にぼとりと落ちてきた。
地面に大量の血が滲むのを見て、参謀は腰を抜かし、後ずさる。
それは人間の首だった。
離れたところには、その胴体とおぼしきものが落ちている。
その側には、飛竜の骸もあった。
竜騎士だ。
どうやら、呪いの武具の影響は竜騎士部隊も例外というわけではないらしい。
その時、レドベンの頭上に大きな影ができる。
見上げると、飛竜が降りてきた。
他の飛竜と比べても一回りを大きい。
それに騎乗していたのは、主君バルケーノだった。
「何をしておる、レドベン!!」
竜の吠声か――と思えるような怒鳴り声が、戦場を貫く。
その大きさに、メッツァー軍はおろか魔族ですら驚き、動きを止めた。
一瞬静かになる戦場。
しかし、バルケーノは全く気にしない。
尻餅を付いたレドベンの胸倉を掴み、立たせた。
「お前は我の参謀であろう」
「は、はひ……」
「ならば、この状況をどうにかせい!」
「お、恐れながら閣下……。敵が仕掛けたと思われる呪いの武具の影響があり、今、それを除去する力が我が軍には――――」
レドベンは説明しようとしたその時だった。
バルケーノは大槍を振るう。
呪いの武具を持ち、襲いかかってきた兵を薙ぎ払った。
肋骨下から真っ二つに斬り裂かれた兵は、くるりと宙を舞って、地面に叩きつけられる。
むろん、即死であった。
「状況など言わんでもわかっておるわ。呪いの武具に我が兵が操られているというなら、殺せばいい」
「は、はぁ!?」
一瞬聞き間違えかと思い、レドベンは聞き返す。
バルケーノは歯茎を剥きだし、冷酷に笑った。
「反乱軍の時にも言ったであろう。我ら人間の兵に手をあげるのは、人間に非ず。それは魔族だ。我らが憎む怨敵よ」
すると、バルケーノは大槍の石突きを地面に向かって叩きつけた。
甲高い音が、わずかな余韻とともに戦場に広がる。
「総員傾注せよ。我らの前に立ちはだかるのは、すべて魔族だ。故に斬り捨てよ。悪魔も、悪魔の下僕となったものもすべて、斬るが良い!!」
バルケーノの言葉が、本当の悪魔のように響き渡った。
すると、動揺していた兵士の顔が変わる。
ぐっと顎を締めると、呪いの武具を持った仲間を見つめた。
その視線は鋭い。
まるで魔族を見るようだった。
「おおおおおおおお!!」
あちこちで鬨の声が上がる。
壮絶な同士討ちが始まった。
半狂乱になりながら、同僚たちを殺し始める。
血しぶきが舞う。
戦場ではありふれた光景だ。
だが、通常と意味合いが全く違う。
まさに地獄だ。
レドベンは呆然と戦場を見つめた。
横でバルケーノは愉快そうに笑う。
「お前より兵士たちの方がよっぽど肝が据わっておるようではないか。反乱軍鎮圧の甲斐があったな。皆、童貞を捨てておる」
バルケーノはポンとレドベンの肩を叩く。
「さあ、お前の役目をこなせ、我が参謀よ」
「……わ、わかりました」
ようやく動揺から脱したレドベンは、眼鏡を上げる。
「各部隊に告げる。侵攻する魔狼族の部隊と逆方向になるように前進。そのまま集合し、隊列を整えろ! 今からでも遅くはない! 魔狼族の後背を突くのだ!!」
おおおおお!!
兵たちの声が揃う。
レドベンの号令の元、魔狼族の部隊によって分断されたメッツァー軍は前進する。魔狼族の部隊の後背に集結すると、隊列を整えた。
バルケーノは顎をさする。
やや上機嫌だった。
「これは戦略として正しいが……。レドベンよ。このままで敵本体と魔狼族の間に、我ら本隊が挟まれる形になるぞ」
「構いません。相手の本隊はアンデッドやゴブリンです。たとえ、後ろから刺されたとしても、大した被害にはなりません。それに閣下――」
眼鏡越しにレドベンは、バルケーノを睨む。
どうやら参謀もまた肝が据わったらしい。
「我々にはまだ竜騎士部隊がいます」
「ぐふふふ……。我を顎で使うか、レドベンよ」
「参謀に任命したのは、閣下だったと思いますが……。本隊の殲滅。150騎ほどですが、いけますね」
「誰にいっておる」
レドベンの頭を叩く。
本人は撫でた程度で考えているようだが、レドベンからすれば背が縮むかと思うほど痛かった。
「我、1人でも十分よ。……それにの」
バルケーノは少し離れたところに布陣した敵本隊を見つめた。
「ヤツとの決着がついておらんのだ」
槍を振るう。
手綱を握ると、愛竜はすぐに答えた。
雄々しく翼が動くと、ふわりと浮き上がる。
「ここはお任せ下さい。必ず魔狼族どもを討ち果たしてみせます」
「応! 後で会おう、我が参謀よ」
「はっ!」
レドベンは敬礼し、主君を見送る。
バルケーノは歯茎を剥きだし、笑いながら薄く雲がたれ込めた空へと消えていった。
◆◇◆◇◆
自軍が中央突破したのをヴァロウは本陣から見届ける。
魔狼族の遠吠えを聞き、作戦の第一段階が完了したことを確認した。
ヴァロウにとって、怖いのはメッツァーが誇る竜騎士部隊ではない。
魔法兵部隊だ。
彼らが武具を手にすることは珍しい。
魔法性能を上昇させるための黒金糸のローブや守護印ぐらいだろう。
さすがに、そこまで用意はできなかった。
だから、比較的に動揺が小さい魔法兵部隊を魔狼族に襲わせたのである。
「やりましたよ、ヴァロウ様」
横のメトラは無邪気に中央突破を喜んだ。
が、ヴァロウからすればその戦果はさほど嬉しいことではない。
敵が分断されたことによって、そのまま指揮系統を乱してくれればいいが、そこまでの効果はなかった。
「さすがはメッツァーの参謀と、それを鍛えてきたバルケーノだな」
ヴァロウも感心する。
すぐに隊の動揺を抑えると、前進を続け、第四師団の後背を突く動きを見せていた。
だが、ヴァロウからすれば遅い。
いや、戦いになる前から、この状況は予想されたものだった。
「メトラ……」
「は、はい!」
興奮気味のメトラは、慌てて振り返った。
「アルパヤを呼べ。そろそろ来るぞ」
「来る、とは……」
ヴァロウは上空を指差す。
飛竜に騎乗した竜騎士が、こちらに矛を向けていた。
「竜騎士部隊!!」
メッツァーの主力ともいえる部隊が、牙を剥こうとしている。
その先頭の男は、少し離れた距離からでもわかるほど、偉丈夫だった。
ヴァロウはずっと座っていた椅子から立ち上がる。
剣を引き抜いた。
「さて――。決着をつけようか、『竜王』バルケーノ・アノゥ・シュットガレン」
ヴァロウは口角を歪めるのだった。




