第61話 パルマ高原の戦い 開戦
新章『パルマ高原の戦い』早くも更新です。
そしてメッツァー軍は出立した。
騎兵部隊は砂埃を上げ、重装部隊は大地を蹂躙するように進む。
弓兵は鋭い眼差しを、魔法兵がその後方に控え、不気味な姿をさらしている。
同盟最大数を誇る歩兵の顔つきも、引き締まっていた。
何より圧巻なのは、竜騎士部隊だ。
150騎の飛竜と騎士が、やや雲が垂れ込める空を支配していた。
その数はおよそ8000。
大要塞同盟の中でも、最大数最精鋭の軍隊がシュインツに向けて進発した。
先頭は総司令官バルケーノ。
その側に参謀レドベンが控えている。
バルケーノは珍しく馬に騎乗していた。
それは愛竜を先日亡くしたからではない。
彼ほどの竜騎士であれば、飼っている飛竜は1、2つではない。
3桁に及ぶ飛竜を飼い慣らしているのだ。
今、馬に跨がっているのは、空にいると地上から情報が聞けないからである。
彼が空へ向かう時は、猛将となる時だけだ。
いずれその瞬間も訪れる。
もうすぐ70に手が届く老将の筋肉は、戦いの気配を敏感に感じていた。
行軍しながら、バルケーノは鋭い視線を周りに放つ。
「ヴァルファルの軍は何故来ぬ? 参戦するように指示を出したのだろう」
最後にレドベンを睨む。
参謀は汗を掻きながら、報告した。
「再三再四指示は送っているのですが……」
「動かぬか」
「はい。も、申し訳ございません」
バルケーノの迫力に、小心者の参謀は馬上で頭を下げた。
その上司は何もいわない。
奥歯を強く噛むと、欠けたような音がした。
「ふん。ルミルラめ……。事前に何か吹き込んでおいたな」
「いかがいたしますか?」
「放っておけ。ヴァルファルの軍がいなくとも、数の上でも質の上でも我らの勝っている。違うか?」
「仰る通りかと……」
レドベンは恭しく頭を下げる。
すると、斥候役の騎兵がバルケーノの前に現れた。
「敵兵がシュインツから出撃しました。真っ直ぐこちらに向かってきます!!」
斥候役の声が響き渡る。
兵士たちの動揺が広がった。
それは参謀レドベンも同じだ。
「馬鹿な! 籠城せんのか!」
こちらは敵の倍以上の兵力だ。
しかも精鋭。
ゴドーゼンやテーランのような田舎兵を集めているわけではない。
バルケーノの指導の下、その練度は高かった。
向こうの主力は、2000の魔狼族。
その突進力も、屈強な重装部隊で十分止めることができる。
後は、下級の魔獣だけだ。
メッツァーの竜騎士部隊の敵ではない。
故に、レドベンは攻城戦を想定していた。
通常の攻城戦を行い、相手の守勢が止まったところで竜騎士部隊を空から投入する。
一気に城壁を攻略し、シュインツを制圧する算段だった。
その筋書きが今、すべて覆されてしまった。
「慌てるな、レドベン」
「いや、しかし……。こちらは攻城戦の準備を」
レドベンは背後を見る。
急ごしらえだが、攻城櫓と大弩弓を用意しておいた。
だが、その苦労が今、水泡に帰したことになる。
「ふん。数の上ではこちらが有利なのだ。ただ正面から叩きつぶせばいい。むしろ、いくさが楽になったと思えばよい」
「は、はあ……」
レドベンは眼鏡を釣り上げる。
バルケーノの言う通りだ。
攻城戦と野戦。
どちらが容易かといえば、断然後者だ。
何も策がいらず、ただ軍を前に進めるだけで勝てる。
だが、相手も馬鹿ではない。
あのシュインツをたった半日で攻略した魔族が指揮を執っているのだ。
(何かある……)
そう思わざる得なかった。
だが今、変化をつけることをバルケーノは良しとしないだろう。
どう考えても、こちらが有利だからである。
基本的に王者の戦い方を好むバルケーノが、作戦変更を許可するとは思えなかった。
「予想される接敵地は?」
レドベンは斥候に尋ねた。
「敵の行軍速度が今のままであるなら、おそらくパルマ高原かと……」
広くなだらかな斜面が続く高原である。
周りに森や崖こそあるが、障害物が少ない土地だ。
どうやら本当に魔族たちは真っ向勝負がお望みらしい。
それを聞いて笑ったのは、バルケーノだった。
「くくく……。ヴァロウとかいう若い魔族め。なかなか度胸がある」
「閣下、これは罠ですぞ」
「そんなものわかっておるわ」
「はっ?」
「肝心なのは、我らが数で上回っているということを認識することだ。相手が奇策を弄そうとも、我らは真っ直ぐ矛を向ければよい。相手の奇策に合わせれば、それこそヤツらの思うつぼよ」
「確かに道理ではありますが……」
いや、その方がいいのかもしれない。
相手のペースに合わせるよりも、こちらのペースに引き込む方が重要だ。
数での勝負となれば、2人1殺でも勝てるのだから。
「わかりました。閣下の言葉を信じます。ただ先に斥候を戦場に向かわせ、周囲を探ろうと思いますが、いかがでしょうか?」
「任せる」
「ありがとうございます」
またレドベンは恭しく頭を下げた。
◆◇◆◇◆
翌々日の早朝――。
両軍はパルマ高原で向かい合った。
メッツァー軍8150。
第四、第六師団連合軍およそ3000。
このパルマ高原では、何度か魔族と人類の戦いが行われている。
しかし、この時15年ぶりの大戦が始まろうとしていた。
ヴァロウたちは高原の山側に布陣する。
8000以上の軍を見て、周りの幹部たちは目を細めた。
「どうやらルミルラの交渉は失敗に終わったとみていいですね」
「ああ……」
メトラの言葉に、ヴァロウは短く答えた。
確認できる限り、ルミルラの姿ない。
それにヴァロウの予想よりも、数が少なかった。
ヴァルファルの軍が含まれていないからだろう。
ルミルラに何かあったと見るべきだ。
それでもヴァロウの表情は変わらなかった。
冷たいヘーゼル色の瞳を、眼前のメッツァー軍に向けている。
「ふん。元より人間など当てにしておらん」
ベガラスクは配置につく。
魔狼族――第四師団の先頭に出ると、爪を伸ばした。
「かかか……。腕が鳴るねぇ。久しぶりの大いくさだ」
嬉々としながらザガスは腕を回す。
地面に下ろした鉄の棍棒を持ち上げた。
軍の先頭に出て、総司令官の合図を待つ。
ヴァロウはおもむろに鞘から剣を抜いた。
同時に地平線の向こうから光が見える。
ちょうど太陽が昇った瞬間、両軍から声が響き渡った。
「「かかれぇ!!」」
ヴァロウとバルケーノの声が重なる。
大要塞同盟版図では、およそ15年ぶりに行われる人類と魔族の大いくさが始まった。
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