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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
6章 メッツァー潜入

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第59話 ヴァロウ様ですよね!?

おかげさまでブックマークが7,000件にまで到達しました。

ありがとうございます。

引き続き応援よろしくお願いします。

 やられる!


 バルケーノは覚悟をし、思わず目をつむった。

 だが、いつまで経っても刃は下りてこない。

 薄く目を開けた時、バルケーノは驚愕の光景を目にすることになる。


 ヴァロウが消えていたのだ。


 忽然と……。


「ヴァロウ様!」


 魔族の女の声が聞こえる。

 その視線は空へと向けられていた。

 悠々と1匹の飛竜が南へ向かって飛んでいる。

 そのスピードは凄まじく、すでに青い空の中で点になっていた。


 バルケーノは目をこらす。


 メッツァーの飛竜ではない。

 自軍が助けにきたのでは、と思ったが、そうではなかった。


「おそらくアレは……」


 見覚えのある飛竜を見て、バルケーノは目を細めた。


 魔族の女は飛竜を追いかける。

 どうやらあの飛竜にヴァロウは捕まったらしい。

 ゴブリンと、ペイベロを拾い、南へと向かった。


 急に辺りが静かになる。


「おのれ……。また生き残ったか…………」


 バルケーノはどすんと尻を付ける。

 その場で大の字になると、骸となった愛竜の横で大鼾を掻くのだった。



 ◆◇◆◇◆



 ヴァロウがバルケーノに向かって、剣を振り上げた瞬間だった。


 風を切る音が急速に近づいてくる。

 ヴァロウの動きは、その時一瞬止まった。

 目線だけを動かす。

 気付いた時には、お腹と腰に強いホールド感を感じつつ、飛んでいた。


 どんどん、地面から離れていく。

 空が近く、手が届きそうだった。


 ヴァロウは冷静だった。

 自分を掴んだものの正体を見極める。

 飛竜だ。

 大翼を羽ばたかせ、上昇し続けている。


 ヴァロウは持ったままの剣を振り上げた。

 飛竜の足を切り落とそうとしたが、その前に声がかかる。


「ダメですよ。そんなことをしたら。この高さから落ちたら、いくら人鬼族が頑丈と言っても助からないでしょう」


 穏やかな声が聞こえてくる。

 聞き覚えがあるヴァロウは、眉宇を動かした。

 騎乗者をのぞき込む。

 すると、大きな黒目とかち合った。


「お久しぶりです、ヴァロウ様」


 懐かしい声だった。

 ヴァロウは思わず挨拶しそうになる。


 騎乗者はヴァロウがよく知る人物だったのだ。


 ルミルラ・アノゥ・シュットガレン……。


 ヴァロウの最後の弟子だった。



 ◆◇◆◇◆



 ルミルラは愛竜スライヤを近くの山に着地させる。

 飛竜の背から下りると、先に降りていたヴァロウに近づいた。

 笑みを浮かべていたルミルラの顔が、すぐにこわばることになる。


 ヴァロウが彼女に向け、剣の切っ先を向けていたからだ。


「どういうことでしょうか? ヴァロウ様。私を――ルミルラを覚えていらっしゃらないのですか?」


 ルミルラは胸に手を当てる。


 ヴァロウはヘーゼル色の瞳を鋭く光らせていた。

 殺気は本物だ。

 後ろのスライヤが反応し、ぎゃあぎゃあと吠声を上げて威嚇している。


「ルミルラ・アノゥ・シュットガレンか……」


「はい」


「お前とは初対面のはずだが……」


「そんなことはありません。私はあなたの弟子だったのですから」


「俺は知らない。誰かと勘違いしているのではないか?」


「そんなことはありません」


「そもそも俺は魔族だ」


「確かに……。ですが、ルロイゼンに続き、シュインツを攻略してみせた手際の良さ。テーランの重戦士部隊に対し、弾数が限られた魔導兵器を躊躇うことなく使用した大胆さ。それに――」


 ルミルラは刃を前にして微笑む。


「毎日紅茶ばかり飲んでるそうじゃないですか。……紅茶に蒸留酒を垂らして飲むなんて、古今東西あなたぐらいですよ、師よ」


 ルミルラは核心をついた探偵のように勝ち誇る。


 それでもヴァロウは頷かなかった。

 「そうだ」といって、剣を収めることもない。

 ただヘーゼル色の瞳を光らせていた。


「そもそも私が来ることを知っていて、メッツァーに向かわれたのでしょう。皆の前で正体を暴かれることを恐れたのでしょうが、逃げることはないでしょうに」


 ルミルラは決してヴァロウが、あの軍師ヴァロウであることを信じて疑わなかった。


 師弟ともに頑固であった。

 似たもの同士なのだ、この2人は。


「さあ、ここにいるのは私たちだけです。存分にお話しください、師よ」


「そんなことを確認するために、お前はバルケーノを討つ絶好の機会を奪ったのか?」


「お忘れですか、師よ。バルケーノは我が父です。娘が父を守るのは道理でしょう」


「ならば、魔族が人間を手にかけるのも道理であるはずだ」


 ヴァロウはさらにルミルラの喉元に剣を突きつけた。

 尖端が当たり、小さく流血する。


 一瞬、ルミルラは表情を変えた。

 眉間に皺が寄る。

 目の前の魔族が、師ヴァロウであることに揺るぎのない自信を持っているものの、その彼は決して手を緩めなかった。


 本気でルミルラの首を落とすつもりでいるようだった。


 ルミルラはここに来て、初めて息を呑む。

 その殺気にではない。

 ヴァロウが魔族の副官であろうとする覚悟を感じてのものだった。


 やがてルミルラは息を吐く。


「あなたも父と同じなのですね。私を戦場から遠ざけようとする。ヴァロウ様……。

私はもうすぐ30に手が届こうかという女です。あなたの元に弟子入りし、小間使いに毛が生えた程度の小娘ではないのですよ」


「…………」


「わかりました。魔族の(ヽヽヽ)ヴァロウ。あなたに折り入って頼みがあります」


「……ほう」


 すると、ヴァロウはあっさりと刃を引いた。

 今までの説得がなんだったのだろうかというぐらい素直に。

 まるで頼みがあることを事前にわかっていたような動きだった。


 “お前もまた手の平の上だ……”


 そう言われているような気がして、ルミルラはムッと頬を膨らますのだった。


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