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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
6章 メッツァー潜入

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第57話 竜王降臨

「肝が冷えましたよ」


 ペイベロは胸を撫で下ろした。

 横にヴァロウが歩いている。

 2人はメッツァーの中央官庁を出ると、真っ直ぐ城門へと向かった。


 一刻も早くメッツァーを離れるためだ。


「しかし、さすがはヴァロウ様ですね」


 ペイベロは金貨の入った袋に1度接吻する。

 袖の中にしまうと、よろけた。

 もらった袋は重いが、商人としては心地よい重さだ。

 勿論、代金はこれだけではない。

 一部はヴァロウの懐に入り、残りはペイベロが信頼する商人に預けた。

 メッツァー攻略後に、受け取れる算段になっている。


 目の上のこぶだった戦費の問題が、ひとまずこれで解消される。


 そう思うと、金貨の重さに反比例して、身体が軽くなったように感じた。


「まさか鍛冶師ではなく、その管理をしている兵士を抱き込んで武器を売りつけるとは……。思いも寄りませんでした。はったりも見事に効きましたし」


 武具のノルマが達成しなければ処断されるというのは、嘘だ。


 だが、バルケーノの性格ならばあり得るはずだ。

 ヴァロウが発案したことは嘘ではあるのだが、実際ノルマが達成しなければ、かなり高い確率でバルケーノは責任者を処断しただろう。


「しかし、この嘘はバレないでしょうか」


「バレるだろうな。だが、後の祭りだ。すでに武具は中央政府に納めてしまった。刻印はメッツァーのものにしておいたから、判別は難しいだろう」


「それにあの責任者が密告するとは思えませんからね」


 ペイベロの言う通りだ。

 もし、密告すれば、首が絞まるのは責任者とその部下である。

 たとえ、どんなことがあっても、口を開かないはずだ。


「まあ、今さらどうでもいいことですけどね。お金はもらいましたし。剣も卸すことができました。あとは帰るだけです、シュインツに。ところで、ヴァロウ様。1つお聞きしたいことがあるのですが」


「なんだ?」


「何故、御自らメッツァーに来られたのですか? 難しい交渉であったとは思いますが、ご指示いただければ、わたくしでも対応できたと思いますが」


「お前の護衛が必要だった――では、答えになっていないか?」


 実際、ヴァロウがいなければ、という場面はいくらでもあった。

 特に衛兵たちに絡まれた折、ヴァロウがいなければ、今頃ペイベロはどうなっていたかわからない。


 確かに人材的にも、ヴァロウしかいなかったという側面はある。

 同じ人間の姿になれるにしても、メトラでは護衛役の任務はきつい。

 ザガスは論外だ。


 だが、それならばルロイゼンの駐屯兵の中から、精鋭を選別しても問題なかったはずである。


 魔王の副官自ら敵地に赴く愚策を犯す必要ない、とペイベロは考えた。


「敵の中心地を見ておきたかったのだ」


「それだけですか?」


「それだけというが、重要なことだ。領主バルケーノを討てば、ここが俺たちの中心地になる。48000人の民と、巨大な城塞都市を維持するには、あらかじめ綿密な下準備が必要だ。資料、数字にはないこともあるだろう。だから、この目で見ておきたかったのだ」


「こういう言い方は失礼かと思いますが、ヴァロウ様はすでに勝った気でいらっしゃるのですね」


「今日の商売で大方な。まだ不確定要素はあるが、勝利が覆るほどのものではない」


「いやはや末恐ろしい……。一体、あなたは何手先まで考えていらっしゃるのですか?」


「…………」


「いかがされましたか?」


 ペイベロはヴァロウの顔をのぞき込む。

 いつもの無表情ではあるのだが、どうも反応が気になったのだ。


 ヴァロウは振り返る。

 その視線の先には、メッツァーの宮殿であるブロワードがあった。



 ◆◇◆◇◆



 無事城門を通過し、ヴァロウたちはテーランの方面へと向かった。


 今、シュインツとメッツァーの間にはすでに部隊が展開されている。

 精々500といったところで、シュインツに攻勢をしかけることはないが、両領地の行き来を制限していた。

 そのため1度テーランの方へ南下し、ルロイゼンの鼻先をかすめるように南から入るルートを選択したのである。


 行程としては1日半の差が出るが、致し方ない。


 交代で手綱を握りながら、進んでいると、突風が巻き起こる。

 それは馬車が浮き上がり、馬が驚いて立ち上がるほどだった。


 その瞬間であった。

 大きな影が頭上を覆う。

 御者をしていたペイベロはターバンを抑えながら、空を見上げた。

 幌の中で身体を休めていたヴァロウも顔を出す。


「飛竜……」


 ペイベロは息を呑んだ。

 その瞬間、飛竜は甲高く嘶く。

 大きい。

 通常の竜よりも一回りほどある。

 大きな翼を広げ、ヴァロウたちを威嚇するように吠声を上げていた。


 すると、飛竜が真っ直ぐ降下してくる。


 ぶわっ!!


 砂埃が上がる。


「くく……。やはりここを通りよったか、鼠め」


 鼠色の髪が風に煽られ、立ち上がる。

 角張った顎に、喉元を隠すように広がった髭。

 目は大きく開き、溌剌としている。

 目尻に口元に寄った皺から考えても、どう見ても老人であったのだが、その肩幅は広く、手に持った大槍をぐるりと動かしていた。


「まさか……。バルケーノ・アノゥ・シュットガレン……」


 ペイベロは言葉を吐き、戦慄する。

 見開いた彼の目には、メッツァーの領主にして、大要塞同盟総領主の姿が映っていた。


 すると、バルケーノはすんと鼻を動かす。


「貴様は人間のようだな。鼠は後ろの小僧か」


 まるで指名するように槍の先を向けた。


「出てこい。いるのはわかっておるぞ」


 すると、ヴァロウは幌から出てくる。

 特段感情を露わにすることはなく、淡々とした足取りで馬車に出た。


 顔を上げると、ヘーゼル色の瞳がバルケーノを射貫いた。

 ぎょろりとした目玉がそれを受け止める。

 目を細めると、バルケーノはししっと笑った。


「ほう。若い魔族だな。だが、良い面構えしておる。相当な場数を踏んで折るな。100、200では効かんな。お主、何者だ?」


「ヴァロウ……」


 バルケーノの顔色が途端に変わる。

 ギリッと音を立て、奥歯を噛んだ。


「ヴァロウだと……。よもやあの小僧と同じ名とはな。そういえば纏う空気もどことなくあやつと似ておる」


 両者の会話の間に入ったペイベロは、少し疑問に思う。


 実は、エスカリナも同じようなことを言っていた。

 軍師ヴァロウと似ていると。

 他人のそら似などよくあることだ。

 お互い天才的な軍師ゆえ、重ねるところもあるだろう。


 だが、今目の前にいるのは、間違いなく魔族のヴァロウである。


 ペイベロは人間のヴァロウを知らないが、人間が魔族になるなど、どうしても信じられなかった。


「そんなことはどうでもいい。領主のお前が、何故ここにいる?」


「ふん。ならば、お主の方こそ何故メッツァーにいた? 物見遊山というわけでもなかろうて。敵情視察か」


「…………」


「黙りか。まあ、良かろう。――して、我がメッツァーはどうであった?」


 この質問にも黙りが決め込むと思ったが、ヴァロウは口を開いた。


「お前らしいと思った」


「我らしいだと?」


「バルケーノ、お前は確かに猛将だ。その強さを認めよう」


「ふん。尻がかゆいわ」


「だが、それ故に孤独だ」


「なんだと?」


「強い故に、お前はすべてを自分で成してきた。だから、自然と人に頼らなくなってきた。いや、興味がないと言い換えてもいい」


「…………」


「故に民が飢えても言葉を聞かず、民が虐げられても手を伸ばさず。お前はただ愚直に強さだけを追い求めてきた。そのすべてを己の強さで覆い隠そうとしたのだ」


「……っれ」


「だが、それは将の器であっても、君主の器ではない。それはお前も認めてるところなのだろう。それが自分の弱さであることを知っている。故に、いくさを求めた。さぞ反乱軍を潰すのは、心地の良いものであっただろう。己の強さをアピールする絶好の機会であっただろうからな」



 だまれ! 小童が!!



 バルケーノの声が森の中に響く。

 遠く離れたメッツァーにすら届こうかという勢いだ。


 ふん、と猪のように鼻息を荒くする。


「良かろう。舌戦はそなたの勝ちでいい。それほどの大言を吐くのだ。よほどそなたは君主としての才覚があるのだろう」


 バルケーノは大槍をぐるりと振り回した。


「ならば、将としての器はどうか? ここで計らせてもらおうか」


 構える。

 殺気と覇気を、目の前の小僧(ヴァロウ)に叩きつけた。

 凄まじい気を放ちながら、それでもバルケーノは笑みを浮かべている。


 先ほど、猛りながらも、この戦さを楽しんでいた。


 その挑発ともいえる行動に、ヴァロウは乗る。


 すらりと、腰の鞘から剣を引き抜いた。


 魔王の副官vs竜王。


 すべてをすっ飛ばし、大要塞同盟での戦いは、いきなりクライマックスを迎えた。


面白い! 次回も楽しみ!

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