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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
1章 ルロイゼン城塞都市編

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第6話 食糧事情

「さすがですわ、ヴァロウ様」


 最初に声を掛けたのはメトラだった。

 微笑みを浮かべながら、そっとヴァロウに上着を差し出す。

 ヴァロウは黙って、袖を通し、衿を正した。


 周りをよく観察する。


 熱狂的な歓声を上げる人間もいれば、やや警戒するような視線を送るものもいた。


「ひとまず成功ですね」


 観衆の声援に紛れるように、メトラは耳打ちする。

 ヴァロウは「ああ」と少々ぶっきらぼうに答えた。


「て、てめぇ……。最初本気じゃなかったな」


 うめき声を上げたのは、ザガスである。

 頭を振りながら、ゆっくりと巨体を起き上がらせた。


 その通りだ。

 ヴァロウは最初手を抜いていた。

 それには明確な目的がある。


 魔族の力を見せつけることだ。


 存分にザガスの力を見せた後、さらにヴァロウがそれを打倒する。

 化け物の上に、さらに化け物がいることを認識させたのだ

 それは大変な恐怖に映ったはずである。


 確かに民衆の協力を得るには、こういった座興に参加するのも1つの手であろう。


 だが、飴だけでは統治はできない。

 多少なりとも恐怖――つまり、鞭をくれることも必要だ。


 最初、ヴァロウが親睦会を提案したのも、魔族と人類の融和を進め、一方で抵抗勢力の牽制する意味合いがあったのである。


「驚いたわ。ヴァロウって強いのね」


 エスカリナは3人に近づいてきた


「当たり前です。ヴァロウ様は最強の――――」


「メトラ……」


「失礼しました」


 ヴァロウに戒められると、メトラは慌てて口を塞ぐ。


「何々? 最強の何?」


「副官という意味ですよ」


 メトラは訂正する。

 エスカリナは「ふーん」と納得しながらも、ジト目で睨んだ。


「ヴァロウ、次は真剣でやるぞ」


 ザガスは自分の棍棒を探す。

 まだ暴れ足りないらしい。

 やれやれ、とヴァロウは首を竦めた。


「ダメよ。座興はこれで終わり。これ以上やったら、残虐ショーになっちゃうわ。そこまでわたしたちは求めてない」


「うるせぇ! お前たちの事情なんて知ったことかよ!」


「そんなことを言うなら、ザガスだけ夕飯抜きよ」


「な! 飯抜きだと!!」


「今日はおいしい焼き魚なのに……」


「や、焼き魚……。な、なんだそれは……」


 途端、ザガスはトーンダウンする。


 魔族は料理をしない。

 火もあまり使わないから、ほとんど生食である。

 だから、焼き魚と聞いて、ザガスはピンときていない様子だったが、身体は正直だ。

 口の中から唾が溢れてくる。


「焼き魚ですか? 食糧は……」


「心配するな、メトラ。すでに食糧問題は一部解決した」


「え?」


 すると、広場が騒然とする。

 わっと人垣が割れた。

 その間から現れたのは、愛くるしいスライムの軍団である。

 ピョンピョンと跳ねながら、ヴァロウたちの方に近づいてきた。


 そのスライムに、串に刺さった焼き魚が刺さっている。


 ぷん、と磯の香りを周囲に漂わせた。


 ザガスの表情が緩む。

 彼だけではない。

 それを見ていたルロイゼンの市民たちも、ごくりと唾を呑んだ。


「魚だ……」

「うそ……」

「魚が食べられるの?」

「高級食材だぞ」


 ひそひそと囁く。

 本当に魚なのか。

 疑念に思いながらも、スライムに刺さった焼き魚から目が離せない様子だった。


 魚は高級食材である。

 それはそうだろう。

 何せ海は、魔族の勢力圏にある。

 磯で釣り糸1つ垂らそうものなら、魔物が襲いかかってくるような世界だ。


 故に魚を食べられるのは、王族か侯爵以上の上級貴族の食べ物だった。


 領主の娘でもあるエスカリナすら、唾を飲み込んでいる。

 それほど稀少な食糧なのだ。


「ヴァロウ。自分で言っておいてなんだけど……。これ本当に食べていいの?」


「ああ……。人数分はまだないが、家族で分け合って食べるぐらいならあるだろう」


 エスカリナの瞳が輝く。

 ルロイゼンの市民たちに振り返った。


「みんな、食べていいって! ただし一家族1つよ。欲張りさんは、ザガスに叱られるわよ」


「オレ様がなんだって?」


 ザガスは顔を上げる。

 すでに焼き魚に舌鼓を打っていた。

 豪快に頬張ったのだろう。

 白い身が口の周りについている。


 気に入ったらしい。

 ガシガシと食べると、最後は骨と頭だけになったものを飲み込んだ。


「うめぇ……」


 ぺろりと唇で舌を舐める。

 恍惚とした顔は、先ほどまで強大な暴力を振るっていた魔族とは、とても思えなかった。


 ルロイゼンの市民は焼き魚に群がるのかと思ったが、違う。

 恐る恐るスライムに近づき、串に刺さった焼き魚を拾い上げる。

 しげしげと眺めるものがほとんどだった。


 反応としては、致し方ないことである。


 彼らは魚を食べたことがない。

 どうやって食べていいのかわからない者もいた。


 恐る恐る食べ始める。

 すると、徐々に市民の顔つきが変わった。

 貪るように食い始める。


 エスカリナとて例外ではない。

 淑女の嗜みも忘れて、豪快に頬張った。

 おいしい、とモグモグと食べながら唸る。


 その姿を見ていたヴァロウの元にも、スライムがやってきた。


 ヴァロウはスライムに刺さった串を抜くと、焼き魚を頬張る。


「ふむ……」


 うまい。

 水分が吹き飛んだカリカリの皮が気持ちの良い音を立てる。

 その下から現れたのは、白いプリプリの身だ。

 新鮮であることは、食べた瞬間わかった。


 以前、1度だけヴァロウは魚を食べたことがある。


 その時は、時間が経っていて、パサパサで特においしいとは思わなかった。


 だが、この焼き魚は違う。

 肉厚な身から、旨みが滲み出てくる。

 口の中でパァと潮のように広がっていった。


 周りが夢中になるのもわかる。

 ヴァロウは無言のまま1匹の焼き魚を堪能した。


「ヴァロウ様、一体この魚は?」


 メトラは尋ねる。

 口の横に小さな身を付けていた。

 白いからご飯粒のようである。


 ヴァロウはそっとメトラの頬についた身を指ですくい取り、自分のものにした。


 その仕草を見て、メトラの顔は火が付いたように赤くなる。


「どうした、メトラ?」


「い、いいえ……、その……この魚……」


「ああ。そうだな。これは魚人たちの貢ぎ物だ」


「魚人の……!」


 ヴァロウは魔族の中では末席である海の魔物を従えている。

 彼らに命じて、魚を捕ってきてもらったのだ。


「すごい。さすが、ヴァロウ様」


「しかし、食糧事情としては一部の解決に過ぎない。さすがに魚ばかり食べさせるわけにはいかないからな」


「なるほど。確かに……。では――」


「ああ。案ずるな。次の策は考えてある」


 ヴァロウは骨と頭だけになった焼き魚を掲げる。


 いつも無表情であるワーオーガの青年は、牙を剥きだし、ニヤリと笑った。


隙あらば飯テロをぶっ込んでいくスタイル。

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