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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
6章 メッツァー潜入

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第51話 出立

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ブクマ・評価いただいた方、ありがとうございます。

「め、メッツァーに武具を売りに行く?」


 エスカリナとメトラの声が響いた。


 街を見回り、執務室に戻ってきたヴァロウは紅茶を啜る。

 シュインツのほとんどが鍛冶場だ。

 他の都市と比べても、空気が悪い。

 周りが山であるため循環も悪く、淀みやすいのだ。


 おかげで街を一回りするだけで、喉がいがらっぽくなってしまった。

 それをヴァロウは紅茶で癒やす。

 ティーカップを置くと、事情を説明した。


「戦費を稼がなければ、この先戦えない。シュインツを維持するのもあるが、第四師団との契約もあるしな」


「お金が必要なのはわかるけど……。いつも通り、お魚を売るだけじゃダメなの?」


 エスカリナは尋ねる。

 その質問には、ペイベロが尋ねた。


「小売業で稼げるお金は微々たるものです。それに、そろそろわたくしの素性を怪しむものが現れ始めました。あまり派手に商売するのは控えた方がいいかと……」


「その点、武具は利益が大きい。需要もある。特に今は戦時下だしな」


「にしたって、直近の敵に売るのはどうかと思うわ」


「それには理由があってな――――」


 ヴァロウは理由を語った。

 それを聞き、エスカリナとメトラは目を剥く。

 先に聞いていたペイベロも、やれやれと首を振った。


「さすがですわ、ヴァロウ様」


 メトラが称賛すれば、エスカリナは渋い顔を見せる。


「相変わらずえげつない作戦を考えるわね、あなた」


「ええ? わたくしも聞いた時は寒気がしました。この作戦が成功すれば、もしかしたら戦争そのものが変わるかもしれませんよ」


 ペイベロも同調する。


「でも、メッツァーは危険じゃない? あそこは大要塞同盟の主都市よ。潜り込むのは容易じゃない。まずはヴァルファルを目指すべきじゃ……」


「いや、ヴァルファルはダメだ」


「どうして?」


 すると、ヴァロウは腕を組む。

 書類に視線を落とした。

 そこにはヴァルファルの領主の名前が書かれている。


 ルミルラ・アノゥ・シュットガレン。


 その名前を見て、ヴァロウの顔が少し曇る。


「ヴァルファルには、少々厄介な相手がいる」


「厄介な相手?」


「ルミルラですか……。確かに厄介ですね、彼女は」


 メトラも眉間に皺を寄せる。

 黙りこくった2人を交互に見つめながら、エスカリナは尋ねた。


「最近、領主になった人だからわたしは知らないのだけど、ルミルラっていう領主はそんなに厄介な人なの?」


「ええ……。ルミルラは――」


「メトラ……」


「ああ。すいません」


 メトラは慌てて口を噤んだ。

 エスカリナは首を傾げるだけにとどめる。


 ルミルラはヴァロウが人間だった頃の教え子だ。

 そして、そのポテンシャルはヴァロウも認めるところだった。

 教え子故に、その弱点も熟知しているが、向こうもヴァロウを知っている。

 戦うなら、メッツァーの方が先だと考えていた。


「とりあえず、メッツァーへ行く」


「え? もしかしてヴァロウも行くの?」


「私も聞いてませんよ、ヴァロウ様。ペイベロに任せておけば……」


「いや、さすがにペイベロだけでは荷が勝ちすぎている。ペイベロの能力を疑うわけではないが、今回の交渉は難しいものになるだろう」


「わたくし、1人で十分と――と言いたいところですが、ヴァロウ様の言う通り。少々わたくしには責任は重すぎます」


「それに……。お前が欲を出さないか見張る必要もあるしな」


 ヴァロウは釘を刺す。

 ペイベロは商人だ。

 利があれば、そちらになびく可能性もある。

 そのお目付役というわけだ。


「ああ……。やはりそういう意味もありましたか。やれやれ。まだ信用されていないようですね。馬車馬のように働いているのに……」


「では、私も行きます」


「いや、メトラは残ってくれ。あまり大所帯で行きたくない」


「しかし――」


 メトラは食い下がる。


「お前には饗応役を命じる」


「饗応役?!」


「ああ。おそらくだが、俺がいない間、客がここに来ると思うからな」


 ヴァロウは執務室にかかった地図を見る。

 ある地名に視線を注いでいた。



 ◆◇◆◇◆



 ヴァルファルに戻った領主ルミルラは、私室の机に座り、考えにふけっていた。


 時間は夜である。

 黄金色に輝く月が空を支配し、月光がルミルラの私室を照らしていた。

 それでも薄暗い部屋には、1枚の地図が掲げられている。


 それをルミルラはじっと見ていた。

 頬杖を突き、時折机を指で叩く。

 まるで恋人を待っているような少女のようだ。


 すると、突然ルミルラは立ち上がる。


「決めた」


 そう一言いうと、私室を出ていった。

 衛兵に見つからないように館をこっそり抜け出す。

 向かったのは、スライヤの厩舎だった。


 そっと戸を開ける。

 羽を畳み、寝ていたスライヤは長い首を持ち上げた。

 ふごっ、と興奮したように鼻を鳴らす。


「しー」


 ルミルラは指を当てて、スライヤを鎮める。

 飛べる? と囁くと、その期待に応えるように飛竜は羽を広げた。


「ありがとう。いい子ね、スライヤは」


 目を細め、スライヤの鼻頭を撫でる。


 すると鐙を載せ、その背に跨がった。

 首を叩くと、スライヤは走る。

 厩舎を抜け、月が版図とする夜空へと舞い上がった。


 スライヤは首を振り、鼻息を荒くする。

 行き先は? と尋ねているようだった。


「行き先はシュインツよ」


『ぐおおお……』


「そう。今は魔族が支配しているの。でも、会ってみたくなっちゃった」



 私の大好きな軍師と同じ名前の魔族を……。


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