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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
6章 メッツァー潜入

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第50話 戦費調達

早くも新章開始です。

よろしくお願いします。

 シュインツの領主館で、ヴァロウは執務に励んでいた。

 メトラと一緒に書類の精査をしていると、エスカリナが部屋にやって来た。


 まだ帰っていなかったのか、とメトラは厳しい目を向ける。

 だが、エスカリナは全く気にせず、執務室に入ってきた。


「ヴァロウ、お客様よ」


「お客様……? 一体、今度は誰ですか?」


 メトラはやや詰問した。

 折角のヴァロウとの2人っきりの時間を邪魔されたからだ。


「わたくしです……」


 ふらっと執務室に入ってきたのは、ペイベロだった。

 何故か、青い顔をしている。

 しばらく見ない間に、やつれてしまったような気がした。


「ペイベロ! あなたまでここに来たのですか?」


 メトラは頭を抱える。


「一体、今……。ルロイゼンは誰が治めているのかしら?」


「それなら駐屯兵の隊長に任せてきました。気の毒ですが……。それよりも、ヴァロウ様。聡明なあなたなら、何故わたくしがここに来たのか、おわかりですよね?」


「ああ……。わかっている。そろそろ来る頃だと思っていた」


 ヴァロウは羽ペンを置く。


 机に肘を突き、組んだ手に顎を載せた。

 少々不機嫌そうに眉を動かす。

 ヴァロウとペイベロに漂う重い空気を察したのは、エスカリナだった。


「2人ともどうしたの? なんか顔が怖いのよ」


「ないんですよ」

「ああ……。ないな」


 ヴァロウとペイベロは声を揃える。

 エスカリナは首を傾げた。


「何が……」


 そしてまた同時に返答した。



 お金です。

 金だ。



 執務室は静寂に包まれる。

 中庭の木の枝に止まった小鳥が、窓の外からヴァロウたちの様子を覗き見していた。


「へ? 戦費ってそんなにヤバいの?」


 エスカリナが尋ねた。


「当たり前です! ルロイゼンだけを治めていた時とは違うんですよ。今はシュインツにも、食糧を送っているような状況なんです。しかも、1万以上のドワーフを食わせなければなりません。いくら魚で儲けていても、今は完全な赤字なんです」


 珍しくペイベロは声を荒らげる。

 その必死な形相を見て、エスカリナとメトラは何故この商人がげっそりとやつれているのかを理解した。


「そもそも誰ですか? 貴重な魚を大盤振る舞いして、煮魚にしたのは? 一週間分で考えていたのに、2日でなくなったってどういうことですか?」


「さ、さあ……。それは誰だったかしら。あ! そうだ。わたし、ゴブリンに呼ばれていたんだったわ。じゃあ頑張って、ヴァロウ、ペイベロ!」


 手を振り、主犯は執務室から出て行った。


 ヴァロウは1つ息を吐く。

 いつの間にか机の側まで詰め寄ってきたペイベロの方を見つめた。


「案ずるな、ペイベロ。これも俺の手の平の上のことだ」


「なら、こうなる前に手を打っておいて下さいよ」


 すると、メトラは咳払いする。


「ペイベロ、慎みなさい。ヴァロウ様はあなたの領主なのですよ」


「……失礼しました」


 ペイベロは居住まいを正す。

 額の汗を一旦拭い、ヴァロウに向き直った。


「よい。そうだ。こうなるとわかっていたから、手は打っておいた」


「それでは、その奇策をご教示いただけますか?」


「ああ……。今から行こう」


 ヴァロウは立ち上がった。



 ◆◇◆◇◆



 ヴァロウがペイベロを伴って、訪れたのはアルパヤの工房だった。


 背の高い荒屋のような工房には、多くのドワーフが詰めている。

 大きな魔導機械の周りで、指示を出し、自らも螺旋を絞めてアルパヤも作業していた。


「な、なんですか、この鉄の塊は……?」


 ペイベロは顔を上げる。


 それは確かに鉄の塊といわれても仕方ないことだった。

 新生キラビムはまだまだ開発が始まったばかりである。

 装甲すらできておらず、大きな魔法鉱石(ミスリル)の塊からは、動力を伝達する回路が伸びているだけだった。


 ペイベロはジト目でヴァロウを見つめる。


「もしかして、最近の兵器開発費が膨らんでいるのって」


「ああ。予算の一部をこちらに回した」


「そういうのは先にいっていただかないと」


 ペイベロはがっくりと項垂れる。


「ペイベロ……」


 メトラは目くじらを立てる。


「失礼しました。しかし、これは何ですか?」


「人類を200万人殺す兵器だ」


「に、にひゃくまん! ……こ、これがですか? とてもそうは見えませんが」


「ああ。それは俺も思う」


 すると、ヴァロウはアルパヤを呼び出す。

 ドワーフ族の娘をペイベロに紹介すると、進捗状況を尋ねた。


「キラビムの2号機の開発はどうだ?」


「まだ2割ってとこかな」


 アルパヤは目にはめていたゴーグルを上げる。

 ヴァロウは顎に手を置いた。


「遅いな。もうすぐいくさが始まるんだぞ」


「わかってるよ。でも、ヴァロウから頼まれている件もあるし」


「そっちは?」


「同じくらい……」


「じゃあ、明後日までに進捗を50までに上げろ」


「えええええ……。そんな……」


あれ(ヽヽ)は次の戦いではどうしても必要だ。でなければ、キラビムの開発どころじゃなくなる」


「わ、わかってるよ! はあ……。ヴァロウの人使いの荒さは、人間以上だよ」


「人員は補充してやる。簡単なことなら、その辺でうろついているゴブリンを捕まえて手伝わせてもいい」


「わかった。頑張るよ」


「頼む」


 アルパヤは折れた。


 すぐに作業をしていたドワーフたちを呼び出す。

 作業工程の変更を的確に伝え始めた。


 その様子を見ながら、ペイベロは感心する。


「彼女、若いですが優秀ですね」


「ああ……」


 ヴァロウは頷いた。

 単なる魔導工学マニアだと思っていたが、アルパヤの知識は工程の効率化、品質管理など多岐に渡る。

 説明もわかりやすいと、他のドワーフからも好評だ。


 シュインツを人間たちが治めていた頃、ドワーフは単なる奴隷でしかなかった。


 しかし、ヴァロウは違う。

 アルパヤなど優秀な人材がいないか、シュインツに残っていた過去の作業記録を事細かに精査し、発掘している。

 必要であれば、本人に面談し、ドワーフのリーダーとして取り立てていた。


 戦費の不足は確かに頭が痛い問題だ。


 だが、ヴァロウはそこまで深刻に考えていなかった。

 金というのは、きちんと経済活動をすれば、手に入れられるものだからである。


 が、人材は違う。


 手に入れられる時に、手に入るものではない。

 優秀な人材は機を逸すれば、他に取られるのは自明の理である。


 今、シュインツには12000のドワーフがいる。

 これだけの数がいれば、必ず優秀な人材が3人ないし5人はいると考えていた。


 そのヴァロウの読みは当たり、シュインツの生産能力はすでに人間が治めた時よりも、倍増している。




 アルパヤの工房を辞し、ヴァロウとペイベロが次に向かったのは鍛冶屋街だった。


 ヴァロウの姿を認めると、ドワーフたちは頭を下げる。

 鍛冶屋街で働くドワーフたちは、年が上だ。

 それ故、権威の恐ろしさを知っている。

 特に、魔族を裏切ったという気持ちが強いのか、アルパヤたちのような若い世代とは違い、やはりヴァロウたち幹部とは一線を引いていた。


 ヴァロウは近くにいたドワーフを呼び止める。

 「例のものはできたか?」と尋ねると、鍛冶屋街から少し離れたところへ案内した。


 そこには荷馬車の荷台が並べられている。

 覆っていた布を解くと、ペイベロは思わず「おお」と声を上げた。


 そこにあったのは、剣、槍、弓、あるいは鎧だった。


 つまりは武具である。


「ぶ、武具ですか? それもこんなに大量に……。すごい……」


 ペイベロは感心する。

 だが、ふと我に返った。


「いや、ちょっと待ってください。こんなに大量の武具をどうするのですか?」


 ペイベロが尋ねたのも当然だ。

 何故なら、ヴァロウが率いる第六師団には十分武器が行き渡っている。

 援軍でやってきた魔狼族も、そもそも武器を使わないから、必要ないのだ。


 将来的には必要になるかもしれない。

 が、先行投資にしても気が早すぎる。

 むしろ在庫として考えられるため、その維持管理から考えても、完全な赤字といってもいい。


 だが、ヴァロウのことである。

 何か意味があると考え、ペイベロはそれ以上口にしなかった。


 やがて最強の軍師は、ペイベロの予言通り口を開く。


「作ったから売る。それは当たり前の経済活動だろ?」


「それは真理ではありますが、買い手がいなければ商売として成り立ちませんよ」


「買い手ならいる」


「魔族が鎚った剣など、誰が買ってくれるんです? 魔族の本国が買い取ってくれるのですが……」


「そんな遠くではない。俺たちの目の前にいるだろう」


「目の前…………」


「しかも、そいつらは武器を欲しがっている。何せ注文していた武器や防具が届かなくなったのだからな」


「まさか……」


「そうだ。買い手は大要塞同盟だ」


「て、敵に剣を売るのですか!?」


 ペイベロは素っ頓狂な声を上げる。


「ああ……。その通りだ」


「我々に向けられる武器を、我々が売ると……」


「心配するな……」



 すべては俺の手の平の上だ。


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