第47話 補給部隊到着
本日は日常回です。
シュインツを攻略し、占領下に置いたヴァロウたちはつかの間の休息を取っていた。
領主館を接収したヴァロウは、早速シュインツの状態を点検する。
残っていた書類を1枚1枚確認した。
もうすぐヴァルファル、もしくはメッツァーが攻めてくる。
その前に、シュインツの財政状況や裏帳簿などを確認する必要があった。
敵を事細かく分析するのが、軍師の仕事だ。
ある程度、予想はついているが、あくまで予想でしかない。
真実を掘り下げていけば、思わぬ掘り出し物があるものだ。
書類の精査に励んでいると、ヴァロウの下にベガラスクが現れた。
白銀の魔狼族は、どこか落ち着きがない。
せわしなく尻尾を振ったり、耳を掻いたりしていた。
「どうした、ベガラスク?」
「う、うむ。う゛ぁ、ヴァロウよ。オレのシュインツの活躍はどうだった?」
「活躍? ああ……。助かった。お前と第四師団がいなければ、シュインツを落とせなかっただろう。魔狼族の制圧力はさすがだな」
ヴァロウは褒め称える。
普段の彼から考えれば、まるで嫌味のように聞こえるだろう。
だが、ヴァロウはただ素直な気持ちを吐露しただけだった。
「ふ、ふん……。そ、そうであろう」
ベガラスクは気を良くしたらしい。
大きく胸を反り、遠吠えでもするように鼻を掲げる。
ぶんぶんと振った尻尾の毛並みはよく、もふもふになっていた。
「それで……。そんなことを言いに来たのか? 俺は忙しい。次の戦に備えなければならんのだ」
ヴァロウは書類に目を落とそうとする。
我に返ったベガラスクは慌ててヴァロウに迫った。
「ち、違う。そうではないのだ……。ううむ……。なんといえば、いいのか。褒美とでもいうのか……」
「褒美がほしいのか? それは構わんが、普通褒美というのは目上のものからもらうのであって――――」
「いやいや、そういうわけではない!」
ベガラスクはブルブルと首を振る。
また耳を掻き、尻尾を振った。
「そのつまり……。け、契約だ!」
「契約?」
「そう。お前と取り交わした契約だ。あれはどうなっている?」
ベガラスクは瞳を光らせた。
そこでようやくヴァロウは気付く。
持っていた羽ペンを置いた。
「なるほど。お前、焼き魚が食べたいのだな」
「べ、別に! おおおお、オレが食べたいわけじゃないぞ。へ、兵が食べたいっていうから。そ、そもそもお前とはそういう契約で……」
ベガラスクは素っ気ない風を装う。
だが、心情というのは身体のどこかに出るものだ。
特にベガラスクはわかりやすいアイコンを持っている。
尻尾をぶんぶんと振っていた。
どうやら、焼き魚を毎日食べるという契約は、相当魅力的なものだったらしい。
「わかったわかった。心配するな。すでに補給部隊がシュインツに向かっているはずだ。……それまで待て」
「補給部隊だと……」
「ああ……。シュインツはドワーフの街だ。まともな食糧はないとわかっていた。だから、時間差をつけて補給部隊をルロイゼンから進発させておいたのだ」
「おお!」
ベガラスクの顔が輝く。
まるで子どものようだった。
だが、すぐに表情を整える。
再び第四師団の師団長としての威厳を取り戻そうとするが、すでに遅かりしだった。
◆◇◆◇◆
「みんな、お待たせ!」
城門をくぐり、補給品を詰んだ荷馬車と一緒に現れたのは、エスカリナだった。
長旅だったにも関わらず、疲れを全く見せていない。
向日葵のような笑みを、周囲に振りまいていた。
それを見て、ギョッとしたのはメトラだった。
横のヴァロウもやれやれと首を振る。
エスカリナが補給部隊に帯同していることを、この時初めて知ったからである。
「あなた、どうして? ルロイゼンにいるはずじゃ」
「シュインツに知り合いがいてね。会いに来たのよ」
「知り合い?」
「メフィタナさんっていって、ここの領主のはずだけど」
「あなたもメフィタナ先生を知っているの?」
「メフィタナ先生……?」
「はっ!」
メトラは慌てて口を塞いだ。
だが、遅い。
エスカリナはジト目で睨む。
問いただそうと口を開いた時、ヴァロウがメトラを助ける。
「メフィタナはいない。中央に連行されたそうだ」
「え? わたし、そんなこと聞いてないわよ!」
今度は、エスカリナが素っ頓狂な声を上げる番だった。
「不名誉なことだし。お前の父が報告しなかったのだろう」
「そっか。だから、手紙を送っても返事がこなかったのね」
「そのメフィタナという人物とは、仲が良かったのか?」
「うん。面白い人よ。すっごく変わった人だけど……」
「…………か」
「ん? ヴァロウ、何か言った?」
エスカリナはヴァロウが何か囁いたのを聞き逃さなかった。
確かに言ったのだ。
「相変わらずか」と。
「そのことはいい。来てしまったのならしょうがないが、お前の役目は補給ではない。ルロイゼンの維持だ。仮にも領主代行を務めているのだから、軽はずみな行動はするな」
「……うっ。ごめん、ヴァロウ」
「あと、どうしても城塞都市の外に出たいなら、まず俺に報告しろ。報連相は基本中の基本だ。教わらなかったか?」
「そうだったわね。ヴァロウの書物にも書いてあったし。ああ。このヴァロウは、人間の方のヴァロウね」
「…………」
「ごめんなさい、ヴァロウ。今度からは気を付けるわ」
「わかればいい。補給部隊として来たのだ。部隊の手伝いをしてやれ。早々に焼き魚の用意をしないと、魔狼族がお前たちの首を掻き切ることになるぞ」
「そ、それは怖いわね……。なるべく早くするわ」
エスカリナは顔を青くする。
ヴァロウは忠告すると、2、3人の兵に指示を出して、自分は領主の館に戻っていった。
その小さな後ろ姿を見ながら、エスカリナはある1人の男と重ねる。
小さい頃、たまたま父に連れられた戦場で見た――あの軍師の背中とそっくりだった。




