第45話 200万の命
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「あーあ……。回路がボロボロだ……」
黒焦げになったキラビムを見ながら、アルパヤは息を吐く。
落ちていたベレー帽の埃を払うと、ぼさぼさの灰色の髪を帽子の中に収めた。
魔法鉱石には弱点がある。
耐火耐水耐圧には強いのだが、雷属性の魔法には弱い。
対処法として、特殊な膜を張る方法があるのだが、キラビムには処理が施されていなかった。
雷を通した魔法鉱石が反応し、中の領主諸共黒焦げにしたのである。
中の領主の遺体を出して、回路などを確認したが、どこも焼き切れていた。
「一からやり直しか……」
「ああ。そうだ。一からやり直せ」
悪びれることもなくそう言ったのは、ヴァロウだった。
アルパヤと一緒に、キラビムの損傷具合を確認している。
「元々これは掘削用に作っていたのだろう?」
「え? う、うん……」
「ならば、戦闘用に作り直せ。今のままでは、やはり魔法鉱石の塊でしかない。対雷属性被膜も貼っていなかったしな」
「えっと……。ちょっと待って、ヴァロウ! いいの? ボク……。キラビムを作って……」
「確かにこのキラビムだけでは、200万の人類を殺せないだろう」
「う――うん。それは……気付いてた。その、それは方便で……」
「俺の話をちゃんと聞け。俺はこのキラビムだけでは――と言ったのだ」
「ほへ?」
アルパヤは首を傾げる。
頭に載せていたベレー帽がずり落ちた。
「50、いや――まず最低100体のキラビムを用意しろ。むろん、改良したものをな」
「100体!?」
アルパヤは思わず叫声を上げた。
1体作るだけでかなりの時間がかかったのだ。
それが100体なんて気が遠くなる作業だった。
「100体でキラビムの部隊を組織し、そして200万の人類を殺せ……。そして200万の命を救え……」
俺がその戦場を用意してやる……。
「ヴァロウ……」
そのヴァロウの横顔を見ながら、アルパヤは顔を赤くする。
「待て、ヴァロウ!」
待ったをかけたのは、ベガラスクだった。
「それはドワーフたちを許すのか? それとも、このアルパヤというヤツを許すのか?」
鋭い視線を向けながら、ヴァロウに詰問する。
身が竦むような視線を浴びても、ヴァロウの表情は変わらなかった。
そして、事も無げに言い放つ。
「ドワーフだ」
「貴様!! 百歩譲って…………この女が優秀な技師であることは認めてやる。キラビムという奇怪な兵器を量産するというなら、それもいいだろう。だが、それはこの女にできることであって、他のドワーフは違う!」
「ベガラスク、お前は何を聞いていたのだ?」
「なにぃ?」
「アルパヤは言った。『ホントはみんな、戦争の武器なんて作りたくなかった』。こいつらは、イヤイヤ武器を作らされていただけだ。そんな作り手の魂のない剣で、俺たち魔族を斬れると思うか?」
「それこそ詭弁であろう! こいつらの罪が許されるものではない」
「ならば、ドワーフの住み処であることを百も承知しながら、ここを放棄し、撤退せざる得なかった魔族はどう裁かれるのだ?」
「う……。それは――――。いや、そもそもオレがいいたいのは、こいつらがまた裏切るという可能性だ!」
「ならば、俺たちがきっちりと管理すればいい」
「お前! 第六師団で面倒を見るつもりか?」
「なんだ? 第四師団が面倒を見るのか?」
「ふん! 鈍足のドワーフなど。我らについていけるものか」
「決まりだな……」
「いやいやいやいや、待て。勝手に決まるな」
「いずれにしろ。こいつらの沙汰は俺たちが決めることではない。魔王様が決めることだ。違うか?」
魔王という名前が出てきて、初めてベガラスクは反論を止めた。
1万人規模の魔族を裁くのだ。
いくら魔王の副官といえど、裁量権の範疇を超えている。
中央にお伺いを立てるのは、当然と言えば当然だった。
「わかった。魔王様の判断を仰ごう……」
ようやくベガラスクは矛を収める。
すると――――。
「がああああああああああ!!」
吠声が響き渡る。
倉庫の壁を破壊しながら現れたのは、ザガスだった。
どうやらずっと気絶していたらしい。
「くそ! もう一戦! 鉄くず野郎! かかってこい!!」
声を張り上げる。
だが、キラビムが壊れてしまったことを聞くと、今度はアルパヤの胸ぐらを掴んだ。
「今すぐ修理しろ!」
「そ、そんな簡単に直ったら苦労しないよ!」
「魔法でパパッと直せばいいだろうが」
「キラビムはそんな簡単なものじゃないの!! ねぇ、ヴァロウ! このお兄さんに、説明してよ」
「ザガスに説明して納得するほど頭はよくない。突っかかられるのがイヤなら、とっととキラビムの二号機を作るんだな」
「ああ! もう! これじゃあ、人類が治めていた時の方がマシだよ!!」
アルパヤは弱音を吐くのだった。
◆◇◆◇◆
再びドワーフたちは集められた。
アルパヤの倉庫で語られたことを話す。
戸惑う者もいたが、ひとまず命がつながったことに安堵するものがほとんどだった。
だが、武器作り、魔族に再び貢献するというのには、難色を示すものがいた。
そのほとんどがベテランの職人たちだ。
人類軍の下でかなり酷使されていたらしく、もう身体がボロボロなのだという。
ゆっくり余生を過ごしたい、というのが希望だった。
当然、ベガラスクは難色を示した。
だが、ヴァロウは「それでいい」と頷く。
「先にもいったが、魂のこもっていない武器ほど不要なものはない。やる気がないなら、それでもいい。ただ――」
すると、ヴァロウは1枚の紙を書かれた。
魔族の書類ではない。
なぜならば、人間の言語で書かれていたからだ。
「最後に、お前たちがやり残した仕事をしてもらう」
「オラたちが……」
「やり残した……」
「仕事?」
ヴァロウは書類をドワーフたちに見せた。
確認した瞬間、ドワーフたちはギョッと目を剥くのだった。




