エピローグ(前編)
日間総合の59位まで戻って参りました!
嬉しくって投稿です。
もう一花ぐらい咲かせたい!!
ブクマ・評価して下さった方ありがとうございます。
ちょっと長くなったので前後編に分けます。
撤退戦から1年後。
ヴァロウは第六師団の再編成を急いでいた。
第六師団に生き残りはいない。
自分のしたこととはいえ、兵として使える人鬼族を失ったのは痛い。
数を揃えるのは、もっと後になるだろう。
今は、魔獣を使役して、数を埋めるしかない。
とはいえ、幹部がヴァロウとメトラ2人だけというのも不味い。
ヴァロウは指揮官、メトラは補佐。
可能であれば、純粋な武将タイプがほしいところだった。
「人鬼族に生き残りがいるだと……?」
珍しくヴァロウは声を荒らげる。
報告したメトラは小さく頷いた。
第六師団にいた人鬼族は全滅した。
後に残っているのは、軍に参加していない子どもや女たちぐらいだろう。
ヴァロウはそう思っていたのだが、メトラがゴドラムたちが残していた書類の中から、1人人鬼族の男が残っているのを見つけたのだ。
「はい……」
「なんで、そいつは先の戦いの折にいなかったのだ? 脱走兵か?」
「いえ。そうではありません。ヴァロウ様が第六師団に入団する前にいた師団長補佐だったようです」
「俺の先輩ということか……」
ヴァロウはティーカップに手を伸ばす。
口に近づけると、果物のような香りが鼻腔を突いた。
十分に香りを楽しんだ後、ずずっと小さな音を立てて飲む。
口の中にふわりと香りが広がっていく。
身体の中に周り始めると、やや波だった精神が落ち着いていくのがわかった。
自分が入れた紅茶に満足するヴァロウはを見ながら、メトラは説明を続ける。
「ですが、軍の規律を守らなかったということで、当時辺境だったドライゼル城に投獄されたそうです」
「問題児を島流しというヤツか……。軍の規律を破ったというのは、具体的にどういうことだ?」
「詳しくは書いてないんですが、要約すると、ゴドラム様と意見が合わなかったようです」
「あいつと意見が合うヤツなど、この世にいないと思うがな」
ヴァロウは息を吐く。
よほどその元補佐役も苦労したと見える。
牢屋に入れられるまで暴れ回った気持ちは、わからなくもなかった。
ヴァロウはカップを置き、すっくと立ち上がる。
「どこかへ行かれるのですか?」
「そいつに興味が出た。早速、行ってみよう。このドライゼル城にいるのだろう」
「はい。ですが――」
「なんだ?」
「妙な異名がついておりまして」
「異名?」
『風の勇者』『毒の勇者』と人類が強い人間に異名を付けたがるように、魔族にも時々異名を持つものがいる。
人間たちが勝手につけることもあれば、魔族であったり、自ら称することもある。
由来は様々だが、どうやらその元補佐役は、自分で名乗っているのだという。
「なんという名前だ?」
「はい――」
『死にたがり屋』というそうです。
◆◇◆◇◆
薄暗い廊下に軍靴が鳴る。
冷たい石床を歩きながら、ヴァロウはその匂いに顔を顰めた。
横のメトラも脇に書類をはさみながら、鼻を摘まんでいる。
死臭と腐臭、さらに汚物の臭いが混じり合っていた。
それが100年単位で熟成されている。
格子の向こうから獣の声が聞こえた。
メトラのお尻を触ろうと、手を伸ばす。
「どうやらここは一風変わった動物園でもあるようだな」
「そ、そのようですね」
メトラは自分の尻に向けられた手を払う。
2人は奥へと進み、分厚い鉄の扉の前で止まった。
メトラが魔法を唱え、施錠を外す。
老婆の笑い声のような音を立て、錆びた鉄の扉が開いた。
ヴァロウも、メトラも警戒し、一瞬構える。
だが、それは杞憂に終わった。
血の香りが鼻腔を突く。
ヴァロウは房の中に入ると、目を冷ました。
1匹のオスの人鬼族がいた。
両手両足を鎖で繋がれ、赤いざんばら髪を垂らして、項垂れている。
ほとんど裸のまま獄に繋がれて、鋼のような肉体をさらしていた。
ざっと20年以上、こうして繋がれているらしいのだが、干上がるどころか、いまだ肉体は生き生きとして見える。
しかし、その腹は今、2本の腕に貫かれていた。
誰のものでもない。
男の人鬼は、己の手で腹を突いていたのである。
随分、前に貫いたらしい。
すでに血は固まり、患部はどす黒くなっていた。
「死んでる?」
メトラは尋ねた。
確認しようと1歩前に出るが、ヴァロウがそれを制す。
ヘーゼル色の瞳が、冷たい光を讃えた。
「起きてるんだろ?」
「え?」
一瞬、メトラは自分にいわれたのかと思って、反応した。
だが、違う。
ヴァロウが話しかけたのは、目の前の人鬼だった。
「くへへへへへ……。ちぇ……。近づいてきたら、食ってやろうと思ったのによ」
1匹の人鬼は笑いながら、顔を上げるのだった。
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