第31話 竜人族
魔馬を駆り、ヴァロウは行軍する人類軍の鼻先に飛び出す。
その後ろには、メトラがいた。
「なかなか壮観ですね」
「ああ……」
2人の視界に移ったのは、土煙を上げて突き進む騎兵部隊である。
その数5000。
横一列に並んだ馬頭と、その大きな土煙は、メトラの言う通り壮観だった。
ここまでの数の騎兵はなかなか見られるものではない。
騎兵はまず軍馬の育成から始めなければならないから、貴重なのだ。
おそらく各部隊からかき集めた混成部隊なのだろう。
追っている相手が魔王であることは、向こうもわかっている。
故に、人類軍も必死だ。
魔王さえ討てば、この戦争は終わると思っているからである。
「いたぞ!」
「魔族だ!」
「こっちだ!!」
「続け! 続け!!」
すると、騎兵部隊はヴァロウたちに気付く。
転進すると、こちらの方へ向かってきた。
即座にヴァロウは魔馬の腹を蹴る。
馬頭を返すと、例の森に向かって走り出した。
「ヴァロウ様が立てた作戦に疑問の余地はないと思いますが、本当に100名で5000を倒せるのですか?」
「随分、矛盾した言葉だな。まあ、いい。心配するな。全部を倒すわけではない。俺たちがしなければならないのは、まず足止めだけだ」
「人類軍は引っかかるでしょうか?」
「ああ。引っかかるさ。これは人類軍の思い込みを利用した作戦だからな」
「思い込み……?」
「ところで、メトラ。お前、さっきから何を怒っているんだ?」
「べ、別に怒ってません」
そう言いながらも、メトラの頬は膨らんでいた。
◆◇◆◇◆
ヴァロウたちは魔馬を駆り、森の中に逃げ込んでいく。
その後を人類軍の騎兵隊たちが追いかけてきた。
よく訓練された馬らしい。
口から泡を吹きながら、暗い森の中でも茂みを突き破りながら突っ込んでくる。
「追ってきますわ、ヴァロウ様」
「おそらく興奮作用のある魔法を使っているな」
騎兵部隊にはよくある戦術だ。
馬を興奮状態にして、突撃させる。
そうでもしないと、魔族や魔獣の吠声だけで立ち上がってしまうからである。
「どうしますか?」
「問題ない。吠声の対策はできているようだが、これはどうかな?」
ヴァロウはにやりと笑う。
その瞬間だった。
ひぃいぃぃいぃぃぎゃあああああああああああああああああああ!!!!
巨大な音の塊が炸裂した。
まるで森の木を根こそぎ掘り起こされそうな音圧が、ヴァロウや追跡してくる人類軍を囲む。
それは魔獣の吠声ではない。
いわば竜の嘶きだった。
詳しくいえば、竜人族の嘶きだ。
第一師団から借りた100名の兵士が、一斉に声を張り上げたのである。
それでも騎兵部隊は突き進んでいく。
馬はなお走り続けた。
だが――。
バタッ!!
突然、馬に乗っていた騎兵が落ちた。
1人、また1人と落馬していく。
総じて泡を吹き、白目を剥いて、意識を失っていた。
かろうじて意識を保てた兵も、ふらりとバランスを崩す。
猛スピードで駆け抜ける馬から落ちると、そのまま首の骨を折って死んだ。
「作戦の第一段階成功ですね」
「ああ……。馬に対策は施していても、人間には対策を施さなかったようだな」
魔族の吠声は、天然の【雄叫び】だ。
人間を居すくませる能力を持っている。
魔族の中でも最強といわれる竜人族の吠声ともなれば、心臓すら停止させる威力を持つ。
騎兵部隊は混乱した。
指揮官はその時になって、自分たちが誘い込まれた事に気付く。
部隊は一旦馬を捨てた。
魔法で興奮状態にある馬は、それが切れるまで走り続ける。
立ち止まるには、一旦馬を捨てるしかないのだ。
走っている馬の上から降りる訓練を騎兵は日頃からしている。
ふわりと魔法で浮き上がると、なんとか森の地面に着地した。
だが、あちこちですっ転ぶ騎兵たちが続出する。
滑りやすい地面に首を傾げているのが見えた。
メトラはそれを見て叫ぶ。
「ヴァロウ様、騎兵部隊が止まりました」
「こちらの動きがいつも違うことに気付いたな。指揮官の冷静さを評したいところだが、もうすでに――――」
俺の手の平の上だ……。
ヴァロウは手綱を引く。
魔馬を転進させると、手を掲げた。
「今だ!!」
ヴァロウは合図を送る。
すると、騎兵部隊を囲むようにあちこちで炎が灯った。
「なんだ?」
「まさか……」
「おい!」
「地面だ! 地面を見ろ!!」
やっと騎兵部隊は気付く。
それは油だった。
刹那、炎が放たれる。
猛火が騎兵部隊に迫った。
それが地面の油に引火して、さらに燃え上がる。
「ぎゃああああああああ!!」
「助けて! 助けてくれ!!」
「火ぃ! 火ぃいいいいいいいい!!」
騎兵部隊が逃げまどう。
5000の兵は一気に炎に包まれた。
「すごいですね」
それを見て、メトラは息を呑む。
彼女が称賛したのは、その炎の勢いだ。
油を使っているとはいえ、それでもここまで火の回りは速くない。
これもそれも、使われた炎に秘密があった。
それは竜人族が吐く炎だ。
彼らは炎を吐くことができる。
それも通常の炎よりも、さらに温度が高い。
人間であれば、一瞬にして丸焼けになるほどだ。
だが、竜人族の恐ろしさはそれだけではなかった。
「かかれ!!」
ヴァロウは手を振る。
すると、100名の兵士たちは突撃した。
炎の中をくぐり抜け、まだ生きている騎兵に襲いかかる。
阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくるのに、さほど時間はかからなかった。
竜人族の鱗の耐火性能は、魔族の中でも随一といわれる。
たとえ、火山の火口の近くであろうと、彼らは平気な顔をして戦うであろう。
その時、ヴァロウは騎兵部隊の隊長とおぼしき男と目が合う。
引きつった顔を浮かべると、その男は悲鳴を上げながらこういった。
「撤退だ! 撤退しろ!!」
指揮官が炎の中で叫ぶ。
兵士たちは千々に乱れながらも、戦場からなんとか離脱していった。
結局、騎兵部隊3500名近い死者を出して敗走。
対して、ヴァロウが率いた100名の竜人族は、ほぼ無傷であった。
「すごい……」
「本当に5000の兵を」
「たった100名で……」
「おおおおおおお!!」
「勝ち鬨を上げろぉぉぉおおお!!」
竜人族は吠声を上げる。
そして両手を上げた。
「ヴァロウ様、万歳!」
「「「「「万歳!」」」」
半ば興奮した様子で、新しく6人目の副官となったヴァロウを讃えるのだった。
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