第30話 悲劇の参謀
30話、十万文字越えました!
まだまだ頑張りますのでよろしくお願いします。
崩れ落ちたラングズロス城。
そのバラバラになったミスリルや岩から突如、人間の手が生える。
時は闇夜。空に月が輝いていた。
手はバタバタを宙を掻く。
瞬間、周囲の瓦礫が吹き飛んだ。
濛々と立ち上る土煙。
その中から現れたのは、1人の女だった。
名をヒストリア・クジャリクという。
当代に置いて最強の勇者――『毒の勇者』である。
ヒストリアはラングズロスの爆発に巻き込まれたが、生きていた。
とはいえ、その姿はひどい。
半身を重度の火傷。肌はただれ、長かった髪も燃え散っていた。
右足、右手を骨折。
特に右足は完全に力が入らない状態だった。
折れた肋骨のおかげで、内臓もボロボロだ。
「ひゅー。ひゅー。ひゅー」
奇妙な音を鳴らしながら、ヒストリアは息をする。
足を引きずり、彼女は西へ向かう。
彼女の頭に撤退という文字はなかった。
本隊と合流し、身体を癒やし、魔族と対決するという選択肢も浮かばない。
ただヒストリアの中にはあったのは、強い殺意だった。
ヒストリアは兵器である。
1度、飛び出せば敵を殲滅するまで戻ることはない。
使い捨てなれば、その身体を癒やす必要性すらなかった。
このままでは死ぬとわかっていても、彼女は突き進む。
何故なら、ヒストリアは兵器だからである。
◆◇◆◇◆
ヴァロウは地面に耳を付けていた。
周りを、メトラ、ドラゴラン、そしてゼラムスが取り囲んでいる。
ドラゴランとゼラムスは、ヴァロウの奇行に興味津々らしい。
感心した様子で見つめていた。
やがてヴァロウは立ち上がる。
「あと半日というところですね」
「そんなものでわかるのか?」
「はい」
ドラゴランの質問に、ヴァロウは頷いた。
ヴァロウは近づいてきている人類軍の行軍の音を聞いていた。
馬、あるいは甲冑の音。
こうやって地面に耳を当てるだけで、意外とわかるものだ。
それに、総じて魔族の基礎能力は高い。
軍師時代の頃よりも、クリアに音を捉えることができた。
人類、魔族に限らず、この世界では魔法を使った索敵が基本だ。
だが、その方法だと逆にこちらの位置を知られる可能性がある。
だから、ヴァロウはこういった身体能力を生かした方法を、軍師時代から実践していた。
試しにドラゴランがやってみるのだが、どうも要領を得ない。
何か音はするのだが、ヴァロウのように距離を測ることはできなかった。
「経験が物を言いますので」
ヴァロウは事も無げにいう。
だが、彼はまだ魔族として生を受けてから、13年しか経っていない。
長く生きているドラゴランやゼラムスからいえば、驚天動地の技術だった。
「ヴァロウの頭がいいことは知っていたが、こうして帯同すると実感できるな。少なくとも、地面に耳を付けて敵の距離を測るなどという発想は、我々にはなかった」
「それを言うなら、ドラゴラン。この撤退作戦にも同じことがいえるでしょう」
今度はゼラムスが称賛する。
ドラゴランは大きく頷いた。
「全くその通りですな。ゴドラムも惜しいことをした。もっとヴァロウの言うことを聞いていれば、あんなことにはならなかっただろうに」
「ドラゴラン……。1番それを悔やんでいるのは、ヴァロウなのですよ」
ゼラムスはたしなめる。
どうやら、完全にヴァロウは『悲劇の参謀』として見られているらしい。
「すまんな、ヴァロウ」
「いえ。……俺が未熟だっただけです。それよりも――」
「ああ。このままでは追いつかれてしまうな」
ドラゴランは長い下顎をさすった。
すると、ゼラムスが尋ねる。
「ヴァロウ、何かすでに手を考えているのではないですか?」
「はい。お許しをいただけるなら……」
「良い。今はお前の知謀知略が頼りだ」
ドラゴランはうんと首を振った。
ヴァロウも小さく頷く。
そして事も無げにこう言った。
「人類軍を迎え討ちます」
「本気か、ヴァロウ!」
「相手は5000以上いるのでしょう?」
ヴァロウたちを追いかけているのは、敵の先行部隊だ。
その数は5000弱。
そのほとんどが騎兵である。
猛烈な勢いで撤退する第一師団を追いかけてきていた。
対して、第一師団の総数500余名。
一騎当千という触れ込みが事実であれば、勝てる数である。
だが、向こうも手練れと考えていいだろう。
一筋縄では勝てない。
予定通りであれば、第二師団が築いている要塞はあと1日といったところだ。
しかし、その前には追いつかれてしまうだろう。
「問題ありません。この場所で迎え討ちます」
ドラゴランたちはそう言われて、周りを見渡した。
鬱蒼と木々が茂る森である。
「こんなところでか?」
ドラゴランは首を傾げた。
魔族たちの戦術は人類軍よりも遥かに遅れている。
基本的に戦闘といえば、開けた場所の野戦が一般的だ。
だから、ドラゴランは疑問に思ったのである。
ヴァロウはあえて答えず、ドラゴランに懇願した。
「ドラゴラン様、100名ほど俺に兵を預けていただけませんか?」
「なに? どうするつもりだ?」
「その兵だけで、人類軍の足を止めてみせましょう」
「な、なにぃ!! 100で5000の軍を止めるというのか?」
「はい。ドラゴラン様とゼラムス様は先にお進み下さい」
「大丈夫なのですか、ヴァロウ。ゴドラムのようなことを考えていませんか?」
身を挺し、撤退作戦の必要性を訴えたゴドラムを引き合いに出す。
ヴァロウは表情を変えず、答えた。
「ご心配なく……。こんなに早くゴドラム様と対面しては、地獄で何をいわれるかわかりません」
「ふむ……。なるほど。もっともだな。わかった。お前に、100名を貸し与える。存分にその知略を振るうがいい」
「ありがとうございます」
ヴァロウは膝を折り、頭を垂れる。
すると、その手を握る者が現れた。
ゾッとする程、冷ややかな手にヴァロウは驚く。
顔をあげると、ゼラムスの顔があった。
「必ず戻ってくるのですよ」
眉根を寄せ、ゼラムスは心配げに訴える。
ヴァロウは驚きのあまり固まった。
一方、ゼラムスは真剣な眼差しを送る。
「こほん」
咳払いをしたのは、メトラだ。
若干ムスッとした表情を浮かべていた。
「ヴァロウ様、そろそろ……」
「ああ。そうだな。ご心配なく、魔王様。必ずあなたの元へ戻ってまいります」
そうだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
いや、死ぬはずがないのだ。
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