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【WEB版】叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~  作者: 延野正行
3章 決闘編

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第23話 決闘決着

ちょっと長めなのでお気を付け下さい。

 それは分厚い雲の下にある魔族の勢力圏の中で、一際強く輝いていた。

 目撃した魔族たちは、みな呆然としている。

 それぞれ己の網膜に、神々しい光を刻み付けていた。


 ヴァロウの後ろで控えるは、確かに風の精霊であった。

 目いっぱい翅を広げ、薄緑色の光を放っている。

 まるで召喚主に戯れるように近づくと、見るものをうっとりとさせるような微笑を浮かべた。


「あれは!?」


 メトラも観客席の欄干に身を乗り出し驚いていた。


「あんにゃろぉ。いつの間に、あんなのを使役できるようになったんだ」


 ザガスは酒が入った杯を地面に叩きつけた。

 左肩の古傷をさする。


 その風の精霊は、ヴァロウたちにとって因縁あるものだった。


 風の精霊アイギス。

 それはかつて『風の勇者』と謳われたステバノス・マシュ・エフゲスキが、使役していた精霊である。


 そして驚いていたのは、観客やヴァロウの仲間だけではない。

 対峙するベガラスクも同様だった。


 神々しい光に目を細める。


「てめぇ! 精霊なんていつ召喚できるようになったんだよ!!」


「つい最近だ。召喚主がいなくなってしまってな。森で彷徨っているところを、俺が捕まえて契約したのだ」


「な!!」


 ベガラスクは唸る。

 頭の中まで筋肉が詰まっているベガラスクとて、精霊との契約が難しいのは知っている。

 精霊は気まぐれだ。

 よほど気に入られなければ、契約を許可しない。

 どれほど強くともである。


 つまり、精霊が気に入るほど、ヴァロウに魅力があったということだ。


 ベガラスクは、何か1つ『負けた』ような気がして、地団駄を踏む。

 その大きな隙を、ヴァロウは見逃さなかった。


「行け! アイギス!!」


 指示を出す。

 アイギスは軽やかな歌声を上げながら、ベガラスクに襲いかかった。


「上等だ!!」


 迫り来る風の精霊に、ベガラスクは待ち受けることなく向かっていく。

 爪を立て、アイギスに向かって振り下ろした。


「おらぁ!!」


 その瞬間、アイギスは縦に割れる。

 あっ、と口を開けて、アイギスは戸惑い表情を浮かべた。

 だが、その口元はすぐに笑みに変わる。

 1度煙のように霧散すると、すぐに元の姿へと戻った。


「なにぃ!!」


「馬鹿が……。精霊相手に物理攻撃が効くものか」


 常識を知らないベガラスクに対し、ついヴァロウの言葉に罵倒が混じる。

 ヴァロウの記憶に寄れば、精霊相手に素手で挑んだのは、後にも先にもベガラスクが初めてだった。


「ちっ!」


 ベガラスクは走る。

 何を思ったのか。

 今度は、速さで攪乱しようという魂胆らしい。


 魔狼族は速い。

 魔族の中でも1、2を争うだろう。


 だが、風ほどではない。

 風そのもののアイギスに、速さで勝てるわけがなかった。


『ふふ……』


 余裕の表情を浮かべて、ベガラスクの横を併走する。

 口元を緩め、必死に走る魔王の副官を嘲り、微笑んだ。


「もうわかっただろう、ベガラスク。アイギスから逃れることはできない」


「はっ! なら、お前らはオレを倒せるのかよ!」


 それでも、ベガラスクの戦意は落ちていない。

 馬鹿にされた怒りによって、むしろ増しているように思えた。


「なら、そうさせてもらおう……。アイギス!」


 ヴァロウは手を掲げる。

 主の声を聞いたアイギスは、真空の刃を放った。

 かつてザガスを苦しめた風の刃である。


 高速で打ち出されるそれを回避するのは難しい。

 それでもベガラスクは器用によけていた。

 だが、連続射出され、行き場を失う。

 3本の刃が、とうとうベガラスクを捉えた。


「うぉおおおおおおおおんんん!!」


 ベガラスクは吠える。

 アイギスの刃は、魔狼族の身体を深々と貫いた。

 鮮血が飛び散り、動きが鈍る。

 ヴァロウは容赦しない。

 ベガラスクの動きが鈍ったことに気付くと、さらにアイギスに指令を送る。


 ジャッ!!


 風の刃がベガラスクの肉を削いだ。

 綺麗な白銀の毛がたちまち鮮血に染まる。

 それでも、ベガラスクは立っていた。

 荒い息を吐き出しながら……。


「へぇ……。根性あるじゃねぇか」


 どこか嬉しそうにザガスは笑う。


 だが、ザガスに風の刃は効かなかった。

 少なくとも致命傷を負うことはなかった。

 対して魔王の副官たるベガラスクには、効果覿面である。


 何故、効果に差が生まれたのか……。


 1つは使役者が違うこと。

 精霊の力は使役者の魔力の強さによって決まる。

 今、操作しているのはヴァロウだ。

 その魔力量は、前使役者だったステバノスの遥か上をいく。

 しかも人間だった頃からヴァロウの魔力量は多かったのに、魔族に転生したことによってさらに強化されていた。


 もう1つは、相性である。

 魔狼族はその俊敏性において、他の魔族の追随を許さない。

 だが、その分防御力の面で弱い。

 その点において、ワーオーガは逆である。

 俊敏性においては劣るが、肉体の頑強さは魔族の中でもトップクラスだ。


 その2点のことが合わさり、結果ヴァロウがこの勝負を有利に進めていた。


「ベガラスク、降参しろ……」


 ヴァロウは攻撃を緩め、降参を促す。


 もはや勝負はあった。

 ベガラスクはアイギスに対して全く対応できていない。

 結果、己が血に染まるしかなかった。


 それでも第四師団の師団長としての矜持か。

 ベガラスクは決して倒れることはない。

 白銀の毛を血に染めながらも、薄く笑っていた。


「オレは負けてねぇ……」


 その時のベガラスクの顔は、会場の空気を凍り付かせるに十分だった。



 ◆◇◆◇◆



 1歩……。1歩……。

 ベガラスクは、まるで呪詛を刻むようにヴァロウの方へ歩いていく。


「オレは死んでも、てめぇに『降参』しねぇ!!」


 魔狼の遠吠えが会場に響き渡る。

 ビリビリと闘技場の空気を震わせた。


 「よく言った!」とばかりに、観衆たちはヒートアップする。

 それがベガラスクの強い気持ちに呼応したのではない。

 単純に殺戮ショーを見たいがためである。


 とはいえ、ドラゴランが試合を止めることはない。


 この勝負が行き着く先は、降参か死のどちらかである。


 すると、ヴァロウは「はあ……」と重い息を吐いた。


「仕方がない。この手は使いたくなかったのだがな……」


 今度はヴァロウは自ら動く。

 つかつかと軍靴を鳴らし、ベガラスクの方へ近付いていった。

 服の内側に手を突っ込む。


 この期に及んでまだ何か策があるのか……。


 観衆の興味はその一点に絞られていった。


 ベガラスクも手をこまねいて見ていたわけではない。

 射程距離に来た瞬間、最後の力を使って、ヴァロウを切り刻んでやろうと企み、爪を研いだ。


 そして、その瞬間はやってくる。


「死ねぇええええええええ!!」


 ベガラスクは爪を振り上げる。

 だが、ヴァロウは華麗にかわした。

 すると、服に入れていた手を抜く。

 何かの武器だろう。

 皆が予想した刹那、あろうことかヴァロウはそれをベガラスクの大きな口に突っ込んでいた。


 すぐにスッと口から手を抜く。


 間髪入れずにこう言った。


「よく噛め……」


 ヴァロウが何を言っているのか。

 ベガラスクはすぐに理解できなかった。

 だが、同時に感じる。

 香ばしい匂いが、口の中に広がっていくのを。


 たまらずベガラスクは口の中にあるものを噛み砕いた。


「ふおおおおおおおぉぉぉぉぉぉんんんん……」


 魔王の副官とは思えない、なんとも甘い声を上げる。

 すると、夢中で咀嚼し始めた。


「な、なんだ、これは!! 絶妙な塩加減! ほくほくした肉厚の身。ふわっと広がっていく香り…………む、これは海だ! 海の香りだ!!」


 ベガラスクはもぐもぐ食べながら、自分の口の中で起こっていることを実況する。

 やがて、あっという間に食べ終わってしまった。


 ごくりと飲み込み、名残を惜しむように牙についたわずかな塩気を舐め取る。


 満足したのか。

 先ほどまで戦っていた魔狼族とは思えないほど、穏やかな顔をしている。

 血染めの尻尾も心なしかふわふわになっていた。


 だが、柔らかかった表情は途端に硬くなる。

 ヴァロウに振り返ると、ビッと指を差した。


「き、貴様!! 一体オレに何を食べさせた!!」


「顔が赤いぞ、ベガラスク。おいしかったか?」


「むぐっ! ふ、ふん! 別にこ、こんなもの! おいしくなんて……」


 慌ててベガラスクは耳を隠し、否定するがもう遅い。

 内耳の裏が真っ赤になっているのを、観客席の魔族全員が目撃していた。

 それに尻尾をぶんぶん振っている。

 怒りながらも、ベガラスクが上機嫌であることは、誰の目にも明らかだった。


「気に入ってくれて何よりだ」


「う、うるさい。一体何を食べさせたのだ、オレに」



「焼き魚だ」



「焼き……魚だと…………。あの海にいるよわっちぃ生物のことか」


「そうだ」


「貴様、オレにあんな弱い生物を……」


「でも、おいしかっただろ」


「う!?」


 たまらずベガラスクは口を噤む。


 真っ向から否定してやりたいところだが、正直にいうとうまかった。

 けれど、「うまい」といえば、それはヴァロウの言うことを認めたことであり、まるで「降参」といっているように思えて、ベガラスクはどうしても言えなかった。


「うまい!!」


 突然、大声が横から聞こえる。

 何故かドラゴランが、例の焼き魚を咀嚼していた。

 どうやら、ヴァロウが渡したらしい。


「初めて食べたが、焼き魚とはこんなにおいしいものなのか……」


 感動していた。


 すると、ヴァロウはパチンと指を鳴らす。


 観客席の脇から現れたのは、スライムたちだった。

 ぴょんぴょんと跳ねながら、観客の前に立つ。

 すると、串に刺さった焼き魚を差し出した。


 観客たちは不思議に思いながら、焼き魚を取る。

 そして大きく口を開けて、頬張った。


「「「「うまい!!」」」」


 叫びと言うよりは、もはや怒声に近かった。

 観客たちの声が揃う。

 夢中になって焼き魚を食べ始める。

 歓声や怒号は途絶え、かさかさと食音だけが闘技場に響き渡った。


 それは異様な光景だった。


「あら……。おいしいわ」


 唸ったのは、魔王であった。

 【闇の羽衣】のせいで表情こそ隠れて見えない。

 だが、声は明るかった。

 もぐもぐという咀嚼音が、【闇の羽衣】の向こうから聞こえてくる。


 闘技場から戦の気配がなくなっていった。

 その雰囲気に1番戸惑っていたのは、ベガラスクである。


「な、なんだ……。一体何が起こっているんだ」


 その前に現れたのは対戦者ヴァロウだった。


「ベガラスク、俺から1つ提案がある。聞け……」


「提案だと! ここは会議室ではない! 闘技場だ! 提案など聞いている場合では――――」


「もし、第四師団が第六師団の援軍となってくれれば、この焼き魚を毎日食べさせてやろう」


「な! 毎日だと!!」


 ベガラスクは唾を飛ばしながら叫んだ。


「ああ。そう契約を取り交わしてもかまわない。どうだ?」


「け、契約……。いいいいいいや、待て待て。それでは、オレが魚ほしさにお前に従属したようなものではないか。そ、それにな! オレの第四師団はとても精強だ。こんな魚ごときで、なびくような……」


 ベガラスクは第四師団の兵たちが座る観客席の方へ振り返った。


 だが、そこにいたのは精強で表情1つ変えない部下たちではない。

 まるで猫のように背を丸めて、夢中で焼き魚を頬張る魔狼族の姿があった。


 メトラの饗応を受け、完全に焼き魚の虜になっていた。


「き、貴様ら! 何を食べている!!」


「す、すいません! 団長!」

「で、でも焼き魚、美味いッス!!」

「これが毎日食べられるなら、援軍に行く!」

「第四師団抜けてでも参加したいぜ」


 完全にヴァロウの術中にはまっていた。

 それどころか――。


「マジか! これ、毎日食べられるのか?!」

「だったら、うちの師団が行こうかな」

「いや、うちが行く!」

「いーや、うちだ!」


 観客たちが言い争いを始めてしまった。


「だったら、わしがいっても……」


 と、ドラゴランまで呟く。

 こほん、と咳払いし、「い、今のはなしだ」と言って、目の下を赤く染めた。


 ベガラスクだけが呆然としている。

 魔族の矜持と結束が、たった1つの食べ物で崩れていた。


「ベガラスク、もう1本食べるか?」


 ヴァロウはまた焼き魚を取り出してみせた。

 赤黒い目が一瞬爛々と輝く。

 だが、強烈な自制心によって、ベガラスクは伸ばした手を押さえた。

 それでも、焼き魚の魔力には抗えないらしい。


 やがてベガラスクは言った。


「わかった……。その契約を結ぼう……」


 とうとうベガラスクは降参するのだった。



 ◆◇◆◇◆



「まさか、あの気位の高いベガラスク様が、食べ物で折れるとは思いませんでしたわ」


 闘技場を辞し、ヴァロウはメトラとザガスに合流すると、暗い通路を歩いていた。

 一仕事を終えたヴァロウは、勝利の余韻に浸ることなく、次の仕事をしようと自分の書斎を目指している。

 激戦の後だというのに、再び書類整理を始めるつもりでいた。


 これからあの第四師団を迎え入れることになるのだ。

 色々やらなければならないことが山積している。

 それに比べれば、食事を毎日焼き魚にするなんて難しいことではなかった。


「まあ、あの焼き魚には、それだけの魅力はあるわな」


 ザガスはベンと腹を叩いた。

 他の魔族と同じく、焼き魚を貪っていたらしい。


「それもあるが、他にも理由があるぞ」


「どういうことですか、ヴァロウ様?」


「食糧問題だ……」


 今、魔族は慢性的な食糧不足に陥っている。

 領土が半分以上も失われたのだ。

 それは同時に、食糧を生産する場所も失われたことでもある。


 その分、兵力も落ちたが、今軍事に人を回しているため、食糧供給量が大幅に下がっていた。


 死霊族の多い第三師団を除けば、どこの師団も食糧については悩んでおり、不満も噴出していた。


 そこに来て、ヴァロウのあの提案である。


 師団長や食糧補給の担当者にとっては、まさしく垂涎の提案であったのは間違いない。


 ベガラスクも、食糧が喫緊の課題であることを重々理解していた。

 それ故に、ヴァロウの提案があまりに魅力的だったのだ。

 師団の未来を思うからこそ、ベガラスクは己の矜持を捨て、師団長として食糧の確保を選んだのである。


 そう。


 最初から勝負はついていた。


 いや、すべてはヴァロウの手の平の上で、踊っていたのである。


面白かったよ! 続きはよー! と思っていただけたら、

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作品を書くモチベーションになります。

よろしくお願いしますm(_ _)m

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