第21話 謁見
ブックマークが5000件を突破しました!
付けていただいた方ありがとうございます。
引き続き更新頑張りますので、応援よろしくお願いしますm(_ _)m
魔王城ドライゼルはまさに迷宮である。
あらゆる罠が敷設されていることはもちろんなのだが、部屋の配置、廊下の長さ、幅、分岐――すべて人間の行動心理を狂わせる設計になっている。
城の中にいるのに、樹海の中を彷徨い歩いているような気分になってくるのだ。
魔族とて同様である。
1歩間違えれば、迷宮に飲み込まれてしまう。
一定の順路を覚えればいいのだが、簡単ではない。
しかし、それができない魔族など、魔王がいる城の中に入る資格すらないのである。
長い廊下といくつかの階段を上ると、ドラゴランですら見上げてしまう巨大な扉の前に辿り着く。
魔王の間である。
ドラゴランとヴァロウはその扉の前に立ち、1度居住まいを正した。
メトラとザガスには、別の用事を与えた。
そもそも魔王に謁見できるのは、基本的に副官以上の魔族である。
ここに来たところで、扉の前で待っているだけだ。
「ドラゴランです」
扉越しに声をかける。
「お入りなさい」
穏やかな声が聞こえてきた。
扉が開く。
薄暗い部屋が広がっていた。
燭台と篝火が最低限置かれ、足元を中心に照らされている。
天井は真っ暗だ。
まるで黒い雲に覆われているようだった。
その中をドラゴランとヴァロウは進んでいく。
待っていたのは、魔王――ではなく、ベガラスクだった。
「まさか貴様と一緒に褒賞を受け取ることになるとはな」
「いやなら来なければ良かっただろう?」
「なんだと!」
早速、ベガラスクとヴァロウはやり合う。
顔を歪めるベガラスクに対して、ヴァロウは涼しげな表情で前を向いていた。
「よさんか、2人とも。魔王様の御前だぞ」
ドラゴランの声が雷のように響き渡る。
これにはさすがのベガラスクも縮こまった。
だが、ヴァロウの表情は変わらない。
目の前の気配に気付くと、膝を折った。
他の2人も倣う。
「よくぞ戻りましたね、ヴァロウ」
扉の前で聞いた声が、今度は前方から聞こえた。
しかし、ヴァロウの前には、闇が広がるのみである。
【闇の羽衣】
あらゆる攻撃、魔法効果を無効にする魔王の宝具の1つである。
この宝具によって、魔王はあらゆる外敵から守られていた。
「長きに渡り、城を空けたことを深くお詫び申し上げます、魔王様」
「良いのです、ヴァロウ。しかし、本当によくやってくれました。まさかあのルロイゼンを攻略するとは……。あなたには、いつも驚かされます」
「恐縮の至りです」
「ところで、如何にしてルロイゼンを攻略したのですか?」
魔王は質問した。
ヴァロウは細かい説明を省きながら、要点だけを押さえる。
敵の守備隊が、北の城壁に集中していること。
そのため手薄な海側から侵入したこと。
スライムを有効に活用し、一気に領主の館へ赴き、短時間で勝利を掴んだこと。
ヴァロウは時間を取らせず、簡潔にまとめる。
しかし、その話は魅力的で、聞いていたものの興味を引いた。
魔王も何度も相づちを打ち、ヴァロウの話に聞き入る。
表情こそ見えないが、かなり楽しんでいるのが伝わってきた。
英雄譚を聞く子どものように、声を出す。
「さすがはヴァロウ。その神算鬼謀に感服いたしました」
「ありがとうございます」
ヴァロウは感謝を述べる。
その謙虚な姿に、魔王も好印象を持ったらしい。
闇の中で、満足げに頷いたのがわかった。
「ドラゴラン……」
「はっ!」
「目をかけた甲斐がありましたね。彼はもう立派な副官だと思いますよ」
「いえ。それはひとえに魔王様のご理解があったからだと心得ております。今一度ルロイゼン城塞都市攻略の作戦案に賛同していただきありがとうございます」
「これからも、ヴァロウを頼みます」
「はっ!!」
1度目よりもさらにドラゴランは声を張った。
ドラゴランは横のヴァロウをチラリと見て、誇らしげに笑う。
当の本人はというと、涼しげな顔を崩さず、頭を垂れていた。
魔王より絶賛される2人を見て、忸怩たる思いだったのは、ベガラスクである。
狼の牙を剥きだし、小さな鼾のように息を吐いていた。
「さてお待たせしました、ベガラスク」
「はっ!!」
声をかけられ、ベガラスクはさらに深く頭を垂れる。
「ムカベスク要塞の攻略、お疲れ様でした」
「なんの! 疲れてなどおりません、魔王様。今からでも敵の1つや2つ平らげて見せましょうぞ」
「ふふ……。勇ましいですね、ベガラスクは。ですが、多くの同胞を失ったと聞きしました」
「戦いに死人は付き物です。散っていた同胞たちも、ムカベスク要塞の攻略を聞けば、地獄で喜んでおるでしょう」
横で話を聞きながら、ヴァロウは「愚かな」と胸中で呟いた。
戦争に死人は付き物というのは、真実だ。
だが、死人を前提にした戦いと、そうではない戦いは、天と地の差がある。
確かにヴァロウとて、前者の戦いが強いられることはあった。
しかし、戦争は単純に数がその趨勢を決める。
最後に少しでも味方が残っている方が勝ちなのだ。
ならば、味方を減らさない戦い方をするのは、戦場の定石といえるだろう。
指揮官とは如何に敵を殺すかを考えるのではない。
どうやって、味方の安全を確保するべきかを考えるべきなのだ。
そのための戦略、戦術、そして兵器なのである。
犠牲覚悟の戦いなど愚の骨頂。
だが、残念なことにそういう戦法が美学のように語る将兵は、人類にも魔族にも多い。
ベガラスクはその急先鋒といえるだろう。
「そこにオレがざっと城壁を上りまして……」
誰も頼んでいないのに、ベガラスクの武勇伝が始まった。
先ほど、ヴァロウがルロイゼン攻略について語ったからだ。
当然、自分も質問されると思っていたに違いない。
魔王が促す前に、独演会を始めてしまった。
魔王は一応ベガラスクの話を聞いている様子だ。
しかし、ヴァロウの時と比べると、熱心さがいまいち伝わってこない。
時折、不自然な相づちを打っていた。
冗長な自慢話ほど、退屈なものはない。
「ベガラスク、もういい。お前の話は長い」
とうとうドラゴランにたしなめられる。
ベガラスクは「なっ」と絶句した。
だが、副官の筆頭的存在であるドラゴランに言われては立つ瀬がない。
ベガラスクは大人しく引き下がった。
「ドラゴラン、報告ありがとうございました」
ここぞとばかりに、魔王は話を進める。
「2人に褒賞を贈りましょう。何がいいでしょうか?」
「恐れながら、魔王様。オレには、魔王様が所蔵する宝具の一部をいただけないでしょうか?」
ベガラスクは自ら名乗り出た。
差し出がましいことこの上ない。
はっきり言えば、無礼に当たるのだが、言ってしまった後では、咎めようがなかった。
「宝具ですか。わかりました。考えておきましょう」
「ありがとうございます」
宝具というのは、魔王の宝という意味合いもある。
それをもらえるのは、最高の誉れと魔族ではいわれており、その所持数は単純に副官の中での序列を示していた。
故に第三師団師団長シドニムが、ヴァロウに宝具【死霊を喚ぶ杖】を貸し与えてくれたのは、異例中の異例なのである。
ベガラスクはこれで1つ宝具を所持したことになる。
ちなみにヴァロウはシドニムから貸し与えられた【死霊を喚ぶ杖】を除けば、現在0だ。
これで1歩、ベガラスクが先んじたことになる。
だが――。
「ヴァロウ、あなたも宝具がいいですか?」
魔王はヴァロウに尋ねた。
小躍りしていたベガラスクの表情が固まる。
やはりもらったことよりも、ヴァロウの上にいけたことを喜んでいたのだろう。
だが、ヴァロウがもらえば結局イーブンになる。
「いえ。まだ俺は宝具を持つに相応しい功績を残したわけではありません」
固辞した。
さらに言葉を続ける。
「それに俺が欲しいものは決まっております」
初めて御前で、ヴァロウは顔を上げる。
ヘーゼル色の瞳が、薄暗い部屋の中で閃いた。
その強い意志を感じさせる輝きに、しんと静まり返る。
魔王は少し声のトーンを落とし、語りかけた。
「あなたがほしいのは援軍ですね、ヴァロウ」
「はい。その通りです、魔王様。城に戻ったのも、それを自ら嘆願するために参りました」
「そうですか。わたくしの判断が遅いばかりに、ご足労をかけたようですね」
「…………」
「わたくしは、1つ決断をしました。ベガラスク、あなたもよく聞いておいてください」
「は、はっ!」
慌ててベガラスクは膝をつき、頭を下げる。
そして、魔王ははっきりと口にした。
「わたくしは、ルロイゼン城塞都市の援軍として、第四師団を送ろうと考えています」
「なっ! 魔王様!!」
ベガラスクは頭を上げた。
当然だろう。
第四師団とは、ヴァロウを敵視するベガラスクが率いる魔狼族の師団だからだ。
「そ、そんな! 何故、オレがこいつの援軍に!」
「慎め、ベガラスク。魔王様の決定だぞ」
「引きませぬ。どうか魔王様、ご再考下さい!」
ベガラスクは反発した。
1歩踏み出す。
【闇の羽衣】が覆うギリギリまで近づき、嘆願した。
「お、オレはムカベスク要塞を落とし、そこから深く人類の勢力圏に浸透するものとばかり思っていたのです。何故、今――。ルロイゼンに援軍を差し向けるのですか!」
「落ち着きなさい、ベガラスク」
「うっ――――」
ベガラスクは口を噤んだ。
恐ろしい重圧を、ヴァロウも感じる。
横で膝を突いたドラゴランの額にも汗が浮かんでいた。
空気が濃い。
まるで殺意をそのものを吸い込んでいるかのようだった。
たまらずヴァロウはタイを緩める。
「理由はあります。まずあなたの師団は傷つきすぎている。兵の半数を失ったと聞きました。それでは、あなたがいう浸透作戦もうまくいかないでしょう」
「それは――――」
「加えて、要塞防衛も難しいはず。いくら堅固な要塞でも、2000の兵で、最前線の人類軍を受け止めるのは難しいはずです」
「大丈夫です、魔王様。我ら魔狼族! 死など恐るに足りません」
「勇敢なのは結構です。ですが、我ら魔族軍が人類に押されているのは、単純に向こうの数が多いからです。死ぬとわかっている戦に、兵を投入できるほど、魔族に余裕はありません」
「で、では、せめてムカベスク防衛は我らに――」
「魔狼族は、その機動力において敵中を突破することを得意としますが、防衛戦には不得手なはずです。よって、ムカベスクには第二師団を投入する予定です」
第2師団とは、巨人族を主体とする師団である。
攻城戦、籠城戦において力を発揮する魔族だ。
「ですが、ベガラスク……。あなたも承知しないでしょう」
「当たり前です!」
魔王に向かって、声を荒らげる。
「そこでこういう案はどうでしょうか? 2人に決闘してもらい、負けた方が勝った方の指揮下に入ってもらうのです」
「決闘ですか?」
ベガラスクはごくりと喉を鳴らす。
「魔族の根本は強さです。強い者が弱い者の上につく。シンプルだと思いますが」
「望むところです!」
ベガラスクの紅蓮の瞳が燃えさかる。
依然、澄ました顔のヴァロウを睨んだ。
「ヴァロウは如何ですか?」
「ベガラスクがいいというなら、断る理由はございません」
「では――。準備はドラゴランに一任します。よろしいね?」
「はっ! 承知いたしました!」
ドラゴランは頭を下げる。
そして謁見は終わった。
3人は謁見の間から退出していく
「ヴァロウ、首を洗って待っていろよ」
捨て台詞を残し、ベガラスクと謁見の間の前でわかれる。
すでに勝った気でいるらしい。
その背中は意気揚々としていた。
「これでいいのか、ヴァロウ?」
「はい。構いません」
「ベガラスクは、頭があれだが、強いぞ」
「問題ありません」
ヴァロウは自分の手の平を見る。
そうだ。
すべてヴァロウの手の平の上なのだ。
下記リンクの方にもありますが、
連載中の『ゼロスキルの料理番』という作品が、
この度カドカワBOOKS様より書籍化する運びとなりました。
イラストレーターは、『ここに採集クエストはありますか?』シリーズなどでご活躍されている三登いつき先生になります。
『上級貴族~』とはちょっと毛色の違う飯モノ作品ですが、
気になった方は是非チェックしてみて下さい!
(※ 詳しくは活動報告にまとめました!)




