第175話 亡霊の勇者
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久しぶりに『前世で処刑された大聖女は自由に暮らしたい~魔術書を読めるだけなのに聖女とかおかしくないですか?~』という作品を投稿しました。
後書きの下にリンクを貼りましたので、是非読んで下さいね。
「まさかヒストリア・クジャリク……」
アールフは息を呑む。
1人の女性の名前を出した。
ヒストリアと聞いて、オルタンシアはポンと手を打ちそうになる。
そうだ。
間違いない。
かつて『毒の勇者』と呼ばれた女勇者だ。
当時、最強とも評され、幾多の魔族を討ち払った。
魔王を寸前まで追い詰めたとも聞いている。
だが……。
「戦死したはずじゃ……」
オルタンシアはポロリと質問をこぼす。
だがその疑問に答える者はいない。
当人ですら、裏路地でただ黙って佇んでいた。
けれど、睨み合う時間はない。
黒装束たちの影がすぐそこまで迫っていた。
「しゃがみなさい」
唐突にヒストリアは口を開く。
同時に、長い刀身の片刃剣を振りかぶった。
アールフが反応する。
オルタンシアの頭を押さえ付け、自分もしゃがんだ。
瞬間、片刃剣が薙ぎ払われる。
狭い路地裏などものともしない。
側に反り立つ壁を切り裂きながら、その剣線は飛んだ。
「あっ……」
暗殺者たちが気付いた時には遅い。
その首から上がすっ飛ばされる。
一瞬にして2体の死体が転がった。
「ひっ……」
オルタンシアは短い悲鳴を上げる。
つぶらな瞳に、血が裏路地に広がっていく様を見つめた。
血臭が立ちこめ、一層恐怖を煽る。
凄まじい斬撃だ。
ヒストリアは『毒』の力に目が行きがちだが、その剣技も神の領域に近かったと聞く。
少なくとも狭い路地で、あれほど長尺の剣を振り回し、かつ両端の壁ごと切るなんて芸当は、余程の武芸者ではない限り難しいだろう。
つまり、彼女が死んだはずのヒストリア・クジャリクであると、1つ証拠が揃ったということになる。
だが、信じられない。
彼女は死んだと聞いていた。
それも2年前に。
生きていたなら、何故今このタイミングで現れたというのだかろうか。
「あの……。私たち助かったってことでいいのかしら」
「それはわからないな」
尋ねる前から、何となくわかっていた。
ヒストリアも、側にいるアールフも警戒を止めない。
オルタンシアは生粋の武芸者ではないが、獣人としての本能が互いの殺気を敏感に察していた。
「とりあえず――――逃げるよ」
アールフは小柄なオルタンシアを引き込み、脇に抱える。
思ったよりも力があるらしい。
ガッチリとホールドした後、もう片方の手に数個の玉を握った。
その玉を思いっきり地面に叩きつける。
刹那、大量の黒煙が噴き出した。
一瞬にして視界がゼロになる。
にも関わらず、アールフは煙の中を走り出した。
オルタンシアには、どっちが北で南かなどわからない。
ただ小脇に抱えられるままだ。
黒煙から出る。
ヒストリアの姿はない。
回り込んでいるような様子もなかった。
どうやら、撒いたらしい。
それでもアールフは速度を緩めない。
再び大通りに出ると、人混みに紛れながら、王都の北に向かう。
王都の中にあるダウンタウンがある方角だ。
あそこは多くの貧民が集まる小屋が、無作為に置かれている。
混沌としていて、衛兵たちですらその全貌を把握していない。
逃げ込むには打って付けの場所だ。
何を隠そう、オルタンシアもヴァロウのインタビュー記事を掲載後、ダウンタウンに潜伏していたことがある。
そもそもあそこは、多くの反政府組織が隠れる隠れ蓑なのだ。
「ちょ! いいの! 政府の人間がダウンタウンに隠れて」
「僕たちは追われている。逃げるなら、あそこが最適だろ?」
「でも――――」
「それに君たち反政府の人間にも伝えなければならないことがあるんだ」
「私たちに伝える」
そうこうしている内に、アールフとオルタンシアはダウンタウンに到着した。
後ろを振り返るとも、ヒストリアが追ってくる気配はない。
どうやら完全にオルタンシアたちを見失ったらしい。
ひとまずホッと息を吐く。
すると、オルタンシアは舗装も何もされていない――ややぬめったダウンタウンの路地を歩き出す。
「とりあえず、私に付いてきてください。話はそこで」
オルタンシアが指でアールフを促す。
ダウンタウンの入口に座った小汚い男に睨まれながら、アールフは頷いた。
「わかった。ここでは君たちのルールに従うことにするよ」
オルタンシアはどんどんダウンタウンの奥へと向かう。
途中、何度か知り合いに挨拶した。
符丁を使って、後ろのアールフに尋ねられたが、今のところ問題ないと返しておく。
ゴミ溜めのような場所をグルグルと歩きながら、オルタンシアは掘っ建て小屋の中に入っていく。
床を開けると地下へ続く階段があり、そこへ入っていった。
地下は硬い岩盤を何年もかけて掘ったような小さな空間だった。
蝋燭と机、さらに2脚の椅子。
水瓶が置かれ、それ以外目立った物は置いていなかった。
「君たちのアジト?」
「アジトなんか連れていけません。殺されますよ、あなた」
「だ、だろうね……」
アールフは肩を竦めた。
オルタンシアに席を勧められ、腰を下ろす。
砂が舞い上がると、思わず咳き込んだ。
一方オルタンシアは椅子に着いた砂埃を払い、自分も腰を下ろした。
「で――――ここは?」
「新聞社が所有している隠れ家といえばいいでしょうか。とはいえ……」
「新聞社は燃えてしまった」
「遅かれ早かれですけどね。編集長、無事だといいんですけど」
「俺が何だって?」
唐突に、階段を降りてきたのは、やや恰幅の良い男だった。
「編集長!!」
「なんだよ、新米? 心配しなくても、足は付いてるぞ」
「良かった。無事だったんですね」
「無事なもんかよ。新聞社が盛大に焼かれたんだぞ。あそこには、まだ記事にしてないお宝記事がわんさかあったのによ。折を見て、出そうと思ってたのに。政府の野郎どもめ」
編集長は干し肉を囓る。
オルタンシアにも投げつけると、食べろと促した。
あれ程走った後だと食欲もままならないが、囓ってみるとあっさり飲み込めた。
そう言えば、朝から何も食べていない。
「んで? そっちの色男は?」
「初めまして。アールフと言います。下の名前は秘密です」
「お前、政府の人間だな」
「オルタンシアさんにも見抜かれました。よくわかりますね」
「育ちの良さが出過ぎなんだよ。政府系の人間が、なんでこんなところに、しかもうちの新米と一緒なんだ?」
「実は――――」
オルタンシアは事情を説明する。
「謎の暗殺者はいいとして……。ヒストリア・クジャリクかよ」
「編集長、何か知っているんですか?」
オルタンシアが質問すると、編集長は面倒くさそうに頭を掻いた。
「正直、都市伝説の類いでな。にわかに信じがたかったんだけど、西の前線軍に従軍している記者の話でな。彼女を見たっていう噂はあったんだ」
「え?」
「今、前線軍が布陣してる辺りで、ヒストリアは亡くなったっていう噂もあってな。前線軍の間では、彼女の幽霊を見たっていう話がごまんとあるんだと」
「幽霊なんかじゃないですよ、あれは!」
そうだ。
あれは幽霊なんかではない。
幽霊が建物の壁ごと人を斬ったりできるはずがない。
「まあ、ヒストリアのことは置いておこう。まずはあんただ、アールフ。おそらく新米を狙ったのは、新聞社に放火したヤツらと同一人物と考えていいだろう。社を狙ったのは、間違いなく政府の人間だ。それ以外、考えられないからな。なのに、お前はその暗殺者からうちの新米を守った。一体、どういうことだ? 政府内でいざこざでも起きているのかよ」
口調が段々と苛立ってくる。
煙草がないからだろう。
すでに右足が震えている。
編集長得意の貧乏揺すりだ。
「わかりました。お話しましょう。……まずあなた方の新聞社に火を放ったのは、我々政府ではありません」
「おいおい。しらばっくれるつもりかよ」
「本当です。そもそも反政府系の新聞社があることは、随分前からわかっていました。なのに、なんで今になって社に火を放つ理由があるんですか?」
「それを言うなら、わかっててなんで放置してたんだよ」
「仮にそんなことをすれば、反政府運動が激化することを恐れていたからです。誓っていいます。我々じゃない」
アールフは力強く否定する。
「じゃあ、一体誰が?」
「魔族です」
「「ま、魔族……」」
オルタンシアと編集長は声を揃えた。
そしてアールフは旧大要塞同盟で起こったある事件を引き合いに出す。
「お二人とも、テーランの悲劇という事件はご存じですか?」
時間が空いたので、投稿しましたが、如何だったでしょうか?
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