第173話 記者の帰還(前編)
久しぶりに書きました!
ヴァロウのインタビューは続いた。
その知謀はどこから沸いてくるのか。
戦略をどこで学んだ。
停戦交渉を結ぶきっかけ。
交渉人であるアルデラの印象。
人類軍に対するものから、主立った将兵の印象。
そうした軍や戦争に関するものから……。
魔族の生活。
人鬼族は眠る時、どうしているのか?
食べ物は?
夜、寝ないというのは本当なのか?
生活様式から種族の特性まで。
些細なものを合わせれば、質問項目は200を越えた。
王族に対するインタビューでも、これほどの質問は集まらない。
実はこれでも、オルタンシアが選りすぐった方で、この3倍以上の質問が寄せられていた。
記事にしたいという熱量よりも、純粋に魔族に対する興味が高いのだろう。
そのすべてを、ヴァロウは丁寧に答えてくれた。
激昂することなく、嘲り笑うこともない。
ただ淡々と、まるで教師のように教えてくれた。
とりわけオルタンシアが、印象深かったのはこの質問だった。
「では、魔王様についてお伺いします。率直に言って、どんな方でしょうか?」
それまで淡々と質問に答えてくれていたヴァロウの顔が歪んだのを、オルタンシアは見逃さなかった。
「残念ですが、魔王様のことについて私から喋ることは、あまりに恐れ多いことゆえ、ご容赦いただきたい」
「恐れ多い……?」
「魔王様は我ら魔族の頂点です。そして我らの根源となるお方」
「ちょっとわかりにくいのですが、それは君主とは違う……、あるいは神に誓い存在ということですか?」
「意味合いとしては似た表現になるでしょう。だが、我らにとって魔王様に捧げるものは、忠誠や信奉という言葉では言い表せない」
「は、はあ……」
「失礼……。私もどう表現すれば、あなた方に理解してくれるか考えたのですが、適当な言葉を思い浮かびませんでした。ただ1つ言えることは、慈悲深いということです」
「慈悲深い??」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
ヴァロウは顔に出さなかったが、近くにいたメトラが顔を曇らせたのはわかる。
しまった、と思ったが、見なかったことにして、質問を続けた。
「失礼しました」
「いいえ。驚かれるのも無理はないでしょう」
その通りだ。
魔王とは、百鬼を抱える魔族の頂点である。
その存在は昔から秘匿とされ、謎めいた存在だった。
人類圏では様々な考察がされたものだが、往々にして魔王とは残虐非道の異形な化け物として、書物に登場する。
子どもの本に出てくる魔王も総じて似たような性格と姿をしており、もはや人類の魂に刷り込まれている。
いくらこれまで嘘偽りなく、質問に答えてくれたヴァロウの口からであろうと、「はい、そうですか」と信じることは難しかった。
「もし、今の言葉が信じられないのであれば、この件については無回答としてください。事実、私は何も答えられていないのですから」
「いえ。興味深かったです。今の言葉を使っても、問題なければ記事にしたいと思っているのですが」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
1度頭を垂れた後、オルタンシアは告げた。
「最後の質問になります」
そしてインタビューは最後の質問に入る。
それはオルタンシア個人が許された質問であった。
「馬車の中で色々と考えたのですが、どうも思い付くことができませんでした。ですが、ここに来て、ようやく私の質問は決まりました」
「それは?」
「はい。尋ねします」
オルタンシアは質問する。
それを聞いたヴァロウの表情は、まるで田舎の青年のように純朴で、迂遠な言い回しを排除するのであれば、かわいい反応であった。
◆◇◆◇◆
インタビューは終わった。
オルタンシアは呆気なく魔王城から解放され、そしてあっさりと王都にある反政府系新聞社『シーク』に戻ってきた。
戻ってきたオルタンシアを見て、編集長兼社長は月並みにこう質問する。
「足はあるか?」
「そのつまらない質問がヴァロウ殿の質問の中になくて良かったです」
オルタンシアは肩を竦める。
一方、同じ反政府系の記者から英雄と称され、歓迎された。
ヴァロウから聞いた数々の質問に加え、ゴドーゼンの近く襲撃された事も付け加えた。
早速、新聞の作成が始まる。
どこから漏れたのか、オルタンシアが戻ってきたことを、政府も嗅ぎ付けたらしい。ヴァロウのインタビューについても、知っているようだった。
新聞の作成は『シーク』を中心にして、信頼できる者たちだけで作り上げた。
いよいよ刷り上がり、まず反政府組織を介して配布された。
さらに反政府に荷担する貴族に売り込み、さらに部数が増した。
驚いたのは商人たちだ。
新聞の内容を見て、売れると思ったのだろう。
政府系の御用商人を除いて、こっそり新聞を売りさばき始めた。
慎重に、さらに用意周到に新聞が配られる。
政府が気付いた時には、そのインタビュー記事は、王都では半数。地方都市では約7割の民衆の目に止まることになり、加えて大盛況だった。
記事のコンセプトは勿論、ヴァロウの淡々とした物言いはセンセーショナルではない分、逆に民衆の目には信頼を持って受け止められた。
これを気に反政府組織に入る者も増加する。
『リントリッド国王とヴァロウの対談を希望する』
という者まで現れた。
反政府運動は、異常なまでに加熱していった。




