第167話 過去の真実
ヴァロウは戦後処理に追われていた。
こっちの人員の被害は皆無に近く、魔族側の処理はすぐに終わったのだが、問題は人類側の受け入れ先だった。
生き残った7000人は、そのまま聖地で預かることになった。
さらに8割以上は、そのままアズバライト教の入信を希望している。
無論、故国に帰りたいという者も少なくはない。
だが、ヴァロウはその願いを拒み、こう説明した。
『故国に帰りたいというお前達の申し出はわかる。だが、残念ながらお前たちを人類圏に返すことはできない。何故なら、お前達はすでに死んだ人間だからだ』
ヴァロウはすでに聖地占領作戦部隊が全滅したという情報を、意図的に人類側に流していた。
その理由をこう告げる。
『人類圏にはまだお前たちの家族や親族がいる。仮にお前たちが生きて本国に帰り、聖地にその約8割の兵が残っているとしれば、必ず人類軍はその家族を盾にして内乱を誘発する可能性がある。だが、お前たちを全滅したということにすれば、人類側はそのカードを使用できなくなる』
それは苦渋の選択だった。
家族に会いたいがために故国に帰るのに、帰れば仲間の家族が危険にさらされる。
アジェリアと北の寒い領地が育てた兵士達の連帯感は強い。
もはや家族以上といってもいい。
そうして天秤にかけた後、兵士たちは結局帰郷を諦めずにはいられなかった。
結局、彼らも聖地ノースドームに残ることになる。
ヴァロウが人類圏に進出し、北辺境のブルデンを占領できれば、家族と会うこともあるだろう。
だが、それは同時に兵士たちにとっては、あまり歓迎されるものではない。
故にヴァロウはそれ以上の望みを話さず、この話は落着した。
一方でアジェリアやその近親者は、黒罪騎士となることを望んだ。
リーゼロッテやキッザニアの代わりだ。
それもあって、リーゼロッテも安心して、黒罪騎士を抜けることができた。
「ふう……」
ヴァロウはヘーゼル色の瞳を瞼の上から揉んだ。
目を落としていたのは、ルミルラやメトラ、リーアンたちが調査した人類軍7000人の調査票の一部である。
それをヴァロウが改めて精査し、選別していく。
人類側の間諜が紛れていないか確認するためだ。
全部を選別できるわけではないが、受け入れてくれるアズバライト教のためにも、出来る限りのことはしておきたい。
とは言え、7000人分だ。
調査してくれているメトラたちも大変だが、それに目を通し、何かおかしなところがないか確認するのは、なかなか骨のいる作業である。
いくらヴァロウが最強の軍師であっても、さすがに応えた。
「ヴァロウ様、少しお休み下さい」
絶妙なタイミングで、メトラが紅茶を差し出してくれた。
良い茶葉の匂いが、ヴァロウの鼻腔を突き抜けていく。
これだけで元気になりそうだ。
口を付けると、非常に繊細な味が広がっていく。
程よい熱さは疲れ切った身体に活力を与えてくれた。
「ありがとう、メトラ。お前も疲れてるだろうに」
「いえ。ヴァロウ様のご苦労を考えれば、このくらいどうということはありません」
すると、唐突にノックが鳴った。
ドアの奥からリーゼロッテとキッザニアの声が聞こえる。
入室を許可すると、黒罪騎士の鎧を着た2人が現れた。
表情は対照的である。
リーゼロッテは薄く笑みを浮かべていたが、キッザニアは緊張していた。
「なんだ?」
ヴァロウは軽く挨拶した後、早速尋ねた。
2人は目配せすると、まずキッザニアが前に進み出る。
「ヴァロウ殿――いや、ヴァロウ様。俺は第六師団の原隊復帰を請願に参りました」
キッザニアは頭を下げた。
「わかった。許可しよう」
「はやっ!!」
即答の切れ味に、キッザニアは驚く。
かなり緊張して望んだのだが、まさかこうもあっさりと許されると思わなかった。
「意外か? そもそも誘ったのはこっちからだ」
「ま、まあ、そうなんですがね」
参ったな、とばかりにキッザニアは頭を撫でる。
完全に調子が狂ってしまった。
「勇戦を期待する、キッザニア」
「はっ! ありがとうございます」
「感謝するのはこっちだ。第六師団は数こそ増えたが、人材難でな。だが、この寒い極北に来て正解だった。よもや2人の優秀な人材を見つけることができたのだからな」
「え? 2人?」
キッザニアは目を瞬かせる。
一方、ヴァロウが顎に手を当て、首を傾げた。
「なんだ、リーゼロッテ。まだ話してなかったのか?」
「うふふふ……」
リーゼロッテは野花のように笑う。
まさか――キッザニアは足を引いた。
「はい。そうですよ、キッザニア。私も第六師団でお世話になることになりました」
「な、な、な、なんですとおおおおおおおおおお!!」
キッザニアは絶叫する。
犬の遠吠えのようにノースドームに響き渡った。
「な、何を考えておられるのですか、リーゼロッテ様! 俺はともかくとして、何故あなたが魔族の軍に連ねるのですか? 魔族はあなたの家族や同胞の命を奪ったのですよ」
「それは紛れもない事実でしょう。ですが、真実は違います」
「どういうことですか?」
キッザニアは眉を顰める。
その疑問に答えたのは、ヴァロウだった。
「純血エルフの集落は襲われたのではない。襲わされたのだ」
「襲わされた……?」
21年前――。
当時の人類側の情勢は不安定なものだった。
寄り集まった国同士の意見も折り合わず、加えて種族間の対立も高まっていった。
ヴォロウも参加した獣人族との内戦も、ちょうどこの頃である。
人類圏が1つにまとまらない中で、欲していたのは、明確な悪だ。
人間を団結させるためには、1つの目標――敵が必要だったのである。
「その頃魔族側――主に独断専行が多かったゴドラムが率いる第六師団は、人類側の国境を度々越えては、集落を荒らし回っていた。そこでリントリッド本国はあることに目を付けたのだ」
つまりは魔族を仮想敵とし、人類の団結を促す構想である。
「そして、その生け贄となったのが――――」
「純血エルフ……」
キッザニアは声を絞り出す。
ヴァロウは頷いた。
「純血エルフはとても人族に人気の種族だ。その姿はミステリアスでありながらも、度々伝承や童話の中に出てくるほど根強い人気がある。彼らが魔族によって蹂躙されれば、とてもセンセーショナルな事件になる。少なくとも、当時膠着状態にあった魔族に対する反感が再燃することは間違いない」
それを狙った人類側は、魔族に襲わせるために純血エルフの集落の位置をリークした。おそらくゴドラムはこの時、漏洩した集落が純血エルフとは知らなかったと思われる。
「そして魔族は見事完遂した。自分たちが人類側の抗戦意欲を高めるための道具にされてるとは知らずにな」
「しょ、証拠はあるのですか?」
キッザニアは慎重にヴァロウに尋ねた。
「もう21年前のことだ。証拠はどこにもない。だが、貴重な純血エルフの近くに、集落を襲う魔族がいるとすれば、キッザニアならどうする?」
「むろん、軍隊を向かわせる」
「戦略が戦術に明るくない者でも、そう考える。だが、人類はそうしなかった。そこから推察されるのは?」
「我々は襲ったのではなく、襲わされた! 第六師団は、みすみす人類側の手の平の上で踊らされたということか……」
キッザニアは肩を落とし、愕然とする。
その大きな手に、ひんやりとした手の感触を感じた。
顔を上げると、リーゼロッテが懸命に笑顔を作っている。
「リーゼロッテ様……」
「今の話を聞いて、私は決断したのです」
「し、しかし! ダメです! リーゼロッテ様には危険すぎます!」
「危険は承知の上です。それでも私は真実を知らなければならない。そのために、ヴァロウ殿に同行し、見極めると決めたのです」
「ですが……」
「情けない顔をしないで下さい、キッザニア。……私を守ると、言ってくれないのですか?」
「――――ッッッッ!」
キッザニアは丸めていた背筋を伸ばす。
自分の手を握るリーゼロッテの手を逆に握り返すと、強く宣誓した。
「わかりました。どこまでもあなたにお供いたします」
こうして、キッザニアとリーゼロッテが、第六師団に入団することとなる。
ザガスと同等の力を持つ人鬼族キッザニア。
高出力の魔法でも自在に操る純血エルフのリーゼロッテ。
これほど、心強い援軍はいない。
だが、ヴァロウのヘーゼルの瞳は次の人材へと向けられていた。
本日コミカライズ『叛逆のヴァロウ』が更新されました。
【雷帝】発射、不死の軍団の精製によって絶対優位となったヴァロウに、
さらなる(可愛い)援軍が登場! 果たしてそれは一体??
ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカにて更新されております。
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